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『チック』

本邦初演! 児童文学をもとにしたロード・ムービー風舞台

世田谷パブリックシアター提供


拡大『チック』に出演する、(左から)柄本時生、篠山輝信、土井ケイト、あめくみちこ、大鷹明良

――小さい頃から、父さんに世の中は最悪で、人間はみんな最悪だって聞かされていた。もしかしたら、それもあっているかもしれない、99%の人間が最悪なのかもしれない。でも、不思議なことに、チックと俺は旅で最悪じゃない1%の人に出会った――

 ミリオンセラーを誇るドイツ児童文学賞受賞小説『Tschick』を舞台化した『チック』は、14歳の冴えない少年マイクとロシア移民の転校生チックの2人の少年が、夏休みに盗んだ車で旅をするというロード・ムービーさながらの物語です。2011年にドイツで初演、翌シーズンではドイツ国内で最も上演された舞台作品となり、現在でもなお上演の度にチケット完売が続くなど、大成功を収めています。また16年には同原作の映画版がドイツにて封切られ、いよいよ9月には日本で公開されます。ドイツで火がつき、今や世界を巻き込む勢いの少年2人の物語が、8月にシアタートラムにて本邦初演を果たします。ドイツ出身、期待の“ネクスト・ジェネレーション”小山ゆうなが翻訳・演出を手掛け、14歳の少年を柄本時生、篠山輝信が演じます。

『Tschick』児童小説から舞台、映画へ

 原作は2013年に早世した才能あふれるドイツの作家ヴォルフガング・ヘルンドルフにより書かれた、児童文学『Tschick』。2010年、ヘルンドルフが自身の病気を知った直後に執筆・出版された本作は、一躍旋風を巻き起こし、ドイツ国内で一年以上にわたりベストセラーを記録、220万部以上を売り上げました。ドイツ児童文学賞などを受賞し、日本でも13 年に『14歳、ぼくらの疾走:マイクとチック』(小峰書店)という邦題で出版されています。現在は26カ国で翻訳され、まさに世界中で愛されている小説です。

 舞台版は2011年末にドイツ座とドレスデン州立劇場にてほぼ同時期に初演、瞬く間に評判を呼び、2012-13年のシーズンでは29のプロダクションにより上演され、述べ764回の公演数を記録。ゲーテ、シラー、シェイクスピア作品を上回り、そのシーズンの最多上演作品となりました。さらに2013-14年は計954回、2014-15年は計1,156回と、シーズンごとの公演数は驚異的な伸びを見せました。現在でも、ドイツ座を始め様々な劇場で上演されており、チケットの入手が難しい評判作として知られています。

 また、原作の映画版『Tschick』(原題/監督:ファティ・アキン)は昨年ドイツで封切られた後、世界各国で公開され、いよいよ日本でも『50年後のボクたちは』という邦題で9月16日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほかにて全国順次公開されます。

 ドイツでは刑事罰にあたらない最後の年齢である“14歳”特有の思春期の悩み、複雑な家庭環境、そして世界が抱える移民問題をも映し出す、普遍的でありながらも同時代作品ならではの刺激に満ちています。

この現代社会でどう生きるのか、美しい言葉一つ一つにヒントが

◆『チック』上演に向けて ― 小山ゆうな(翻訳・演出)

 2010年に脳腫瘍が見付かり、2013年に48歳で自らの命を絶ったヘルンドルフは、病気がわかった直後に『チック』を書いた。その6年前に、短編として書いた作品を長編にのばしたものものだが、強く死を意識したヘルンドルフは何故この14歳の少年二人の物語を書いたのか。14歳という良い事も悪い事もビビットに感じられ、様々な事が凝縮される時期の少年達を通して、社会の一般常識やルールがいかに、その枠から外れてしまった者にとって残酷か、本当に大切な事を見失わせる可能性を秘めているかを描いた事が多くの人の心をとらえ、国をこえ、時代をこえ、本だけで26カ国語に訳され、演劇もドイツではやられていない公共劇場は無い程の広がりを見せている。

 チックは、ロシアからの移民だ。ロシア帝国時代に耕地開拓の人員確保の為にドイツから誘致されたドイツ人の子孫で、その多くがスターリン時代には中央アジアに追放され、戦後はドイツに帰国したが、二世、三世はドイツ語が出来ず、ドイツでも厳しい環境におかれた。チックはそんなドイツパスポートを持つドイツ系ロシア人で、社会と政治的歴史に翻弄された内の一人なのだ。とはいえ、14歳のチックはその事を悲観する事なく、ただ生まれつきそうだった現実として受け入れている。しかし彼に与えられた環境が彼を孤立させている事は間違いなく、ドイツには多くのこのような厳しい環境に身を置く移民がいる。ロシアとドイツの歴史については、別の登場人物である、ナチス時代の元軍人フリッケによっても語られており、大きく変化をしていくドイツの政治的スタンスが多くの人の人生を翻弄し決定付けていく現実を浮かび上がらせている。

拡大『チック』のポスター
 本作品にはこのようなドイツの重い歴史を背景としたエピソードもあるが、重い歴史が中心的テーマにはならず、あくまで当たり前の事として存在し、きっと誰もが共感出来るエピソードを積み重ね、その中で人々が生きている姿を描き、その事が他にありそうでないこの作品の魅力となり、様々な賞を受賞し高い評価を受ける作品とさせている。ドイツの全国紙フランクフルターアルゲマイン紙にも、作中の「50年後どうなってるんだろう」という台詞にかけた洒落たレビューとして「50年後も読まれる作品」と載った。

