さかせがわ猫丸(さかせがわ・ねこまる) フリーライター
大阪府出身、兵庫県在住。全国紙の広告局に勤めた後、出産を機に退社。フリーランスとなり、ラジオ番組台本や、芸能・教育関係の新聞広告記事を担当。2009年4月からアサヒ・コム(朝日新聞デジタル)に「猫丸」名で宝塚歌劇の記事を執筆。ペンネームは、猫をこよなく愛することから。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
現代と中世を行ったり来たりのラブコメディに、桜木みなとが等身大で全力投球
宙組公演『パーシャルタイムトラベル 時空の果てに』が、宝塚バウホールで上演中です(6月20日まで)。主演の桜木みなとさんは、スターぞろいの95期生で、新人公演でも2度の主演を経験した宙組きっての若手スターです。
バウホール主演も2度目となった今回は、時空を旅するタイムトラベラーを等身大で演じます。人生を模索するストリートミュージシャンのジャンが、自分のファンだという女子大生テスに導かれた骨董屋で手にした謎の金属。実はこれがタイムマシンだった!? 自分の意志とは関係なく、過去と現代を行ったり来たりしながらさまざまな人と出会う、ファンタジック冒険ラブコメディです。
桜木さんは、笑ったり、悲しんだり、怒ったりと大奮闘で、喜怒哀楽豊かなキャラクターを、さわやかに、コミカルに演じています。現代の女子大生と中世の侍女を演じる星風まどかさんは、バウホール公演『相続人の肖像』に引き続き、桜木さんの相手役で、娘役ヒロインとしての成長を見せています。
フレッシュな2人で描くラブコメディは、笑いとほほえましさでバウ全体を包み込み、笑顔いっぱいの公演となりました。
桜木さん演じるジャンは、ジーンズに黒い革ジャケットを着た、街によくいるちょっとやさぐれた青年です。舞台に一人登場し、椅子に座ってギターを弾きながら歌っていましたが、やがて街の若者たちとケンカが始まりました。ジャンは元ギャングですが、今はストリートミュージシャン。なかなか思うようにいかない日々にいらだっていて、ケンカ三昧の毎日を送っていたのです。
清潔感あふれるルックスで、歌やダンスの実力も高い桜木さんは、スターがひしめく95期生の一人として、今、まさに華を咲かせています。少年のような若々しさもあって、とにかくさわやか。それでいて、『エリザベート』のルドルフ役では苦悩する繊細な二枚目も似合い、前回の宙組大劇場公演『王妃の館』では、さえないツアーコンダクターの役で、母性本能もしっかりくすぐっていました。今回はラブコメディということで、またもや桜木さんのチャーミングな一面が楽しめそうです。
――くすぶる毎日を送るジャンの前に、ある日、ファンを名乗る女子大生テス(星風)が現れた。誘われるまま連れられた骨董品屋で、なぜか気になった謎の金属を購入するが、触っているうちに意識を失ってしまう。目覚めた時、ジャンは目の前の風景に愕然とする。古びた装いの兵士が走りまわり、まるで中世のようだったからだ。事態が呑み込めないまま、追っ手から逃げ惑う伯爵令嬢のシャーロット(遥羽らら)を救い出したジャンは、令嬢一行から深く感謝され、神のようにまつりあげられるのだった。
突然、中世にタイムスリップしたジャンが右往左往する様子は、この設定のお約束ながら、やっぱり笑ってしまいます。スマホで写真を撮れば、画面に映し出された姿に中世の人々は大騒ぎ。ジャンは「魂を吸い取った」とはったりをかまし、たちまちスマホを魔法の武器に変えてしまいました。
やさぐれていたジャンが、中世では神になるなど、極端な環境の変化にも関わらず、どんどん乗っていく様子がおもしろい。やんちゃBOYな演技に桜木さんの等身大な魅力が発揮されています。
シャーロットの父モンタギュー(寿つかさ)が開いた歓迎の宴が、スローテンポで面白くないと、ジャンがみんなをリードして踊り出すのが見どころ。桜木さんが激しく踊る姿も新鮮で、ここはファンにとってもたまらないシーンでしょう。
◆公演情報◆
『パーシャルタイムトラベル 時空の果てに』
2017年6月9日(金)~20日(火) 宝塚バウホール
[スタッフ]
作・演出:正塚晴彦
公式ホームページ