30回を迎えた東京国際映画祭、どこがダメなのか
外向けの顔と国内向けの顔の日本的な二重構造
古賀太 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)

トミー・リー・ジョーンズ(左から4人目)や永瀬正敏(左端)など、東京国際映画祭の審査委員メンバーたち
1985年に始まった東京国際映画祭は今年2017年で30回目を迎えた。最初は隔年なので33年目でもある。この記念の年に、果たして今年はどうだったのか、このままでいいのか、どこがダメなのかを原点に帰って今一度考えてみたい。
まず今年の最大のニュースは、「トップ」が椎名保さんから久松猛朗さんに変わったことだろう。海外の国際映画祭はトップが変わると全体がガラリと変わるが、今年の東京は普通の観客には去年とほぼ同じに見えたのではないか。
椎名さんになった時は「アニメ重視」があったし、その前の依田巽さんに変わった時はスポンサーとからめた「グリーン志向」があった。それとても「本体」のコンペとは関係のないマイナーチェンジだったが、今年はそれもなく、30周年で「派手」になったことくらい。

東京国際映画祭の会場にて=撮影・筆者
まずポスターやチラシや会場で蜷川実花の写真を使った明るいデザインが目を引く。
そしてコンペなどの「本体」以外の上映やイベントが増えている。
一番目を引くのは「ミッドナイト・フィルム・フェス!」で10月28日(土)に3スクリーンを使ってジョージ・A・ロメロ特集などがあった。昼間にも特集上映は多く、スティーヴン・ソダーバーグ監督作品やミュージカルなど。
それから去年もあった野外上映が今年は増えて、これまでこの映画祭で上映された中から30本ほどを無料上映。
そのほか数年前からやっている1人の監督特集は「原恵一の世界」で、「歌舞伎座スペシャルナイト」も続いている。一昨年から始まった「Japan Now」(何とダサい命名)部門は、今年は蒼井優、宮﨑あおい、満島ひかり、安藤サクラの女優4人も特集している。だから賑やかな「感じ」はあるが、会場周辺を見ても観客が特に増えたようには見えない。実際、今年の観客数は6万3679人でこの3年間、6万人台前半。上映本数は231本でたぶんこれまでで一番多い。
コンペは「ガマン大会」?
そんな見かけよりも大事なのは、コンペなどの「本体」の中身はどうなのかという点だ。
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