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スタジオライフ倉田淳×山本芳樹インタビュー/上

三島由紀夫作『卒塔婆小町』を男優のみで上演

岩橋朝美 フリーエディター、フリーライター


拡大倉田淳(左)と山本芳樹=伊藤華織撮影

 三島由紀夫が、能の名作群を現代に舞台を置き換えて翻案した『近代能楽集』。その中から幾度となく舞台化されてきた人気作品『卒塔婆小町』が、男優だけで構成される劇団スタジオライフによって上演される(8月17日〜9月3日/新宿シアターモリエール)。

 『卒塔婆小町』は、日本では世界三大美女のひとりとして名高い小野小町と、彼女に恋して百夜通いし、百夜目を前に命を落としたという男の伝説をモチーフにした物語。夜の公園で醜い老婆に出会った若き詩人。昔は小町と呼ばれ、私を美しいと云った男はみんな死んでしまったと、華やかな鹿鳴館での思い出を回想する老婆の話に、彼は次第に引き込まれていく。夜の猥雑な公園から優雅な鹿鳴館へ、醜い老婆から若く美しい女性への転換をどう見せるかが、演出と芝居の見せどころだ。

 また、『卒塔婆小町』の本編とは別に、深草少将の百夜通いのエピソードを描いた、上演時間約30分のオリジナル作品『深草少将の恋』を同時上演。深草少将や小野小町の心情を歌で表現する試みで、『卒塔婆小町』の理解を一層深める狙いだ。

 『卒塔婆小町』本編(上演時間:約1時間)は3チームによる上演で、そのうち2チームで老婆(小町)を演じるのが山本芳樹。前2作では少年役を演じた山本が、今作では99歳の老婆と絶世の美女をどう演じわけるかが見どころだ。また、同時上演の『深草少将の恋』では、曲を書いたそうだ。そんな新境地の期待が高まる山本と、演出家の倉田淳に話を聞いた。

『卒塔婆小町』は理屈を超えて一番好きな作品

――普段からおふたりでお話しされることはあるんですか?

倉田:いえ、全然ないです。

山本:ふたりきりで、というのはないですね。稽古場でも飲みの席でも、大勢いる中で少し話すぐらいですね。

――そうなんですね。それでは、今日は貴重なおふたりのお話を伺えればと思います。まずは作品の『卒塔婆小町』の魅力についてお聞かせください。

倉田:「演劇集団 円」に在籍していた頃に、『卒塔婆小町』は長さがちょうどいいので、よく勉強会の教材に使われていたんですね。そして、私の師匠の芥川さん(「演劇集団 円」創設者の芥川比呂志氏)の最後の作品が、同じく三島由紀夫の『近代能楽集』の『道成寺』で。芥川さんの泉鏡花作品や三島由紀夫作品からは美学の薫陶を受けていて、とても惹かれていたのですが、今までは怖くて手が出なかったんです。凄すぎて。でも、自分もずいぶん年をとったし、これからはやり残してきたことをやっていかないと時間がなくなってしまうと思って、「えいやっ!」と飛び込みました。

――『近代能楽集』の中から『卒塔婆小町』を選んだ理由とは?

倉田:情念の世界が渦巻いていて、汚いを綺麗といい、美が醜になるという究極のパラドックスの世界があって、『近代能楽集』の中でも一番好きな話なんです。それと、百人一首の小野小町の歌「花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに」をなぜかよく覚えていて。昔から、百人一首かるたをすると、私が必ずその札をとっていたんです(笑)。その小野小町の伝説をもとに書かれた作品なので、親しみもあるし、いろんなことがフィットしたんですね。理屈を超えて一番好きな作品です。

新たな挑戦、身がキュッと引き締まりました

拡大倉田淳=伊藤華織撮影
――山本さんは『卒塔婆小町』の主人公・老婆を演じられますが、いつ頃『卒塔婆小町』のお話をお聞きになったのですか?

山本:最近ですよ。作品にもよりますけど、1年も2年も前から作品が決まることはめったになくて、とくに最近は新作のスケジュールが詰まっているので、自分の出演を知るのがお客さんと同じぐらいのタイミングということもよくあります。この作品もそれに近いですね。

倉田:『THE SMALL POPPIES』(6月~7月に上演)の稽古が始まった直後ぐらいかな?

山本:そうですね。

倉田:みんな外部出演もある中で、どうやってバランスをとっていくかもあるので。実はこの作品は、昨年の秋に文化庁文化芸術振興費補助金を申請していて、申請が通ったんですね。ですから、自分の心の中では、芳樹くんと徹ちゃん(倉本徹)で上演しようと決めてはいたんです(笑)。でも、誰かにだけ言ってしまうとよくないので、タイミングを計っていて。

――山本さんは、最初に話を伺った時にはどう思いましたか?

