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[書評]『アベノミクスによろしく』

明石順平 著

堀 由紀子 編集者・KADOKAWA

アベノミクスが実感できない理由がわかった

 思い切って打ち明けるが、経済の話題が苦手だ。会話のなかに「金融緩和」とか「短観」とか「名目GDP」というような単語が出てくると、冷や汗が浮かんでしまう。

 だから、今の政権がアベノミクスの成果を強調し、ニュースで「日経平均、バブル崩壊後の最高値」などと聞くと、そうなんだ……まあ数字は正直だしな……と思っていた。

 一方で、どうしても違和感がぬぐえなかった。さすがに「バブル崩壊後」は何かの間違いではないの?と。

 バブルのころ、私は高校生で今にもまして経済に無関心だったが、それでも社会の好景気ぶりは感じた。ウキウキした感じがあったように思う。

 それを今は感じない。それどころか、母子家庭の貧困率が50%超、子どもの貧困率が主要36か国中24位など、「好景気」とは正反対の「貧困」のキーワードを耳にする。

 前置きが長くなってしまったが、そんな悶々とした思いを打ち砕いてくれる本に出合った。それが本書だ。

『アベノミクスによろしく』(明石順平 著 インターナショナル新書) 定価:本体740円+税拡大『アベノミクスによろしく』(明石順平 著 インターナショナル新書) 定価:本体740円+税
 私はこの本に二重の衝撃を受けた。

 まず圧倒的にわかりやすいというところ。本文は、物知りの生物「モノシリン」が「太郎」の疑問に答えていくというスタイル。私のような素人目線の質問を太郎がし、モノシリンが歯切れよく答える。モノシリンの説明は端的に要点を絞って深入りしない。難しくなる前に次の話題に移ってくれるから、「マネタリーベース」とか「リフレ派」などの専門用語が出てきたときも、読むこちらも何とかついていける。

 たくさんの表を使っているのもいい。おどろくような事実が視覚でも入ってくる。データはすべて出所がはっきりしたもので、大半が内閣府や総務省、厚生労働省のホームページから引用されている。

 そしてもう一つの衝撃、こちらが主題なのだが、アベノミクスの本当の姿だ。

 本書では、3本の矢がうまくいっていないこと、異次元の金融緩和のどこが異常なのか、株価が上がっている要因、だれが儲けだれが苦しんでいるのか、進むも地獄戻るも地獄の現状などが次々に明らかにされる。きちんとしたデータとともに。

 紹介したい事例はたくさんあるのだけれど、私が一番驚いたのは第4章「GDPかさ上げ疑惑」だ。

 本書によれば、内閣府は2016年にGDPの算出の方法を変更した。それによりGDPの額が全体的に「かさ上げ」されたのだが、不思議なことに、新しい計算方法だと、2013年以降のGDPが跳ね上がる。

 で、このかさ上げの内訳なのだが、もっとも影響している額の項目が「その他」だという。グラフにまで影響を与えているのに、「その他」の中身については明らかにされていないという。

 すかさず太郎がこう突っ込む。

 〈これ、「その他」でかさ上げ額を調整して歴史を書き換えてない?〉

 これに対してモノシリンも強い口調で、

 〈なぜ「その他」のかさ上げ額において、アベノミクス以降と以前でこれほど異常な差が出るのか。政府に納得のいく説明をしてもらいたいところだね。説明できなければ「改ざんした」と批判されても仕方ないだろう〉

 衝撃はここで止まらない。怪しいかさ上げの狙いをモノシリンが見抜く。

 かさ上げによってGDPは急増しており、アベノミクス以降の成長率で続ければ、2020年度に名目GDP600兆円を達成するという。これは安倍首相が掲げている目標そのものなのだ。

〈え……これ、「2020年を目途に名目GDP600兆円達成」という目標に合わせて思いっきりかさ上げしてるってこと?〉

 これについてはさすがにモノシリンも〈そう思われても仕方ないよね〉と断定は避けているが、計算がぴったり合ってしまうことが恐ろしい。

 このような感じで、全編を通じておどろきの連続だった。アベノミクスが今後の日本にもたらす大きな副作用などはクラクラするほどで、信じたくない自分もいる。今度は、アベノミクスの成果を分析した本を探して読んでみたいと思う。

 とはいえ、なぜこれほど明らかな事実がホームページ上で公開されているにもかかわらず、これまでほとんど突っ込まれてこなかったのだろうか(私が知らなかっただけなのだろう、多分)。やはり経済は複雑すぎて見抜けないものなのだろうか。そのあたりは門外漢の私にはわからないが、とにかくこの本を読んで経済ニュースを鵜呑みにしないで済むにようになった。

 本書の前書きには、〈この本は、できれば全ての国民に読んでいただきたい本です〉とあり、全体を読む前は「全ての国民はさすがに大げさでは」と思っていたのだが、読み終えて本当にそう思っている。

 経済に疎い私にも読み通すことができた。知らないこととおどろきに満ちており、「本っていいな~」と思わせてくれる衝撃の一冊。ぜひ多くの人に読んでもらいたい。

*ここで紹介した本は、三省堂書店神保町本店4階で展示・販売しています。

*「神保町の匠」のバックナンバーはこちらで。

三省堂書店×WEBRONZA  「神保町の匠」とは?
 年間8万点近く出る新刊のうち何を読めばいいのか。日々、本の街・神保町に出没し、会えば侃侃諤諤、飲めば喧々囂々。実際に本をつくり、書き、読んできた「匠」たちが、本文のみならず、装幀、まえがき、あとがきから、図版の入れ方、小見出しのつけ方までをチェック。面白い本、タメになる本、感動させる本、考えさせる本を毎週2冊紹介します。目利きがイチオシで推薦し、料理する、鮮度抜群の読書案内。

筆者

堀 由紀子

堀 由紀子(ほり・ゆきこ) 編集者・KADOKAWA

1975年、山梨県生まれ。1999年より角川書店で、主婦向けのテレビ誌「しってる?」、スポーツ誌「SPORT Yeah!」、都市情報誌「横浜ウォーカー」の編集に携わる。2012年より書籍編集に。担当した書籍は、柳田国男復刊シリーズ(角川ソフィア文庫)、黒田勝弘『隣国への足跡』、望月衣塑子『武器輸出と日本企業』、室井尚『文系学部解体』、柴田一成『とんでもなくおもしろい宇宙』など。ハードボイルド小説と自然科学系の本が好き。