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【ヅカナビ】雪組公演『幕末太陽傳』

名トップコンビの集大成が、落語・映画をタカラヅカに繋げる

中本千晶 演劇ジャーナリスト


 早霧せいな・咲妃みゆの雪組トップコンビ時代がいよいよその幕を下ろそうとしている。加えて鳳翔大、香綾しずる、桃花ひな、星乃あんり、蒼井美樹ら、これまで雪組を支えてきた個性的なメンバーも併せて卒業する。暑さ真っ盛りの東京宝塚劇場が、さらなる熱気を帯びている。

 常に明るくパワー全開、でもその芝居では繊細な感性を発揮する早霧せいな。クールな美貌と高い身体能力に恵まれた早霧には、近ごろ話題の2.5次元作品もよく似合い、『ルパン三世』『るろうに剣心』などでも話題を振りまいた。

 傍に寄り添うのは、タカラヅカの娘役らしい可憐さと天性の演技力とを併せ持った咲妃みゆ。どちらかというと「陰」の魅力を持つ咲妃は「陽」の早霧をいっそう輝かせ、でも逆に早霧の存在によって彼女自身の芝居もさらに味わいが増した。互いの魅力をより引き立て合えたという意味でも、この二人は間違いなく近年を代表する名コンビといっていいと思う。

 そのサヨナラ公演で上演されたのが『幕末太陽傳』である。「えっ、これをタカラヅカで?」と映画好きな方は意外に思われただろう。青天姿の早霧佐平次がニカッと笑うポスターは一般的なタカラヅカのイメージとはあまりにかけ離れていて驚かれた方もいるかもしれない。

 正直「せっかくのサヨナラ公演なのだから、タカラヅカの王道作品で二枚目な早霧さんを見たかった」という向きもあるだろう。だが、この変化球的な作品を敢えてこのトップコンビのサヨナラ作品に選んだところに、私は心意気を感じるのだ。

映画『幕末太陽傳』の世界を忠実に再現

 この作品は映画『幕末太陽傳』の舞台化である。伝説の名作として映画ファンの間では知られる作品だ。監督の川島雄三は「鬼才」とうたわれたが、1963年に45歳で早世してしまったという。

 主人公はフランキー堺演じる佐平次だ。これをタカラヅカでは早霧が演じる。時は幕末、明治維新の直前。品川の遊郭「相模屋」で繰り広げられる人間模様を面白おかしく描く。高杉晋作(映画では石原裕次郎、タカラヅカ版では望海風斗)ら長州藩士一行も登場する。

 タカラヅカ版ではこの映画をびっくりするほど忠実に再現した。冒頭の軽妙なナレーション、洒落た音楽の使い方なども映画そのままだ。唯一、結末だけが映画と少し違うが、これがまたタカラヅカらしくて気持ちがいい。このトップコンビのサヨナラに相応しい締めくくりとなっている。

 そもそも演出家の小柳奈穂子氏の大変な思い入れが舞台化の発端だったようだ。このためプログラムのコメントにもひときわ熱がこもっている。「宝塚では川島雄三的なるものが求められているわけではないという当たり前の事実に気づいて愕然としながらも、『川島監督だって色々な作品を撮ったんだ』と思えば試行錯誤すらも何だか楽しかった」とあるが、敢えて舞台化を決断した劇団もアッパレである。

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『タカラヅカ流世界史』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師、NHK文化センター講師。

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