2017年11月02日
「買い物」というと気楽に響くが、買い物の困難は時に人を死に追いやる。買い物難民問題は、欧米ではしばしば「フードデザート」(食の砂漠)問題と言われるが、確かに買い物難民問題は、その本質において「食料難民」問題なのである(『女性セブン』小学館、2017年6月22日号)。
先に紹介した私の調査に対して、対象者(標本)となったある高齢者の娘さんが代わって回答をよこし、「父親がバイクに乗れなくなって以来、どうしたかと気にしていたが、ある日医師から電話があって父母とも栄養失調に陥っていると伝えられた」と記していた。ただし、広く問われるべきはこうした特殊な例――「特殊」と書いたが、率において少なかったとしてもこれが実際に起これば、問題は非常に深刻になる――ではなく、もっと一般的な栄養の偏りの問題である。
前記のように、人は生きるために、タンパク質、炭水化物、脂質以外にも、ミネラル・ビタミン類を多く必要とする。だが今日、買い物難民層にとってこれらを恒常的に摂取することが困難になっている、と判断しなければならない。これらを摂るために必要とされる食材は多いが、食材自体が満足に手に入らなくなっている以上、おのずからこれら栄養素も不足せざるをえない。すると、買い物難民層の前に立ちはだかるのは、近未来の健康被害である。
事態は深刻である。政府は2000年の大店立地法施行以来、満足に買い物難民問題を問わないが、これが最も大きな高齢者問題の一つであることを、肝に銘じる必要がある。
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