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【ヅカナビ】星組公演『ベルリン、わが愛』

登場人物それぞれの「わが愛」を改めて振り返ってみた

中本千晶 演劇ジャーナリスト


 星組公演『ベルリン、わが愛』。この作品の心地よさは誰もが自分なりの立場ややり方で「映画」を愛し、守ろうとしているというところではないかと思う。それがタイトルの「わが愛」にこめられた意味ではないだろうか。タカラヅカらしいわかりやすさの中で、なおも「創り手として守るべきもの」は何なのかをふと考えさせられる、そんな作品である。

 紅ゆずる演じるテオ・ヴェーグマンは「ヨーロッパで初めて」のトーキー映画に果敢に挑戦していく若き映画監督だ。怖いもの知らずでぐいぐい進んでいく勢いが彼女自身のキャラクターを彷彿とさせるし、トップスターになってから2作めの大劇場作品だから演じられる役だとも思う。当て書きならではの良さである。また、控えめな性格ながらはからずもスター街道を歩んでしまうジル・クラインも、演じる綺咲愛里の持ち味に合っており、劇中でゲッベルスがご執心となるのも納得だ。

 だが、この作品をより面白くしているのはテオとジルの周辺の人々である。実在の人物も多い。今回のヅカナビでは、『ベルリン、わが愛』の登場人物それぞれの「わが愛」にスポットを当ててみよう。彼らが実際に生きて愛した背景を深掘りすると、舞台から感じ取れるものもまた違ってくる気がするのだ。

ライマンの職人肌、ゲッベルスの人間味

 もし、この作品における助演男優賞があるならば、まずはヴィクトール・ライマンの天寿光希に差し上げたい。サイレント映画時代に活躍したベテラン役者という役どころ。職人肌な頑固者で、最初はテオと対立するが、最後には一番の味方となる。根底にある映画への思いは一緒だったということだろう。アドリブも毎公演ごとのお楽しみとなっており、ここで見せるコミカルな一面から、ライマンの愛すべき人柄も感じられる。

 そして、もう一人の助演男優賞候補者としては、ヨーゼフ・ゲッベルスを演じた凪七瑠海をぜひ挙げたい。世に知られる憎まれ役なのに、肝心なところでは心に秘めた映画愛が邪魔をしてしまい、「人間ゲッベルス」を感じさせたところがとにかく良かった。なお、実際のゲッベルスも相当な映画好きだったらしい。

 助演女優賞はやはり、陽性な悪女レーニを演じた音波みのりだろうか。彼女もまた、能天気なレビューガールから後半への豹変ぶりで、多面的な女の顔を見せる。だが、全体を通じてのカラッとした明るさが、陰鬱になりがちなこの作品ではかえって救いになっているようだ。なお、レーニ・リーフェンシュタールも実在の人物で、ベルリンオリンピックの記録映画『オリンピア』やナチス党大会の記録映画『意志の勝利』を撮影した女性映画監督である。

 また、「女優賞」を差し上げて良いのか迷うところだが、今回が退団公演となる夏樹れい演じるジョセフィン・ベイカーも、持ち前の歌唱力と男役ならではの押し出しの強さを存分に発揮。レビュー時代に一世風靡したスターならではの風格の中に、押し隠した哀しみを滲ませた。

 ふと気づけば今回、専科からの出演は凪七瑠海のみ。いわゆる脇を支える役どころも組メンバーでまかなっているわけで、頼もしいことだ。

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『タカラヅカ流世界史』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師、NHK文化センター講師。

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