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加藤和樹が主演舞台『罠』に3度目の挑戦!

全身全霊をかけて体当たりできる役

米満ゆうこ フリーライター


拡大舞台『罠』に出演する加藤和樹=安田新之助撮影

 ミュージカルをはじめ、ストレートプレイでも目覚ましい活躍を見せる加藤和樹。2009年、2010年と上演され、好評を博した加藤主演の舞台『罠』が再び戻ってくる。同作は1960年にフランスの劇作家・ロベール・トマが書き下ろしたサスペンス劇だ。新婚3カ月の加藤演じる主人公ダニエルと妻のエリザベートはとある山荘を訪れるが、エリザベートが突然、行方不明になってしまう。ダニエルは警察に捜査を依頼する。しかし、ある日、戻ってきた妻は、ダニエルの知らない女性だった。ダニエルはその女性が妻ではないことを証明しようとするが、ありとあらゆる罠が張り巡らされ、誰も信じてはくれない。加藤が西宮市内で会見を開き、登場人物6人のみでスリリングに展開する作品について、たっぷりと話してくれた。

大人の魅力みたいなものも出したい

記者:『罠』には今回で3度目の出演となりますね。

加藤:初演から8年を経て、再演を重ね、僕自身も今年で33歳になります。新たにダニエルをどう演じようかと楽しみにしています。演出の深作健太さんとどういう風に役作りをするか、方向性を決めていきたい。今回、初めましての方もいらっしゃいますし、初演でエリザベートを演じた白石美帆さん、再演で看護師のベルトンを演じた初風緑さんとまた、ご一緒します。新旧入り乱れたキャストが出演することで、新しい『罠』ができるのではないかと思います。何しろ、2時間ちょっとのギュッと濃縮されたサスペンス劇です。僕はほぼ2時間出ずっぱりで、水を飲む暇もないぐらいしゃべりっぱなしです。これだけ全身全霊をかけて体当たりできる役はなかなかないですので、三十を超えた自分がどう演じられるかも楽しみの一つですね。

拡大舞台『罠』に出演する加藤和樹=安田新之助撮影

記者:ダニエル役の面白さや難しさを聞かせて下さい。また、今回改めてどう演じていきたいですか。

加藤:ネタバレになるので深くお話しできないんですが、現時点で思っているのは、ダニエルの心情や動機をまた、洗い直しても面白いのではないかと。前回演じたときは20代の半ばでしたので、大人の魅力みたいなものも出せればいいかなと。余裕も。余裕なんてない役なんですけれど。

記者:初演と再演では何が印象に残っていますか。

加藤:初主演の舞台だったので、僕の中では特別な作品になりました。初演の稽古では、ずっと出っ放しで、セリフの数も膨大で、精神的に追い詰められる役ですので、人間不信に陥ったこともありました。役者というのは自分ではない人間を演じるのが仕事。フィルターを通すような感じで、嘘が必要な部分もある。演じているうちに、何が真実で何が嘘か自分の中でよく分かんなくなってきたんですね。そういう精神状態に陥ったときに、これがダニエルの心情かと思いました。自分と役の境がなくなるような感覚でした。あの精神状態に戻ると思うと、結構、苦しいんですが。その境地までいけたら、また新たに見えてくるものがあると思います。

記者:何が真実で何が嘘かというのは、今でも感じられているのですか。今回、3回目ですので、ご自身の中で腑に落ちている部分はあるのでしょうか。

加藤:今回、再度台本を読んで、思い出してくる部分もあります。結末を分かり切った上で、僕らは最終地点に向かっていくので、いかに騙して、騙されるかという緊張感を失くしたくはないですね。公演を重ねるごとに、慣れてくる部分もありますし、キャストが緊張感を作り出すことで、お客さんもその緊張感を感じていただければ。「誰が何言ってんの?」というぐらい、お客さんも混乱すると思うんですよね。真実はどこにあるのか、最後にその蓋を開けたとき、思わず息を呑んでしまう。それを知った上で、もう一回、頭から見たくなるような作品です。集中力と緊張力は途切れず持ちたいですし、一つひとつのリアクションを新鮮にしていきたいですね。

「深作さん、カメラ回ってないんですけど」

拡大舞台『罠』に出演する加藤和樹=安田新之助撮影

記者:加藤さんが初めて台本を読まれたときは、ご自身も罠にはまったのですか。

加藤:最後に「うわ! やられた! そういうことだったのか」と。気が付いたらもう一回、読み直していました。そのぐらい衝撃的な作品でした。人間って怖いなと。どういう目的を持って嘘をついていたのか、それが分かったときに、色んな感情が沸きあがってくるんですね。皆が皆、同じ方向性で騙し合っているわけではない。今、思い出すだけでも苦しいです(笑)。次から次へと新たな謎が生まれて、見るからに怪しい人も多い。いろんなヒントがちりばめられているんですけど、お客さまが考えている間に、次の問題が発生する。謎解きというわけではないですが、その波にお客さまがついてこられれば、自然に騙されると思います。