 戯曲版を書いたロベルト・コアルは、ルネ・マグリット的なユーモアと哲学に満ちた絵を描く画家でもあるヘルンドルフが既成概念にとらわれない自由な表現を好んだのと同様に、原作の言葉を崩さずに半分以上一人称で語られる、作り手に表現を委ねる形で戯曲化している。今回、この委ねられている部分を、どのような想像力と遊び心で表現し、まさに今の日本で上演する『チック』にしていく事が出来るかが鍵となる。

 14歳のチックが古いロシア車ラーダ・ニーヴァを盗んで(本人いわく借りて)マイクを誘いに来る。そして二人は旅に出る。

 複雑に絡み合い、真実や大切な事を見失いそうになる現代社会で、どう生きるのか、死を意識したヘルンドルフが、正に疾走する少年達に重ねて、生きる事について全エネルギーを注いで紡ぎだした美しい言葉一つ一つにヒントが見いだされ、日本のお客様の心をとらえるものとなる事を祈っている。

10代を通り過ぎてきた大人だからこその感性で表現

◆『チック』演出について

 14歳の少年が主人公の児童文学を原作とする『チック』ですが、決して子どもだけに向けた作品ではありません。

 誰もの琴線に触れるストーリーとともに、本国ドイツでのロングランには、14歳の少年を20代、30代の俳優が演じるという舞台ならではの演出が作品の魅力を高めています。14 歳という年齢は特別な意味を持っています。それは、もっとも多感で様々に葛藤する年頃であり、またドイツでは刑事罰が適用されるちょうど境目の年齢だということです。大人と子どもの境界にある思春期を、あえて大人の俳優が演じる演出により、実年齢の俳優では表現できない複雑さとユーモアを付与し、大きな共感をもたらしています。

 日本初演の今回も、少年2人と彼らに関わる謎の少女などの子どもたちをあえて“大人”の俳優で上演します。懐かしくも胸が痛く、熱くなるような疾走感に満ち溢れた思い出の 10代を、そこを通り過ぎてきた大人だからこその感性で表現することで、作品をより魅力的に構築していきます。

 また少年たちが旅先で出会う複数の大人は、少年マイクの父と母を演じる俳優があえて演じ分けます。“大人”のネガティブなイメージが反映されている両親たちと、見知らぬ少年に手を差し伸べる風変わりだけど親切な人たち、というダブルミーニングのような意味合いをもたせ、より舞台ならではの演出を駆使して物語を表現していきます。

 少年2人が乗り込むオンボロなラーダ・ニーヴァに観客も乗り込み、2人と一緒に旅に出て、そして彼らの目を通してひと夏の旅を体験していくような、子供が楽しめる、そして大人だからこそ楽しめる舞台を目指します。

【ストーリー】
――チックがいなかったら全て、決してこの夏に体験できなかった。めちゃめちゃいい夏で、最高の夏だったと思った――

 マイク(篠山輝信)は14歳、ベルリンのギムナジウムに通う8年生。アルコール依存症の母(あめくみちこ)と、その母と喧嘩ばかりで家庭を顧みない父(大鷹明良)、そして気になる女の子だけでなく誰からも見向きもされない、あだ名もつけられない退屈な学校生活……“出口なし”の日常に嫌気がさしている。

 ある日そんな生活に大きな風穴をあける、転校生チック(柄本時生)がやってくる。彼はロシアからの移民らしく、風変わりで得体のしれない雰囲気をかもしだしている。夏休みが始まり、いつにも増して最悪な気分のマイクの元に、チックは突然車を乗りつけてきた。

― どっか連れて行こうか? 乗れよ ―

 チックいわく“借りた”というオンボロなラーダ・ニーヴァ(ロシアのSUV)に乗り込み、チックのおじいさんが住んでいるというワラキア(ルーマニアの地方、またはドイツ語で「僻地」という意味)を目指し、2人だけの旅が始まる。

 見知らぬ大家族の家で味わう見たことも聞いたこともないけど“めちゃめちゃ美味い”料理、ゴミ山で出会う格好は汚いけど利発な少女イザ(土井ケイト)、いきなり銃撃してきたあとに昔話をするフリッケじいさん……旅先で出会う、一癖も二癖もある人たち。チックとマイクは、旅の中で、これまで見えていた世界とは違う新しい景色と出会っていく。

◆公演情報◆
『チック』
2017年8月13日(日)~8月27日(日) 東京・シアタートラム
2017年9月5日(火)~6日(水) 兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
[スタッフ]
原作:ヴォルフガング・ヘルンドルフ
上演台本:ロベルト・コアル
翻訳・演出:小山ゆうな
[出演]
柄本時生、篠山輝信、土井ケイト、あめくみちこ、大鷹明良
主催=公益財団法人せたがや文化財団
企画制作=世田谷パブリックシアター
後援=世田谷区
協賛=トヨタ自動車株式会社/東邦ホールディングス株式会社/Bloomberg
協力=ドイツ文化センター/東京急行電鉄株式会社
公式ホームページ

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