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『人間風車』に主演、成河インタビュー/上

「僕の話を聞いて欲しいし、あなたの話を聞かせて欲しい。そのために演劇はある」

中本千晶 演劇ジャーナリスト


拡大成河=宮川舞子撮影

 『人間風車』に出演する成河に話を聞いた。『人間風車』(作・後藤ひろひと)は、愉快な前半から残酷な後半への展開がまるでジェットコースターのようなホラー作品だ。1997年の初演が注目され、2000年、2003年と再演、そして今回、14年ぶりにまた趣を変えての新演出が上演となる。この作品で成河は、売れない童話作家・平川を演じる。

 このところ話題作への出演が目白押しで、一作ごとに強烈な足跡を残してきた成河。それだけに、聞いてみたいことも山のようにあった。案の定話は尽きず、それでも時間が足りないほど。『人間風車』という作品の魅力の本質、『エリザベート』や『子午線の祀り』を経て考えたという日本のミュージカルの課題、さらには大好きな低温揚げトンカツへのこだわりまで、まさに舞台上の縦横無尽な彼のごとく振れ幅の広いインタビューとなった。

何も考えずドラマに没入したい『人間風車』

拡大成河=宮川舞子撮影
――このところ『グランドホテル』や『エリザベート』などに出演され、すっかりミュージカル俳優としても知られるようになった成河さんですが、『人間風車』では久々に昔されていたような小劇場演劇に戻られることになりますね。

 そうそう! 僕にとっては本当に懐かしい世界です。この何年かはミュージカルが挟まってきたことで、演劇にとってどうあるべきかということをごちゃごちゃと考えてきましたけど……。

――それを経て、この作品をやるという事は?

 演劇の未来をがむしゃらに考えていた自分からちょっと解放される部分があります。自分の中の初期衝動に突き動かされてやっていた頃のお芝居に近いですから。

――「初心に帰れる」という感じですか?

 「初心に帰る」というとちょっと違うのですが、何も考えずにドラマに没入してみようかなという感じはあります。

――なるほど……。

 翻訳劇ではない、日本人の書いた純日本的な心理劇ですから。しかも現代の話ですし、ごちゃごちゃ考えずに、そのまま飛び込んでいい世界なのかなと。

――成河さんが演じられる主人公、本を出していない童話作家の平川さん。どんな人物だという風に捉えてらっしゃいますか?

 「純粋な故に狂気に走る」なんてことを言うととても簡単に聞こえますけど、至って普通の人物ですよね。この作品に出てくる人たちには特別な人はひとりももいなくて、僕たちが日常生活で出会う全ての人たちのドラマ。だから共感してしまうし「痛い」とも思うし、ぐっさぐさ思い当たってしまうところがたくさんあります。

グロい芝居をあえてやる意味とは?

――そういう人たちがあんな恐ろしいことになってしまうところが怖いですよね。

 ですよね。僕も最初見たときに思ったのですが……グロテスクな表現が、しんどいわけですよ(笑)。

――やる方も?

 「グロテスクな表現をする」ことについてはずっと考えましたし、今も考えてます。元々リアルでグロテスクな表現がそんなに好きじゃなくて。好きじゃないと言いつつ、何だか見ないといけないような気がして舞台やドラマは見ていましたけど、「なんでそんなことするの?」とずっと疑問でした。

――そう。『人間風車』に関しても何となくグロい話らしいという噂は広まっているんです。

 「なんでグロい話をわざわざ見なきゃいけないの?」ですね。

――……という風にちょっと抵抗感を覚えていらっしゃる方もいるみたいなのですが。

 それは大丈夫です。やる方も覚えてますから。

――(笑)

 問題は、でも人はそれをやるし、見るんですよ。「怖いもの見たさ」と言うとすごく簡単だけど、僕はやるからにはもうちょっと突き詰めて考えたい。「どうしてグロテスクなものを見たりやったりするのか」をずーっと考えていて、今、ひとつ仮に出している答えは「訓練ではないか」ということです。

――訓練?

 代わりにやってあげるんですね。この作品に出てくるような人はどこにでもいるし、登場人物の間にある心理的な矢印も日常至る所に存在する。でも、誰もあそこまでのことはやらない。それを代わりにやってあげるんです。じゃあそれは何のためか? 日常生活に帰ったときに「あそこまでやらなくていいか」と思えるための訓練かなと(笑)。

――なるほど! 犯罪予防効果もありそう。

 もし、逆にお客さんに「いや、現実はそんなに甘くないよ」とか、「いやいや俺の恨みはそんなものじゃない、そんなに簡単には浄化されないよ」と思われたら、この作品は大失敗ということになります。

拡大成河=宮川舞子撮影
――そうですね……。

 だから、お客さんをドン引きさせなきゃいけない。それで「うっわあ〜〜なんでここまで……」ぐらいのことをやる。でもそれはお客さんにとって、客観的に見たときの自分自身の姿でもあるわけですよね。

――やる方は大変ですね。

 でも、それがきっと役に立つと思うんですよ。「代わりにやってくれてスカッとした〜」でもいいし「スカッとしたからもういいや」となってくれれば十分です。あるいは、何十年も抱えた恨みがあった人に「もういいのかな」と思ってもらえるとかね。グロテスクなものを見せるということに意味を見いだせない限り、やる方はしんどくてしょうがない。

――(笑)

 だからやっぱり僕はその意味が知りたいんです。それがわかったらやれると思うから。だったらあなたの代わりに傷つきますし、人を恨みますし、事件を起こします。そんなつもりで、とことん自分を痛めつけてやろうと思える。

――平川さんが爆発させてしまう感情は多分誰の中にでもあるものだから、それをあえて見つめてみることは、お客さんにとっても意味があるかもしれないですよね。

 本当にそうです。つまりこの作品、娯楽としての演劇と日常生活に役立つ演劇とが奇跡的に融合しているんです。昔はもっと分かれてて、それを「ふざけんな!」って言ってアングラの人たちが色々実験して、一度ぎゅっと混じって混じって、何となく純粋に混じった時代の演劇なのかなと思います。

――確かに、そういうお芝居ってあまりないかも。

 それが今またちょっと分かれちゃってる。でも、この作品は娯楽として見に来たらカウンターパンチをくらわされますし、何かをしっかり受け取ろうと思って来たら、意外とすごく楽しませてもらえる。

――何だかしんどいだけの劇かと思っていたのですが、そうではないのですね(笑)。

 だから、そんな意味がないことはやりたくないよ〜〜!

◆公演情報◆
PARCO & CUBE 20th. present『人間風車』
2017年9月28日(木)~10月9日(月・祝) 東京・東京芸術劇場プレイハウス
2017年10月13日(金) 高知・高知県民文化ホール・オレンジホール
2017年10月18日(水) 福岡・福岡市民会館・大ホール
2017年10月20日(金)~22日(日) 大阪・森ノ宮ピロティホール
2017年10月25日(水) 新潟・りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場
2017年10月28日(土) 長野・ホクト文化ホール・中ホール
2017年11月2日(木) 宮城・電力ホール
[スタッフ]
作:後藤ひろひと
演出:河原雅彦
[出演]
成河、ミムラ、加藤諒、矢崎広、松田凌、今野浩喜、菊池明明、川村紗也、山本圭祐、小松利昌、佐藤真弓、堀部圭亮、良知真次
公式ホームページ
〈成河プロフィル〉
東京都出身。大学時代より演劇を始める。近年の主な舞台出演作品は、『子午線の祀り』『髑髏城の七人Season花』『わたしは真悟』『エリザベート』『グランドホテル』『スポケーンの左手』『100万回生きたねこ』『アドルフに告ぐ』など。2018年1月からは、舞台『黒蜥蜴』への出演が決まっている。2008(平成20)年度文化庁芸術祭演劇部門新人賞受賞、第18回読売演劇大賞 優秀男優賞受賞。
公式ホームページ

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『タカラヅカ流世界史』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師、NHK文化センター講師。

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