2017年11月01日
今日、買い物に難儀している人たちはどれだけいるのだろう。すでに10年以上が経過してしまったが、私が2005年に行った大規模な調査では、買い物難民層は全国でゆうに1000万人を超えていると判断された。その後の経産省・農水省・内閣府等の調査でも、統計の取り方が私とは異なるが、やはり数百万~1000万人近いという数字が出されている。
私の調査では、買い物難民層は1000万人を超えるといっても、調査対象者は65歳以上の「高齢者」だけである。だが、法的に高齢者とは呼ばれない人達の中にも、「買い物難民」は決して少なくない。私の調査以降に高齢者の仲間入りをした層は、かつてより自動車免許取得率が比較的高いと判断されるが、他面では――商業統計を見る限り――前記(「[1]コンビニだけでは健康的生活を支えられない」)のように、飲食料品店の減少は続いている。それゆえ買い物難民層はその後も漸増していると私は判断する。
ところで買い物難民層と呼ぶべき人々は、どのように買い物をしているのであろうか。ふだんクルマを使って買い物をすませている人には、なかなか理解できないかもしれないが、彼らは、日々の食料・日用品を得るために苦労を重ねている。
買い物難民層となるのは、高齢者――ここでは私の調査に従って対象者を「高齢者」だけにしぼる――の中でも、主に「足」をもたず、また家族・親族等の協力を(満足に)得られない、「一人暮らし世帯」あるいは「夫婦のみ世帯」の高齢者である。
彼らは、週に何度かかなりの距離を歩いて買い出しに行かざるをえない。行きはまだよいが(といっても周囲に走るクルマのために命がけである)、帰りは、ふつうは一定量の食料を持っている。それをかかえて帰るのはつらい。葉物野菜はまだしも、大根、人参、ジャガイモ類は重い。米や味噌、果物もそうである。牛乳をはじめとする飲み物もそうである。それらがかさばれば、持つのはよけいにつらい。
リュックに入れて背負えればだいぶ楽になると言えそうだが、高齢者は腕や肩を傷めていて、また体力も衰えているため、たいした量の荷物も背負えないことが多い。大腰筋などが衰えれば、あるいは反射神経がにぶれば、安全のために杖を使わざるをえず、そうなると持てる荷物は半減する。雨が降れば、その苦労はなみたいていではない。
こうした大儀を避けようとすると、あり合わせですまそうと判断することも多い。私の調査では、4人に1人がそう答えている。だから買い物難民層は、栄養的に偏ってしまうことが多い。タンパク質、炭水化物、脂質といった3大栄養素はもちろんだが、健康に生きるのに必要なミネラル(無機質)、ビタミン類は思いのほか多い。なのに、かつてと違いいまでは、買い物難民層には、往復に小一時間かけてもたいしたものは手に入らないのである。
なるほどバスで店まで往復できる人もいる。けれども、日々の食料のためにバス代まで払わなければならないとしたら、それ自体すでに異常である。私はかつて、買い物に不自由する高齢者の声を聞く「クルマ社会下での高齢者の生活110番」を開設したことがある。その時、少なくない高齢者が、バス代を払ってまで買い物に行かなければならない理不尽さを、訴えていた。
中には、涙を浮かべて絶望しきっている人もいた。宮崎市から電話をかけてきた女性は、
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