記者:セリフは叫ぶことが多いそうですね。

加藤:エネルギーを必要とします。ダニエルは黙っていられないタイプ。何かあったら、それに反応せずにはいられないエネルギッシュな役です。そこに彼自身の本質があるかどうかは分からないんですけど、人間は追い込まれたときに、そういう状態になるのかなと思いますね。

記者:『罠』で深作さんは舞台を初演出されました。映画監督でもある深作さんは最近、いろんな舞台を演出されてご活躍です。今回の演出については、深作さんと何か話をされましたか。

加藤:これだけの役者が揃っているので、セリフのテンポと言葉を大事に聞かせたいとおっしゃっていました。セリフの中にすごい情報量が入っている作品ですし、それを大事にしすぎると間延びしてしまったりする。何を聞かせて、何を捨てていいのかはっきりしないと、ズルズルといってしまうので、そこは稽古をしながらつかんでいきたいです。シンプルな舞台セットになると思いますので、その分、役者が見せなくてはならない。そこはプレッシャーですね。僕の役は、初共演の筒井道隆さん演じる(ダニエルを追い詰める)カンタン警部とのやり取りが非常に多い。そこの関係性を上手く作っていければ、より深みがでるかと思いますね。

記者:深作さんの演出の仕方はどうですか。

加藤:役者目線になって、一緒に考えて下さいます。自分の意見を押し付けるのではない。前回、舞台の演出が初めてで、「よーい、スタート。カット」と言われたのがめちゃくちゃ面白かったです。「深作さん、カメラ回ってないんですけど」と言いました(一同笑)。

役者としてやり続け、表現し続けるしかない

拡大舞台『罠』に出演する加藤和樹=安田新之助撮影
記者:加藤さんは最近もシェイクスピアの『ハムレット』に出演されていましたし、ストレートプレイでもご活躍です。ミュージシャンでもありますが、何年か前のインタビューを拝見したら、「僕は演劇のことはあまり分かっていない」と話されていました。今はいかがですか。

加藤:ずっと分かんないと思います(笑)。結局答えは出ないだろうと思いますし、役者としてやり続けること、表現し続けることしかない。僕は白井晃さんに言われた、「僕ら世代はある意味、演劇をぶち壊した部分がある。お前ら世代がそれを直していかなければいけない」という言葉が印象に残っています。やり続けることに意味があると思いますし、若いお客さまにも2・5次元の舞台だけではなく、『罠』のように上質で純粋なセリフ劇を見ていただくことで、こういう作品もあるんだということを、僕らがもっともっと発信していかなくてはいけないと思いますね。

記者:純粋なセリフ劇の魅力は何でしょう。

加藤:ごまかしがきかないところ。とても怖いものでもありますが、役として芯が通って最後まで舞台に立てたときに、何ともいえない達成感や、その役としてもっと立っていたいなという瞬間があるんですよ。いつも『罠』のカーテンコールでは腰が抜けたように放心状態です(笑)。そこまで打ち込める作品に出会えるのも魅力です。救いがないと思うほど間違えられない。ミュージカルとはまた違いますね。『ハムレット』もそうですが、テンポがすごく大事。ミュージカルは歌が始まると、お客さまの気持ちもそこに入って持っていかれますけれど、セリフだけでテンポを持っていくと、お客さんがうまく乗れなかったりする場合もある。空気が「あれ?」という方向になるときは、舞台の上でもひしひしと感じますし、何か間が悪いなという場合は、役者だけではなく、お客さまの呼吸やリアクションを感じながら演じないとダメです。そこはすごく難しいところですね。初演のときはまったくそんな余裕はなかったですね(笑)。

記者:お客さんが「うわっ、騙された!」という反応も、舞台から感じられましたか。

加藤:そんな余裕はなかったです。おそらく、今回もないと思います(笑)。

記者:お話をうかがっていると、嘘で固められているストーリーのようで、言っていることは全部嘘と思ってセリフを聞いてしまいそうです(一同笑)。真実はどこかにあるんですか?

