霊媒としてのIT情報ツールなど
2017年06月15日
必見! 傑作『パーソナル・ショッパー』――異形のファッション心霊映画
『パーソナル・ショッパー』(『PS』)では、ファッション映画と心霊映画という二つのジャンルの接続は、携帯電話、パソコン、タブレット端末などのIT情報ツールを介してもなされる。もとよりIT情報ツールとは、人と人との通信手段であり、あるいは人が映像(動画・写真など)にアクセスする媒体だ。
さらに――かりに霊というものが存在するとしたら――、IT情報ツールは人と霊(もしくは生者と死者)とを媒介する、まさに霊媒/ミーディアムとなりうる機器であるが、それらは『PS』のドラマにとって不可欠な小道具だ。とりわけ、ある時からモウリーンの携帯電話(スマホ)にひんぱんに届く差出人不明のテキストメッセージ(以下、メッセージ)が、サスペンスを増幅する(謎の男unknownからの最初のメッセージがモウリーンに届くのは、買い付けでロンドンへ向かう彼女がパリの北駅でユーロスター――英仏間のユーロトンネルを通る特急列車――の乗車手続きをしている時だが、本作では列車、バス、乗用車、バイクなどの乗り物の走行感も快い)。
その男からのメッセージは、まるで近くからモウリーンの一挙一動を監視しているような内容で、モウリーンが「誰?」と返信すると「当ててみろ」とはぐらかし、彼女が思わず「〔兄〕ルイス?」と打つと、それはスルーされ、「まずは接触したい」と返信が来る……というように、二人のメッセージ交換はめまぐるしいテンポでなされるが、携帯/スマートフォンにしがみつき素早く画面をタップするモウリーンの姿は、その交信相手が正体不明である点を含めて、まさしく虚実ないまぜの情報環境を生きる、われわれ自身の表象でもあろう(その男からのメッセージで、モウリーンはキーラの服を試着するよう唆(そそのか)されて実行に移す)。
さらに、モウリーンが携帯やパソコンの動画サイトで、降霊術を特集した1960年代のテレビ番組を見るシーンに、目を見張る。『レ・ミゼラブル』などで知られる19世紀フランスの文豪、ヴィクトル・ユゴーに扮した役者らがテーブル・ターニング――霊媒たちがテーブルの上に手を置いて死者の霊を呼び寄せる「こっくりさん」――を行なう交霊会の模様を映す、キッチュだが変にリアルなその動画は、一種の映画内映画としても興味深い(ユゴーは一時期、イギリスのジャージー島に移り住み、降霊術にのめりこんだ)。
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