真名子陽子(まなご・ようこ) ライター、エディター
大阪生まれ。ファッションデザインの専門学校を卒業後、デザイナーやファッションショーの制作などを経て、好奇心の赴くままに職歴を重ね、現在の仕事に落ち着く。レシピ本や観光情報誌、学校案内パンフレットなどの編集に携わる一方、再びめぐりあった舞台のおもしろさを広く伝えるべく、文化・エンタメジャンルのスターファイルで、役者インタビューなどを執筆している。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
劇団スタジオライフ、制作発表会見レポート
劇団スタジオライフが10月20日から東京芸術劇場シアターウエストで、三原順原作の『はみだしっ子』を上演する。『はみだしっ子』は1975年から1981年まで雑誌「花とゆめ」に連載されたマンガ作品で、熱狂的なブームを巻き起こした。親に見捨てられた4人の少年たちの心から発せられる言葉の数々は、時代を超えてもなお、今の社会を生きる大人たちの心に深く鋭く入り込み、たくさんの気づきを与えてくれる作品だ。スタジオライフでは2001年10月に『Sons』を取り上げて以来、16年ぶりの三原作品上演となる。
その制作発表会見が開かれ、演出家・倉田淳と三原順と同じ年にデビューした元マンガ家、笹生那実の対談が行われた。笹生は、マンガ家引退後に三原作品のファンの立場から、三原順の単行本未収録作品の刊行を求める活動をしている。対談の様子と出演者のコメントを紹介する。
◆倉田淳×笹生那実、特別対談
倉田:まずは、三原順さんとの出会いについて聞かせてください。
笹生:三原さんがデビューした直後の1973年3月に横浜で出会いました。「別冊マーガレット」のマンガスクールの投稿者たちを集めた勉強会があって参加していたんです。そこへ、主催者の方が刺激になるだろうと三原さんを呼んでくださって。まだ三原さんは20歳だったのですが、現れた三原さんはグレアムみたいに大人っぽくて礼儀正しい方で、外見はとても小柄でサーニンとマックスを混ぜたような可愛らしい雰囲気の方でした。私たちにとっては、とってもきれいな絵を描く憧れの方で、スケッチブックに絵を描いてもらいました。
倉田:いろんな方から三原順さんはとても可愛らしい方と聞きました。ヘビースモーカーだったようで、北海道から上京する際は大きな黒いトランクを持ち歩き、いつも帽子をかぶっていらしたと伺いました。少し話がそれますが、今回の上演にあたってトリプルチームの名前を考える時に、三原順さんというと、たばこと黒いトランクと帽子だ!と思って、この3つのアイテムを使わせてもらおうと決めたんです。劇団の若い子が流行りの(?)ローマ字3文字にしてくれて、TRK(トランク)、TBC(たばこ)、BUS(帽子)チームになりました。
笹生:そのマンガスクールの投稿者の中に、くらもちふさこさんもいらっしゃいました。くらもちさんは1972年、高校2年生の時にすでにデビューされていたのですが、まだ勉強会へいらしてたんです。三原さんとくらもちさんがすぐ仲よくなられて、私は三原さんより5カ月後にデビューしたのですが、私も一緒に仲良くさせていただきました。三原さんが上京した時はくらもちさんの実家に泊まっていて、横浜に住んでいた私をいつも呼んでくれていたんです。
倉田:1975年から81年まで続いた『はみだしっ子』の魅力はなんでしょう?
笹生:当時、高校生の少女の恋愛ものが主流で、少年たちが主人公というのは珍しかったんです。三原さんは、鬱屈した子どものころの思いを忘れずにいた方だと思うんですね。恵まれた環境にいる明るい子でもツライことはツライんですよね。視野が狭くて経験が少ないから、ほんの小さなことでも落ち込んだりすると思うんです。『はみだしっ子』は実際につらい経験をしている子どもたちが描かれていて、恵まれている子どもたちが読んでも共感できる、とても深いところを描いている普遍的な作品でそこが魅力だと思います。少年たちの4人のキャラ分けもとても魅力的ですよね。
倉田:それぞれグレアム、アンジー、サーニン、マックス、個性的な4人ですね。三原先生を例えると…。
笹生:最初に会った時はとても礼儀正しい方でグレアムみたいだなと思ったのですが、お話していくと、アンジーみたいにちょっとイジワルなところもあって…。くらもちさんがふーちゃん、私がなおちゃんと呼ばれていたのですが、初期の頃の作品に、“ふー、なお、××”(悪口)って落書きをされていました(笑)。
倉田:深い言葉が随所にでてくる三原作品。詩人ではないかと思うのですが、『はみだしっ子』に限らず、三原順ワールドの魅力は?
