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【ヅカナビ】花組『邪馬台国の風』

賛否うずまく!?「でも、これぞタカラヅカ」

中本千晶 演劇ジャーナリスト


 6月2日に宝塚大劇場にて初日の幕を開けた『邪馬台国の風』が波紋を呼んでいる。通常、ツイッターなどSNSでの感想のやり取りは、これから観る人に配慮しながら遠慮がちにスタートすることが多い。作品を一刀両断するようなコメントは書きにくいものだ。ところが、この作品に関しては初日から率直なコメントが続出。近頃では稀にみる事態となった。逆にこうなると興味もわくというものだ。実際のところどうなのか?「百聞は一見に如かず」というわけで、6月13日、大劇場まで足を運んでみることにした。

 ところが、私自身はことのほか楽しめてしまった。これは気を使って言っているわけではない。いや正直に言うと観劇前には、何とか作品の良いところを見つけて「意外と見どころもある」などと言うつもりだった。だが、いざ幕が開くと終始のめり込んで観ることができたし、トップスターの明日海りおが演じるタケヒコも掛け値なしで魅力的だった。また、これは個人的な好みによるところが大きいが、結末がとても好きだった(私は愛よりも大義に生きる人たちの物語が好きなのだ)。

 演劇における好みは人それぞれであって良いと思うし、実際に観たら聞いていたのと印象が違うということもままあるものだ。むろん、この作品に批判的な人の気持ちも実際に観てよくわかった。果たしてこの作品は佳作か駄作か? 今回はこの場をお借りして一刀両断してみよう。

「女王・卑弥呼」をめぐる物語のはずが

 この物語の真の主人公はやはり「ヒミコ(卑弥呼)」なのだと思う。残された記録もあまりなく、その場所でさえも謎に包まれる邪馬台国の女王・卑弥呼。彼女をめぐる物語を、架空の人物も配しつつ美しくわかりやすく描いた。まさに古代ロマンである。

 「卑弥呼」といえば日本史の教科書でもお馴染み、名前だけは誰もが知っている。だが、茫漠としたイメージしか持たない人がほとんどだろう。その卑弥呼が、悩みながら生きる等身大の女性として描かれているのがこの作品の面白さであり、私はこの部分に引き込まれてしまった。新トップ娘役・仙名彩世はごく普通の少女マナが女王ヒミコとして成長していく過程を情感豊かにしなやかに演じてみせる。修学旅行生たちの頭にもきっと「女王ヒミコ」の名前と功績がしっかりとインプットされたに違いない。

 そのヒミコを命をかけて守りながらも、決して強引に自分のものにしようなどとはせず、あくまで彼女自身の宿命に従う後押しをしてやるタケヒコ。この、ありえないほどの理想の男性を、明日海は誠実な役作りで見せる。円熟期の男役ならではの包容力をいかんなく発揮できる役でもあり、その心根の優しさは明日海本来の持ち味にもぴったりはまっている。

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『タカラヅカ流世界史』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師、NHK文化センター講師。

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