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スタジオライフ『はみだしっ子』インタビュー/上

演出家・倉田淳×仲原裕之・久保優二・田中俊裕・千葉健玖

真名子陽子 ライター、エディター


拡大左から、田中俊裕、千葉健玖、倉田淳、仲原裕之、久保優二=伊藤華織撮影

 三原順原作のマンガ『はみだしっ子』が舞台化され、10月20日から東京芸術劇場シアターウエストで、劇団スタジオライフにより上演される。1975年に『花とゆめ』に連載され、「はみだしっ子語録」という冊子まで作られるほど、登場人物から発せられる言葉の数々は、鋭くそして優しく人間の真実に迫り、心を動かさずにはいられない。

 『はみだしっ子』は、親に見捨てられ一緒に旅をすることになったグレアム、アンジー、サーニン、マックスのはみだしっ子4人の物語。今回スタジオライフが初めて舞台化する。演出はスタジオライフ公演のほとんどの作品で演出を手がける倉田淳。三原順の言葉を、“えぐる”と表現する倉田が、舞台で三原ワールドをどのように見せてくれるのか楽しみだ。そして、はみだしっ子の4人は、ベテランから若手の役者までをそろえたトリプルキャストで挑む。演出家・倉田とグレアム役を演じる仲原裕之と久保優二、マックス役の田中俊裕、サーニン役の千葉健玖に話を聞いた。

三原さんが救い上げた言葉を、お客様と共有したい

拡大倉田淳=伊藤華織撮影
――まず倉田さんへ。原作は長編ですが、その中からどの部分を舞台で見せるのでしょうか?

倉田:なぜ主人公の4人が旅をすることになったのか? 原作のとおりに進めて、グレアムの事情のところまでをお見せできるかなと思っています。なぜ、彼らが孤独を抱えてしまったのか? そこに向き合うと、あまりにも深くてたまらない気持ちになって、なかなか台本の執筆が進みませんでした。ストレートな言葉を口にしているけれど、でも、世間となかなかかみ合わなくて…。4人の言葉を紡いでいくと、ため息ばかり出てしまいます。

――『はみだしっ子』をスタジオライフでやる意味はどこにあるんでしょう?

倉田:運命としか言いようがない出会いがあって、4人の絆ができあがっていきます。ひとりでは耐えられないけれど、仲間がいれば生きていける、というところにたどり着いて終わりたいなと思っています。

――制作発表では『トーマの心臓』のユリスモールと同じように、この4人も認められたいんだとおっしゃっていました。

倉田:その思いがあふれています。この世に生まれてきて、何のために自分は存在しているのか、存在すればいいのか、と考えている4人なので、そこに寄り添いたいと思っています。

――セリフは原作のままですか?

倉田:三原順さんの言葉には、独特の“えぐり”があります。それをやめてしまったらおもしろくないですので、そのまま使わせてもらっています。もちろん、状況によって言葉を足すところもありますけれど。「はみだしっ子語録」という本も出ているくらい、三原さんが書かれた言葉は深いです。建前や偽善が大嫌い。選ぶ言葉はストレートで、えぐり方にはシャープさがある。三原さんが救い上げた言葉を、お客様と共有したいなと思います。

――4人それぞれのエピソードをひとつずつ見せていくのでしょうか? それとも、交錯していくのでしょうか?

倉田:ファンの方はセリフを暗記していらっしゃるくらい、内容についてわかっていると思います。けれど、読んだことがない方にも、このような作品があるということを知っていただきたいので、丁寧に作りたいと思っています。あまり交錯し過ぎると混乱します。原作も丁寧にアプローチされていますので、そのままいただいています。例えば、過去の回想に入っていくところなどは、丁寧に入り口を作って、回想と現実の違い、今は回想なんだ、今は現実なんだ、とわかるように整理をつけていきたいと思っています。

――原作の心でつぶやいている言葉などは、どのように表現するんでしょう?

倉田:『トーマの心臓』を初めて上演するときに、原作で吹き出しになっている言葉をどうしようかと考えました。たくさんあるんですね。初演では吹き出しとわかるように、すべてスライドで見せたんです。音楽を流して、その思いでたたずむユーリがいて、その背景にマンガのように大きく映し出したんです。とてもわかりやすかったのですが、3回目くらいの再演の時に、生身の人間が演じているのにスライドで流すのはズルをしていると思って、録音した声を流したんです。たたずんでいる風景は同じで、録音した声を音楽にのせて流したんです。それで2回くらい再演したあと、もう一歩踏み込もうと思ってユーリがしゃべるようになったんです。その経験がありますから、演者がしゃべった方が思いはちゃんと届くと思っていますし、役者にも口に出してもらいたくて、すべて言葉にしていきます。

彼らは大人と関わることをやめない

拡大仲原裕之=伊藤華織撮影
――役者のみなさんに、作品や演じる役について聞いていきたいと思います。仲原さんからお願いします。

仲原:倉田さんが原作を大事にされる方なので、台本になっても違和感はなくて、原作も台本も三原先生の言葉が生きていますし、『はみだしっ子』という大きな枠に包まれているなと思います。

――演じるグレアムの印象は?

仲原:彼らは親との間にいろんな問題がおこって家を飛び出したけれど、大人と関わることをやめないんですよね。彼らが自分の過去と対峙していく中で、居場所や本当に愛してくれる人を大人との関わりの中で探していきます。その大人と関わることをやめないというところを大切にしたいなと思うんです。

――グレアムとの共通点はありますか?

仲原:それは、本音を言えないところですね。

(一同笑)

――即答でした! 本音を言えないんですか?

仲原:ためて、ためて、言います(笑)

――なるほど。

仲原:グレアムはアンテナを張って周りをよく見ていますよね。それが彼の中の葛藤にもつながっていて、そういう部分は似ているのかなと思います。

◆公演情報◆
スタジオライフ公演
『はみだしっ子』
2017年10月20日(金)~11月5日(日) 東京芸術劇場シアターウエスト
[スタッフ]
原作:三原 順
脚本・演出:倉田 淳
[出演]
山本芳樹、曽世海司、岩﨑 大、船戸慎士、松本慎也、仲原裕之、緒方和也、宇佐見輝、澤井俊輝、若林健吾、久保優二、田中俊裕、千葉健玖、牛島祥太、吉成奨人、伊藤清之(Fresh)、鈴木宏明(Fresh)、前木健太郎(Fresh)、藤原啓児
公式ホームページ

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筆者

真名子陽子

真名子陽子(まなご・ようこ) ライター、エディター

大阪生まれ。ファッションデザインの専門学校を卒業後、デザイナーやファッションショーの制作などを経て、好奇心の赴くままに職歴を重ね、現在の仕事に落ち着く。レシピ本や観光情報誌、学校案内パンフレットなどの編集に携わる一方、再びめぐりあった舞台のおもしろさを広く伝えるべく、文化・エンタメジャンルのスターファイルで、役者インタビューなどを執筆している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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