異形のファッション心霊映画
2017年06月13日
オリヴィエ・アサイヤス監督の『パーソナル・ショッパー』(以下『PS』)を見て、驚嘆した。鈍いインパクトが、見終わったあとも微熱のように体に残る、掛け値なしの傑作だ。
しかし『PS』は、昨年(2016年)のカンヌ国際映画祭で賛否両論を巻き起こした曰(いわ)くつきの映画で、私の周囲でも評判はあまり芳しくない。もっとも、『PS』の不評については想像がつくが、それについては後述。
――ヒロインのモウリーン(クリステン・スチュワート)は、多忙なセレブに代わって服や小物を買い付ける“パーソナル・ショッパー”としてパリで働いている。
いわば華やかなファッション業界の裏方的存在で、中性的な美貌のクリステン・スチュワートにぴったりの役柄だ。
そして、モウリーン/スチュワートのキャラクター設定がユニークなのは、彼女が“PS”であると同時に、霊能者/霊媒師である点だ(<霊媒(師)>とは、死者と生者の交信を媒介する能力をもつとされる、心霊術の術者。口寄せ。英語では<霊媒>はmedium(ミーディアム)だが、もともとそれは「メディア=媒介物、媒体」の意味)。
こうしたモウリーンのキャラクター設定ゆえに、『PS』は、ファッション業界の裏面を描くバックステージ/舞台裏ものというジャンルに、ホラーの要素を含む心霊映画というジャンルが接続されたフィルムとなっている。つまり『PS』では、二つのジャンルが混交しているわけだ。思うに、こうした作風を、噛み合わない異質なジャンルのミスマッチとして受けとめた観客が、この映画に戸惑い、拒否反応を抱いたのではないか。
むろん、どのような印象を持とうと、それは観客の自由である。が、少なくとも私は、二つのジャンルがみごとに接続された映画として『PS』を堪能した。そしてその印象は、二度三度と見返すたびに強まった(『PS』は眉間にしわを寄せて見る“お勉強アートフィルム”でも、理詰めで考え込みながら見る難解ミステリーでもないと思うが、どうもそういう風に鑑賞(!)されてしまった嫌いがある。まあ確かに、アサイヤスは説明的な描写を極力排してはいるのだが)。
したがって以下では、こうした二つのジャンルの接続/混交という点をふまえて、『PS』というフィルムを論じてみたい。
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