福嶋聡(ふくしま・あきら) MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店
1959年生まれ。京都大学文学部哲学科卒。1982年、ジュンク堂書店入社。サンパル店(神戸)、京都店、仙台店、池袋本店、難波店店長などを経て、現在、MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店に勤務。著書に『希望の書店論』(人文書院)、『劇場としての書店』(新評論)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
出版業界と図書館が、お互いを不可欠なものとして必要としていながら利害は相反している、このアポリア(難問)は、少し前から具体的に構想され始めた「電子図書館」の可能性をシミュレートすると、鮮明になる。
紙の質感などいくつかの「紙の本」のアドバンテージを捨ててコンテンツだけを求めるのであれば、電子書籍は便利である。重くかさばる「紙の本」に比べて持ち運びには便利だし、キイワードによる検索、文字の拡大縮小など、様々な機能を使える。
それを無料で貸し出してくれる電子図書館は、読者にとって更にありがたい。電子書籍には既に、どこにいても購入しすぐに読み始めることができるというメリットがあるが、電子図書館を利用すれば、購入する必要もなくなる。いながらにして、タダで、本を読み始めることができるのだ。
図書館側にもメリットは多い。電子書籍の貸し借りのためにはカウンターは不要で、人も割かなくて済む。貸出期間が過ぎたら自動的にアクセスを切るだけでよいから、未返却本などありえない。資料(図書館では蔵書のことを「資料」と呼ぶ)が傷むこともない。帰ってきた資料を書架に戻す手間もなくなる。新しく購入した資料をすでに満杯になった書架に収納する苦心も不要だ。収まりきらなくなった資料のどれを廃棄するか悩むこともなくなる。
利用者は、どんなベストセラーでもすぐに借りて読める。電子書籍を「貸す」とは、アクセス権を与えるだけで、電子書籍は図書館に残る。あと何人借りても次の人がアクセスできるから、今のように何十人、何百人と、何ヶ月、ときには何年も待つことはなくなる。
図書館としても、歓迎できる事態である。何百人がアクセスしても、貸出カウンターが大混乱に陥るわけではない。そもそもアクセスの操作を、利用者に任せることになるからだ。「まだか、まだか」と催促されたり、複本購入を要求されることもなくなる。