カンヌ一極集中に対する老舗映画祭の新しい方向
2017年09月26日
1990年代あたりから、世界の映画祭はカンヌへの一極集中が進んだ。一番効率よく世界に売るために誰もがカンヌを目指すようになった。カンヌと共に3大映画祭として知られるベネチアやベルリンには巨匠の作品が集まりにくくなり、それぞれが明確な個性を出すよう迫られた。ベネチアは、その会期半ばに始まるトロント国際映画祭がビジネスの場として重要視され始めたこともあり、2000年頃から次第に二つの作戦を取った。
まず第一はアメリカのアカデミー賞の前哨戦の役割を果たして話題を集めることであり、第二は社会派やアート系の突出した作品を揃えることである。
さらに今年は新しい要素を加えた。VR(ヴァーチャル・リアリティ=仮想現実)部門を設けて、世界初のコンペを行ったことだ。これは、伝統的な「映画館ファースト」主義を掲げてネットフリックスを批判した今年のカンヌ国際映画祭に対する挑戦状と言えるかもしれない。
数年前からベネチアは、アカデミー賞で話題になりそうなアメリカ映画の秀作をトロントに先駆けて上映することに力を入れてきた。最近だと『ゼロ・グラビティ』(アルフォンソ・キュアロン監督)や『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督)、『ラ・ラ・ランド』(デイミアン・チャゼル監督)、『スポットライト 世紀のスクープ』(トム・マッカーシー監督)などが初上映されて話題を呼び、アカデミー賞につながった。
今年の金獅子賞を受賞したギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』や脚本賞のマーティン・マクドナー監督・脚本の『スリー・ビルボード』(こちらはその後トロントで観客賞も)は、間違いなくアカデミー賞の最有力候補だろう。
そのほかジョージ・クルーニー監督の1959年を舞台にした痛快な風刺劇『サバービコン』やダーレン・アロノフスキー監督がジェニファー・ローレンスを主演に据えたホラー『マザー!』、アレクサンダー・ペイン監督の辛辣なSF『ダウンサイズ』などもアカデミー賞をにぎわしそうだ。21本のコンペのなかにここまでアカデミー賞を取りそうなアメリカ映画を入れ込んだのは今年が初めて。これまで『ゼロ・グラビティ』や『スポットライト』はベネチアではコンペ外上映だったが、今年は大胆にすべてをコンペに集めた。
ディレクターのバルベラ自身は「我々が選んだ映画がアカデミー賞を取るようになって、アメリカのマーケットの中でのベネチア映画祭の位置が根本的に変わった」と述べて、むしろアメリカ側の希望であるとしているが、実際はベネチアがかつての栄光を取り戻すための手段として取り入れている感じが強い。
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