『逃げるは恥だが役に立つ』が受けて、牛乳石鹼のCMが物議をかもした理由
2017年09月28日
その中に出てくるメッセージはこんな言葉だ。
「逃げよう。自分を縛りつけるものから。ボーダーを超えよう。塗り替えていこう。自由と平和を愛し、武器は、アイデアと愛嬌。バカにされたっていい。心をこめて、心を打つ。さあ、風通しよくいこう。私たちは、新しい地図。」
ぱっと見て、ここに描かれているものは、抑圧からの解放、そして前を向いて新しく進んでいくことであると誰もが気づくだろう。概ね、このメッセージ自体にネガティブなことを感じた人は少ないのではないかと思う。
そして、このメッセージがまっすぐ受け止められるには、それなりの背景があると考えられる。それぞれが自分の生きている環境に閉塞した空気を感じ取っていて、そんな状況を変えたいと思っているからこそ響くのである。これが、別の空気の漂う時代だったら、同じように共鳴することはなかっただろう。例えば、バブル期だったら、3・11の後であったら、と考えると、人に響くメッセージは違っていただろう。
また、「武器はアイデアと愛嬌」というのも、昨今の状況をとてもよく表していると感じた。なぜなら、なにかを縛っているものから逃げ、そこから新しいことをするときに「アイデア」は最も重要なものであるし、新しいことに突き進もうとするとき、保守的な価値観を持つ者の中には、変わるということに対して恐怖心を持つ人もいる。そんなときに「愛嬌」を持って接することも大きな意味で必要なのではないか。
今回の一件で、芸能やエンターテイメントというのは、知ってか知らずか、そうした空気と共鳴していくものであるということを改めて感じた。もちろん、世間の声を聞いて後追いするのではなく、エンターテイメントが率先してそうした空気を作っていくときもあるだろう。
近年、話題になったものを考えると、抑圧からの解放を、「アイデア」によってうまく表現できたものは共感を得るが、解放の糸口をうまく提示できず、抑圧されたままであったものは物議をかもすという傾向があるように思う。また、抑圧している「元凶」から、閉塞感などありません、あなたたちには輝かしい明日があると言われ、どんなに根拠をうまく説明されたところで、そう簡単に信じられる時代ではないだろう。
もちろん、「新しい地図」は、抑圧を解放するイメージを示しているし、その後の3人の動きを見てもその印象は変わらない。では、そのほかには、どんな事例があっただろうか。
例えば、15%前後で最終回を迎えられれば合格点となりつつある日本のドラマ界で、20%を超える視聴率をたたき出した『逃げるは恥だが役に立つ』は、うまく解放を表現できたものとして挙げられる。
拡張する「星野源っぽさ」をどう受け止めるか――知る人ぞ知る存在から、たくさんの人が共有する存在へ(WEBRONZA)
一方、何かと物議をかもした牛乳石鹸のCMなどは、抑圧が存在していることを表現するまではできたけれど、最後の部分を解放の糸口とは見られなかったのではないだろうか。
しかし、この二つは、なんだかわからないけれど昔のようにはうまくいかない昨今の状況や、それによって「抑圧を感じている」ということを描いているという意味で、スタートは同じである。
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