2017年08月01日
そんな問いを胸に、私は、いわゆる「妊活離婚」した男性に話を聞きに行くことにした。前回(「[19]燃え尽きて……妊活後に中絶、そして離婚」)紹介したハナさんも含め、これまで主に女性側の話しか聞いてこなかったからだ。
意外にも、取材を応諾してくれる男性がなかなか見つからなかった。女性はこちらが拍子抜けするほど簡単に取材を受けてくれる。しかし、一見、癒えたように見える心の傷が完治していない女性は多く、何かの拍子でその瘡蓋(かさぶた)がめくれてしまうと、激しい怒りを露わにし、取材者である私にもぶつけてくることがままある。一方、男性は、理性的に判断して引き受ける方が多く、感情でものを訴えることはあまりないと感じた。
だが、この“性差”が妊活中の夫婦のすれ違いを生み、ハナさんのように離婚に至ってしまうのだから、なんとも皮肉なものである。
ハヤトさん(仮名=45歳)が妻と別居したのは、2015年のことだ。
「結婚生活は完全に破綻していましたが、『離婚』という言葉を口にするのが怖くて、引き延ばしてしまった感じがします。今になってみると、どちらが悪いというのでもない。むしろ僕の方が罪を犯している。でも、離婚に踏み出せなくて、2年間、彼女は棒に振った。お互い人生の再スタートをきるためにも、何かしらの結論を出す時だと思っています」
ハヤトさんは淡々と話した。
始まりは、結婚して数年経ったころだった。妻から、
「うちもそろそろ子どもつくる努力しない?」
というメールが勤務中に来たのだ。職場では別の部署に異動したばかりだったが、あまり深く考えることなしに「そうだね」と、気軽にメールを返した。妻は4歳年下。結婚するまで3年間交際し、「そろそろ、決めないとマズイかな?」という感じでプロポーズした。もちろん、一緒にいることが自然だと思える相手だと感じたからだ。
「彼女は34歳で結婚したのですが、『どうせ結婚するならもっと早くプロポーズしてくれれば良かった。そうしたらもっと早く妊活出来たのに』と、妊活中は、随分、責められました。僕としては、『そんなこと今言われたって……』と唖然としましたが、まあ思うように妊活がいかなかったので、口にはしませんでしたが」
と、ハヤトさんは振り返る。
「妊活宣言」のメールがあった晩、帰宅すると、妻は夕食の支度もそこそこに「妊活本」をリビングに山と積んで、読みふけっていた。妻は優しくて一途なタイプだが、他人に影響されやすいという一面を持っていた。
「その日、大学時代の友人とランチ会があったらしいんです。場の話題がお受験一色だったらしく、妻は口を挟むこともできなかったとこぼしていた。このままでは皆の会話についていけなくなるかもと……」
彼女は焦っていた、とハヤトさんは振り返る。
まだ妊娠すらしていないのに、妻は、「●●小学校に入れるにはA幼稚園がいいみたい」、「B幼稚園はカトリック枠があるらしく、××初等部にもその枠が有利に働くみたい。わたしたち、先に洗礼を受けた方がいいかな?」
と、ハヤトさんが口を挟む間もない勢いで話し続けた。
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