山本:痺れましたよ。ライフが三島作品をやることにも、その中でも『卒塔婆小町』をやることにもビックリしました。今まで上演してきた作品とはまた違う作品なので、劇団として、個人として、どのように作品に参加できるかなと思いました。

――『卒塔婆小町』は以前から作品には親しんでいたんですか?

山本:詳しく読み込んでいたわけではないですが、先ほど倉田さんもおっしゃっていましたが、新劇や研究所を経験してきた人は、テキストとして触れることが多いんですね。ですから、新たな挑戦だなと身がキュッと引き締まりました。

――私は老婆役が山本さんと倉本さんのWキャストと伺った時に、『大いなる遺産』でおふたりが演じられたミス・ハヴィシャムがすぐに頭に浮かびました。

倉田:あぁ、そうですね! 今、気がつきました。

――山本さんと倉本さんのハヴィシャムからインスパイアされたというわけではないんですね。

倉田:はい、ふと閃くものがあって……。怨念や情念を出してくれる人となると、このふたりになってしまうんですね。

倉田:本読みで「それは違う!」、山本:稽古場の状況が想像できます

拡大山本芳樹=伊藤華織撮影
――『卒塔婆小町』は、現実と過去を行ったり来たりし、夢か現(うつつ)かが次第にあいまいになっていく独特の世界観が魅力だと思います。稽古では、その世界観を醸し出すことに腐心されていると聞きました。

倉田:若い子たちが、渋谷にいるような男の子や女の子になってしまっていて。日本語の話し方が今風なんです。三島の文体はきちんと話さないと良さが伝わらないんですね。まずはきっちりした日本語を話してほしいので、本読みの段階で「それは違う!」と細かく言っています。いつもはすぐ立稽古に入るんですが、今回はずっと本を読んでいます。

――山本さんはまだ稽古には入られていないんですよね?(インタビュー時現在)

山本:はい、今違う作品に入っているので。ただ、もちろん本は読んでいます。三島の文体は独特で、単語や言葉の吐き方も違うので、今稽古場がどんな状況かは想像がつきます。若い子たちがどんな状況になっているか……。

倉田:アハハハ。

――役者さんたちには、作品の世界観をつかむために、昔の日本映画を見るように伝えているとか。

倉田:『卒塔婆小町』が書かれたのが1952年で、そこから鹿鳴館の時代に飛び、さらに根源へ飛びます。ですから、まずは1952年の昭和の時代にはどんな日本語が使われていたかを、小津安二郎の映画を見て学んでと言っています。それと、三島の『鹿鳴館』がDVDになっているので、役者たちに回しています。日下武史さんのセリフの落とし方を見ておいてって。

◆公演情報◆
スタジオライフ公演『卒塔婆小町』
《同時上演『深草少将の恋』》
2017年8月17日(木)~9月3日(日) 新宿シアターモリエール
[スタッフ]
『卒塔婆小町』
作:三島由紀夫
演出:倉田淳
『深草少将の恋』
作・演出:倉田淳
[出演]
山本芳樹、関戸博一(「深縹」チームのみ)、仲原裕之、宇佐見輝、若林健吾、千葉健玖、江口翔平、吉成奨人、倉本徹(「蘇芳」チームのみ)、藤原啓児 ほか
公式ホームページ
〈倉田淳プロフィル〉
東京都出身。1976年、演劇集団「円」演劇研究所に入所。第1期生。芥川比呂志に師事。氏の亡くなる1981年まで演出助手をつとめた。1985年、河内喜一朗と共にスタジオライフ結成、現在に至る。劇団活動の他、1994年より西武百貨店船橋コミュニティ・カレッジの演劇コースの講師を務めた。また英国の演劇事情にも通じており、その方面での執筆、コーディネーターも行っている。
〈山本芳樹プロフィル〉
兵庫県出身。劇団の作品を中心に、客演として外部の舞台にも多数出演している。スタジオライフでの主な出演作品は、『トーマの心臓』『エッグ・スタンド』『PHANTOM THE UNTOLD STORY 語られざりし物語』『THE SMALL POPPIES』などがある。

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筆者

岩橋朝美

岩橋朝美(いわはし・あさみ) フリーエディター、フリーライター

映画関連のムック・書籍の編集に携わった後、女性向けWEBメディア・Eコマースサイトのディレクションを担当。現在はWEBを中心に、ファッション・美容・Eコマースなど多様なコンテンツの企画、編集、取材、執筆を行う。また、宝塚やミュージカルを中心とした舞台観劇歴を生かし、演劇関連の取材や執筆も行う。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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