加藤:あります、あります。確かに、「皆、嘘ついているんじゃない?」と感じると思いますよ。ダニエルもそうなっちゃう。何も信じられなくなる。ダニエルとお客さまの心情がシンクロすると思うんですよ。行方不明になった奥さんが帰ってきたものの、全然違う人物になっている。翻弄されるのはダニエルで、お客さまはダニエル目線になると思うんです。一方、物語を知ってから見ると、その行動にはそういう意味があったんだと、辻褄が合うと思います。

記者:台本を読んでから舞台を見たほうが、今、ここにいる私たち記者は気持ちが楽ではないかと思います(一同笑)。

加藤:人によるとは思いますが、知らないほうがドキドキ感がありますよ。

記者:結末の行方は観客にそれぞれ委ねられるということではないのですよね? 犯人はしっかりと決まっているのですか。

加藤:はい(笑)。最後までどう転ぶか分かりません。最後の最後まで罠が仕掛けられています。そんないっぱいの罠はやめてと思いますよ(笑)。

記者:加藤さんが最初に読まれたときは、犯人は最後まで分からなかったのですか?

加藤:全然、分かりませんでした。

記者:最初の段階で、犯人が誰か分かる観客もいるみたいですよ。

加藤:サスペンスが好きな人は、「ああ、こういうパターンね」と思うかも知れません(笑)。そこを限りなく分からないように、怪しくないように演じなければいけない。皆、怪しいんすけど(笑)。でも怪しい行動が端々に見える瞬間、その行動に意味があることも随所で見せていきたいですね。僕は若いときからサスペンスやミステリーが好きでよく読んでいるんですが、どんでん返しと分かり切っていても、結局最後には騙されるんですよね(笑)。

記者:いい人なんですね。逆にこの舞台を経験したことで、人の騙し方が分かるようになりましたか(笑)。

加藤:ないですね(笑)。騙されるほうが得意です。サプライズにもよく引っかかるんです。素直といえば素直ですし、バカといえばバカです(笑)。ひん曲がって何かあるんじゃないかということはあまり考えない。素直に物語の中に入っちゃう。でも、初めから「これ、怪しいな」ではなく、何も考えずに、物語の中に入っていくことによって見えてくるものもあるんです。

言葉を伝えるのが僕の仕事

拡大舞台『罠』に出演する加藤和樹=安田新之助撮影

記者:今回、3回目ですが、加藤さんが騙されることの鮮度も期待したいです。

加藤:また、普通に騙されると思うんですよね(笑)。メンバーも変わっていますし、その中で作り出される空気感、緊張感は前回とは違います。その中に素直に身を投じようと。初演の後は人の目を見られなくなったことがあって。どうせ、言葉と心が裏腹なんだろうとうたぐって、完全に被害妄想なんですけど(笑)。もうそこまでにはならないとは思いますが。

記者:どんな役でも抜けきれないものなのですか。

加藤:僕、割とセリフは残っちゃうんですよ。終わったらすっぱり忘れるという役者もいると思うんですけど。僕は残るタイプです。役を引きずっているわけではないですが、自分の中でまたやりたいなという気持ちがあるのでしょうね。愛着が残ります。

記者:ミュージシャンとしても役者としても「言葉を届ける」ことを大切にされているそうですね。

加藤:言葉が聞こえないって一番ダメだと思うんです。言葉を伝えることが僕の仕事ですから。歌でもお芝居でも普段の会話でも何を一番伝えたいのか、目的を持って話さないといけないと思います。芝居や歌で、何を言っているか分からないことはありますよね? すごく大事なセリフが聞き取れなかったりとか。逆にテンポだけで大切なセリフが入ってこないとか。テンポの中にも言葉を聞かせる。言葉が届かないと芝居として成立していないと思うので、そこは気を付けたいですね。兵庫県立芸術文化センターは聞こえすぎるぐらい、言葉が響くんです。ウィスパーでも声が届く。声が通らない劇場もありますからね。ダニエルとして、初演、再演でもがむしゃらにぶつかったので、その気持ちを忘れずに頑張ります。どうぞ騙されに来てください。

◆公演情報◆
舞台『罠』
2017年7月13日(木) 亀有・かめありリリオホール
2017年7月15日(土)~16日(日) 兵庫・兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール
2017年8月8日(火)~15日(火) 東京・サンシャイン劇場
[スタッフ]
作:ロベール・トマ
演出:深作健太
[出演]
加藤和樹、白石美帆、渡部 秀、初風 緑、山口馬木也、筒井道隆
公式ホームページ

筆者

米満ゆうこ

米満ゆうこ(よねみつ・ゆうこ) フリーライター

「三度の飯よりアートが好き」で、国内外の舞台を中心に、アートをテーマに取材・執筆。ブロードウェイの観劇歴は20年以上にわたり、ブロードウェイの劇作家トニー・クシュナーや、演出家マイケル・メイヤー、スーザン・ストローマンらを追っかけて、現地で取材をしている。

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