笹生:三原順さんは哲学者のようですよね。当時、大人気作家で、『はみだしっ子』の連載中は大ブームを起こしていました。まず惹きつけられるのは、描かれる少年・少女たちが美しく可愛らしいというところ。そしてお話の内容はとても深く、後期には重厚で長編の作品になって、『Sons』はとても読みごたえがあり、素晴らしい終わり方でまとめられています。主人公の人生そのものを経験させてくれるような作品です。『はみだしっ子』を気に入られたなら、ぜひ読んでほしいのが『ロング アゴー』です。初めて読む三原作品にもおすすめです。短編もとても素晴らしい作品がたくさんあります。話の作り方がとても上手ですし……三原作品の魅力は尽きないですね。
倉田:人を見極める、突き詰める目を、どこで培われたのかと思います。
笹生:ほかの方には真似できない、生まれ持ったものだと思います。魂の底から出てくるものなんだと思います。
倉田:格好をつけたり、ウケを狙って描くという次元ではなく、まさしく魂からの言葉だと思います。舞台にさせていただくのが怖いなとも感じています。そんな魂からの言葉を描いている三原作品が今の私たちに必要だと思ったのはなぜなんでしょう?
笹生:人間社会の闇の部分まで容赦なく教えてくれるというか、読むだけで社会の荒波にもまれるのと同じ効果があるというか…。大人の世界も子どもの世界もいろんなことがあるんだという社会の真実を容赦なく読ませてくれます。つらい思いをしている子どもが読んで救われることもあると思います。アダルトチルドレンという言葉がない時代に描かれている作品なんですよね。
倉田:そうですね、まだアダルトチルドレンという言葉はなかったですね。その中でこの世界を描かれていたんですね。劇団員も原作にアプローチをしていますが、やはり孤独や人間関係の中で起きる痛みなどにシンパシーを感じずにはいられないと言ってます。子どもを主人公に描いていますが、社会の縮図ですよね。会社や生活の中で孤独を感じることはあって、そんな中で共感する言葉や掛けて欲しい言葉がたくさんあります。
笹生:子どもが抱えている言葉にできない感情を、マンガでセリフとして子どもの心を代弁しているんです。
倉田:さらに子どもの枠を外して神髄にたどりついているので、大人が読んでも共感するセリフがたくさんあります。今も三原作品の熱烈なファンの方々や、三原作品を人生のバイブルのように思っている方がたくさんいらっしゃいます。
笹生:絶対、埋もれてはいけない作家だと思います。未来永劫、読み続けられていく作家だと思っています。
倉田:今回の舞台化にあたって、どのように感じていらっしゃいますか?
笹生:とてもうれしいです。5歳児をどうやって表現するんだろうと不安な方もいらっしゃると思いますが、原作は原作、舞台は舞台と別物として見られるところが、かえって良いのではと思います。以前、アニメ化の話があった時に、マンガと似てしまうのでそれはちょっと嫌だなと思ったんです。三次元で作品の魂をしっかりと表現してくれるのを楽しみにしています。
倉田:あまりにも高い山でどうやってのぼって行こうかと思っています。魂の言葉がちりばめられています。その言葉についていって、欲張らずにダイジェストにはせず、丁寧に……。そしてシンプルが信条ですので、シンプルな舞台を作り、観客の皆さんと子どもたちの心の奥底へ一緒に入っていける作品を作りたいと思います。
◆コメント
倉田淳(演出):奥が深い世界を大事に取り組ませていただきます。三原ワールドのファンの方々を裏切らないようにしたいと思います。スタジオライフとマンガ作品との出会いは萩尾望都先生の『トーマの心臓』でした。それからいろんなご縁をいただいて、マンガ作品の舞台化にアプローチしています。その中の『訪問者』に出てくるオスカーという少年の“神様に自分は許されているのか、許される子どもになりたい”というその思いを大切にしていて、『はみだしっ子』に出会ったとき、この4人も許される子どもになりたいという思いがあるんだなと、読み進めていくうちに心が傾いていきました。彼らの中にある孤独を見つめると、痛いけれども知的だし、その痛さがこの物語の魅力だなと思っています。そこに真摯に向き合いたいと思います。殺伐とした今の世の中、三原先生の力を借りて『はみだしっ子』を上演することで、子どもたちの思いや子どもたちが感じていること、求めていることを一緒に考えていただける入り口の一つになれたら、今、この時代に上演する意味につながるのかなと思います。生き続けている作品だと思いますので、大事に向き合わせていただきたいと思います。
