事業者でありながら労働者。曖昧な「プロ人材」の立場を再検討へ
2017年09月29日
8月28日、日本プロ野球選手会が読売ジャイアンツ球団(読売巨人軍)に対して申し入れをおこなった。病院での警備員への傷害と器物損壊で書類送検(起訴猶予)された山口俊投手に対する、巨人軍の処分をめぐってのものだ。
処分内容は今シーズンの出場停止に加え金銭的ペナルティだったが、具体的には総額1億円を超える罰金と減俸だと言われる。今シーズン、FA(フリーエージェント)でDeNAから巨人に移籍した山口投手は、推定で3年7億円の大型契約を結んでいたとされる。1年あたり単純計算で年俸2億3000万円だが、その半分近くが没収されることになる。プロ野球選手会のリリースによると、巨人球団は契約解除をちらつかせて複数年契約の見直しを迫ったという。
今回の一件において注視すべきは、同選手会がこうした事態を以下のように捉えていることだ。
前述の事情に鑑みれば、選手契約を労働契約と考えた場合の解雇事由がないことは当然であり、また労働契約でない特殊な契約と考えたとしても、このような不当な契約解除を当然の前提として自主退団を迫り、総額数億円もの金銭的不利益を甘受するよう迫ることは、巨人軍が対象選手の今季の事業活動継続の可否を決定し得るという取引上優越した地位にあることに照らし、独占禁止法上不公正な取引方法として禁止される優越的地位の濫用に該当します。
(日本プロ野球選手会 公式ホームページ「読売巨人軍による山口俊選手への処分等に関して」 )
独禁法における「優越的地位の濫用」とは、取引をしている事業者同士において、立場的に優越している立場の者(この場合であれば巨人)が、取引相手(同・山口投手)に対して不当な不利益を与える行為のことだ。これに該当すると指摘し、処分の再検討と契約見直しの撤回を求めている。
選手会が独占禁止法を持ち出した背景に見え隠れするのは、8月4日から公正取引委員会で開催されている「人材と競争政策に関する検討会」だ。これはIT人材やスポーツ選手、芸能人など、「プロ人材」とも呼ばれるフリーランスで働く専門性の高い個人事業主の働き方や、その立場性を再検討しようとするものだ。
公取委はすでに、日本ラグビー協会に対して聞き取り調査を行ったという報道がなされた(デイリースポーツ「ラグビー、移籍選手の制限で調査 公取委が日本協会から聞き取り」2017年7月15日)。ラグビーのトップリーグでは、移籍した選手は前所属先から承諾がなければ、新チームで1年間公式戦に出場できないという規約があり、公取委はそれを注視していると思われる。
このニュースを耳にしたとき、熱心なプロ野球ファンは確実にピンと来たはずだ。
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