岩橋朝美(いわはし・あさみ) フリーエディター、フリーライター
映画関連のムック・書籍の編集に携わった後、女性向けWEBメディア・Eコマースサイトのディレクションを担当。現在はWEBを中心に、ファッション・美容・Eコマースなど多様なコンテンツの企画、編集、取材、執筆を行う。また、宝塚やミュージカルを中心とした舞台観劇歴を生かし、演劇関連の取材や執筆も行う。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
三島由紀夫作『卒塔婆小町』を男優のみで上演
――『卒塔婆小町』をスタジオライフで上演する意味とは?
倉田:虚構の世界を作るぞ!と思っているわけではないのですが、虚構の究極にいきたいなと思っています。
山本:老婆は歴代の怪優たちが演じて来た役ですが、スタジオライフは劇団なので、プロデュース公演とは違う雰囲気が出るんですね。劇団ではないとできないものになると思うんです。常套的ではないキャスティングで、何が生まれるのかはやってみないとわかりませんが、劇団ならではの魅力は出せるかなと思います。
――今回は3チームでの上演で、そのうちの2チームで山本さんが老婆役を演じられます。相手役の詩人には、中堅の関戸博一さん、若手の宇佐見輝さんがあたるので、まったく違う化学反応が生まれそうですね。
倉田:絶対そうだと思います。宇佐見君は今伸び盛りなので、ここで大いに刺激を与えて、引っ張っていってもらいたいなと思っています。相手役から受けることがどういうことかを感じてほしいです。
――今回の3チームの配役の意図は?
倉田:詩人はとてもナイーブな人だと思うんですよ。そこを追求していくと、この3人(関戸博一、仲原裕之、宇佐見輝)になりました。老婆は芳樹くんと徹ちゃんでは全然違うものになると思うんですね。それぞれが、自分の中に眠っているものが覚醒してきたら面白いなと思います。あとは感覚です。芳樹くんが老婆なら、彼と彼にしよう!って。ただ、宇佐見くんに関しては、芳樹くんにどんどんノックしてもらいたいですね。心の扉を。
――山本さんは、次回作の『はみだしっ子』も含めて、今年のスタジオライフの新作4作すべてにメインどころで出演されます。今のお話を伺っていても、倉田さんは山本さんに全幅の信頼を寄せていらっしゃるんだなと感じます。倉田さんにとって、改めて山本さんはどんな存在でしょうか。
倉田:改めて言うのはちょっと恥ずかしいですが、イメージを具象化してくれる大事な役者さんです。私の頭の中にあることを単に形にするのではなくて、自分の中に根っこを生やしながら構築してくれるので、すごく頼りにしています。だから、こんなにね、全部に出てもらって(笑)。
――それほど信頼されているから、稽古場で山本さんとともに作り上げる部分が大きいんですね。
倉田:彼も思いを持ってくるので、それをやってみてフィットしなければ、すり合わせていきます。もう、つきあいが長いからね。
山本:僕も今回の役に関しては、とくに手探りですね。
倉田:ゴールは幕が開く日なんですが、山も頂上というゴールに向かってさまざまな道があるように、舞台もいろんな道があるんですね。こっちの景色がいいかもと寄り道したりしながら、山を登っていく感じなんです。
――山本さんは、以前のインタビューで、スタジオライフに長く在籍している理由は「倉田さんが好きだから」とおっしゃっていたのが印象に残っています。
倉田:あぁ、うれしい!
――今日のお話を伺っても、根本的な部分で倉田さんと山本さんは通じ合うものがあるのかなと思いました。
山本:僕はそれについて言える立場ではないですが……(笑)、倉田さんがおっしゃるように、本当につきあいが長いので。最初から、こういう関係ではなかったと思いますよ。
――長年の間に、関係性は変わりましたか?
倉田:「きっとやってくれるだろう」から、「絶対やってくれる」に変わりました。20年前にユーリを初めて演じた時は、若かったですしね。あまりにもつきあいが長くて、いつからそう思ったかは覚えていないけれど。
――山本さんの最初の印象は?
倉田:それはもうやんちゃでした。
山本:それはやんちゃですよ。二十歳そこそこですから。
――山本さんは入団と同時にユーリを演じられました。
倉田:その頃、スタジオライフは児童劇をやっていて、そちらに出演していたんですね。
山本:そうです。19歳ぐらいから。
倉田:『ごんぎつね』とか『鶴の恩返し』とか。
山本:神戸の震災の年の舞台で、役者の人数が足りないということになって、旅回り班から本公演に客演という形で出演したんです。
倉田:可愛い女の子の役でね。
山本:その後、スタジオライフの『TAMAGOYAKI』に出演したりして。『トーマの心臓』初演は出演していなかったんですけど、再演から出演して入団したんですよね。
倉田:やってくれるかなと思って、ユーリをやってねっていいました。でも、大変だったよね。
山本:あの分量を演じる体力もスキルも経験値もなかったので、3時間と長い作品の真ん中を演じるのは大変でしたね。あれがやっぱり糧になっていて、今の僕を形成している何割かを占めていると思います。当時は意識していなかったけれども、作品を背負うという責任を体験して、作品を1本生きることはどういうことかを、作品と役が体に刷り込んでくれたと後々わかりました。あの時は本当に大変でしたけどね(笑)。深夜まで稽古して。
倉田:当時は深夜稽古が当たり前でしたね。
◆公演情報◆
スタジオライフ公演『卒塔婆小町』
《同時上演『深草少将の恋』》
2017年8月17日(木)~9月3日(日) 新宿シアターモリエール
[スタッフ]
『卒塔婆小町』
作:三島由紀夫
演出:倉田淳
『深草少将の恋』
作・演出:倉田淳
[出演]
山本芳樹、関戸博一(「深縹」チームのみ)、仲原裕之、宇佐見輝、若林健吾、千葉健玖、江口翔平、吉成奨人、倉本徹(「蘇芳」チームのみ)、藤原啓児 ほか
公式ホームページ
〈倉田淳プロフィル〉
東京都出身。1976年、演劇集団「円」演劇研究所に入所。第1期生。芥川比呂志に師事。氏の亡くなる1981年まで演出助手をつとめた。1985年、河内喜一朗と共にスタジオライフ結成、現在に至る。劇団活動の他、1994年より西武百貨店船橋コミュニティ・カレッジの演劇コースの講師を務めた。また英国の演劇事情にも通じており、その方面での執筆、コーディネーターも行っている。
〈山本芳樹プロフィル〉
兵庫県出身。劇団の作品を中心に、客演として外部の舞台にも多数出演している。スタジオライフでの主な出演作品は、『トーマの心臓』『エッグ・スタンド』『PHANTOM THE UNTOLD STORY 語られざりし物語』『THE SMALL POPPIES』などがある。