仲原裕之(TBCチーム/グレアム役):原作を読んで、これを体現するには山は高いなと感じています。不安ですが役者冥利に尽きる作品です。劇団一丸で取り組まないと三原先生の思いに届かないなと思いますので、劇団でしか出せない血より濃い絆で取り組みたいと思います。グレアムの過去に何があったのかを大切にアプローチしていきたい。なぜ家を出ないといけなかったのか、なぜ傷を抱えて十字架を背負って旅をしないといけなかったのか。原作を擦り切れるまで読んで、グレアムの記憶が自分の記憶になるまで落とし込んで高めて演じたいと思います。
久保優二(BUSチーム/グレアム役):原作を読んで感じたことを一番大事にし、稽古に取り組みたいと思いますし、みんなとのコミュニケーションも今まで以上に必要になるだろうと感じています。誠心誠意、がんばります。
松本慎也(TBCチーム/アンジー役):マンガという表現方法をはるかに超えた、哲学的で奥深く悲痛な人間ドラマが描かれているなと感じました。アンジーが抱える心の闇、3人との固い絆、彼らの心の叫びを生身の人間として、板の上で心を動かしてぶつけ合って表現したい。三原先生が原作で描きたかった思いをみんなで共有し、そして演劇作品として皆さまに楽しんでいただける作品になるよう、真摯に取り組んでいきたいと思っています。
宇佐見輝(BUSチーム/アンジー役):えぐる表現もありますが、深くてとても素敵な作品だと感じました。この作品の輝きを見に来てくださる皆様にお届けできるよう、一丸となってお届けしたいと思います
緒方和也(TRKチーム/サーニン役):サーニン役の中で僕が一番おじさんで(笑)、ほかの二人はとてもかわいらしい顔をしているので、これからどうやってかわいくなっていこうか……不安ではありますが、がんばります!
澤井俊輝(BUSチーム/サーニン役):心のかさぶたを剥がされたようなヒリヒリとした痛みを感じる作品だと感じています。その痛みをサーニンに寄り添って真摯に丁寧に演じていけたらなと思っています。
千葉健玖(TBCチーム/サーニン役):素敵な言葉がたくさんあるのですが、原作の絵、特に目から伝わってくるものが強く印象的で、その印象を舞台に立って皆さまにお伝えできればと思っています。
若林健吾(BUSチーム/マックス役):マックスは僕が持っていない深いものを抱えています。原作に描かれている、絵、字、言葉を大切にしないと僕にはできないと思いますので、原作をしっかりと読み、みんなと大切にやらせていただきたいと思います。
田中俊裕(TRKチーム/マックス役):原作を読んで一番に、マックスは甘ったれだなと感じましたが、読み進めていくうちに他者から愛されたい、他者を愛することを願うと言いますか……。そういった子ども独特の素直な気持ちを突き詰めていくと、こういう風になるんだなと感じました。それを体現できるように努めたいです。
伊藤清之(TBCチーム/マックス役):マックスと同じ、僕も劇団の中で一番下で不安もたくさんありますし、人生経験も少ないです。けれど、頼れるお兄ちゃんが11人もそろっていますので、がんばりたいと思います。
記者:『はみだしっ子』ファンの方で、スタジオライフを初めてみる方へメッセージを。
松本:一番お伝えしたいのは、皆さまに比べてまだまだ浅いですが、僕たちが三原先生の描かれる世界のファンであり、愛していて、作品に描かれている思いをリスペクトしていること。ファンの方々と同じ思いと熱意をもって舞台作りをしていきます。ともに三原先生の思いを共有し、同じ空間で作品を作っていけたらと思っていますので、ぜひ怖がらずに(笑)見にいらして下さい。どうなるんだろうという心配もあると思いますが、皆さまの想像力と僕たちの団結力で成立します! 男が女性役も演じますし、5歳にも7歳にも8歳にもなります。僕たちを信じて見に来ていただければ思っています。
※TRKチーム/アンジー役の山本芳樹とグレアム役の岩﨑大は欠席
◆公演情報◆
スタジオライフ公演
舞台版『はみだしっ子』
2017年10月20日(金)~11月5日(日) 東京芸術劇場シアターウエスト
※公式ホームページ先行オンライン予約は8月20日(日)まで。
[スタッフ]
作:三原順
脚本・演出:倉田淳
[出演]
山本芳樹、岩﨑大、松本慎也、仲原裕之、緒方和也、宇佐見輝、澤井俊輝、若林健吾、久保優二、田中俊裕、千葉健玖、伊藤清之/曽世海司、船戸慎士、牛島祥太、吉成奨人、鈴木宏明、前木健太郎/藤原啓児
公式ホームページ
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