2017年11月15日
書店数の減少は、販売チャンネルの減少である。市場の縮小である。市場の縮小とは、すなわちマーケティングの失敗である。
出版業界に必要なマーケティング、すなわち市場の拡大には、販売チャンネルの確保・加増とともに、もう一つ大事なことがある。それは、「読者」の創造、育成である。図書館にその役割があるとすれば、図書館は決して出版業界の敵ではなく、力強い同盟軍と見るべきだ。
2000年代に入って、図書館=無料貸本屋論が噴出し、出版業界からのバッシングを受けたとき、図書館側にも、「図書館がタダで貸すから本が売れなくなった」という批判に真っ向から立ち向かった人たちがいた。元浦安市立中央図書館館長の常世田(とこよだ)良(現立命館大学教授)は、著書『浦安図書館にできること――図書館アイデンティティ』(勁草書房、2003年)などで、「図書館を利用する人は、本を買う人でもある」と反論、図書館が読者を創造・育成していると主張した。
『図書館の発見――市民の新しい権利』(前川恒雄・石井敦著、NHKブックス)は、初版1973年、新版2006年刊の、長く読み継がれてきた図書館論の古典というべき本であるが、その中で、1980(昭和55)年日野市立図書館高幡分館落成時の、次のようなエピソードが紹介されている。
“開館式のとき、市長に続いて市議会の文教委員長が挨拶した。
「私たちは、市立図書館によって、皆さんのふところから本代を出さなくてもいいようにしたいと思っています」
そのあと。利用者代表の佐藤明代が言った。
「いま、議員さんは、私たちのふところから本代を出さなくてもいいようにしたいと言ってくれました。しかし、図書館があると本を買わないといけなくなります。私も日野に引っ越してきてから、いい図書館があるので本を読むようになり、子供も本好きになりました。
そうすると、どうしても手元においておきたい本が出てきます。借りるだけではすまず、買うことになります。私の家は小さな家ですが、いまは本でいっぱいです」”
そして、次のように言う。
“「図書館ができて、本を読むようになった」「本が好きになった」という言葉でわかるとおり、図書館の書棚の前に立つと本に手が出て、つい読みたくなる。ある本を借りようと思って図書館へ行った人も、書棚の間を歩いていると、思わぬ本にぶつかり借りていって、「いい本に出会ったな」と思うこともよくあることである。それは、本との出会いであり、可能性の発見である”
図書館は、出版業界にとって、マーケティング=読者創造・育成の重要な場なのである。
『図書館の発見』は、更に、出版業界の「複本」批判にも反論する。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください