当時の「資料」から浮かび上がる魂の叫び
2017年12月21日
1 「1968年――無数の問いの噴出の時代」展(国立歴史民俗博物館)
2 「アルチンボルド展」(国立西洋美術館)
3 「運慶」展(東京国立博物館)
4 「日本におけるキュビスム ピカソ・インパクト」展(埼玉県立近代美術館ほか巡回)
5 「ヨコハマトリエンナーレ」(横浜美術館ほか)
次点:「雪村――奇想の誕生」展(東京芸術大学美術館)、「endless 山田正亮の絵画」展(東京国立近代美術館)、「遠藤利克展――聖性の考古学」(埼玉県立近代美術館)、「ジャコメッティ展」(国立新美術館)
海外:「セザンヌ 肖像画」展(パリ、オルセー美術館)、「カッセル・ドクメンタ」、「ベネチア・ビエンナーレ」、「マティス ボナール」展(フランクフルト、シュテーデル美術館)
今年は「美術展」ベストではなく、「展覧会」ベストとした。国立歴史民俗博物館の「1968年」展を入れたかったから。これはポスターなどの展示はあるが、美術展ではなく資料展。そのうえ、一番多いのはガリ版刷りのチラシやビラで、ノートの切れ端や議事録や電報や確約書まで展示されている。副題の「無数の問いの噴出の時代」の通り、1960年代末に全国各地で起きた運動の資料を集めているが、その一つ一つから浮かび上がる魂の叫びに心を打たれた。
美術展ならば1960年代の後半に焦点を当てたものはいくらでもある。ところが現代史を見せるようなこうしたドキュメント展はめったに開かれない。この展覧会が開催されたのは、4年前に東大闘争資料約6000点と日大闘争資料1万4000点がこの博物館に収蔵されたことがきっかけという。当時運動に関わった人々が保存していたもので、1968年の大学闘争で最も重要な役割を果たしたこの2つの大学の資料が国立の博物館に収められたことの意義は極めて大きいだろう。そうでなければこれらのビラやノートは当事者たちの元で失われてゆくから。
パネル解説で1970年代初頭に全国で2000近い住民運動があったことが県別に示されていたが、高度成長期に自分たちの暮らしを守ろうとして戦った人々の姿がこの展覧会にはあった。
住民運動が中心の第1部に比べると、大学闘争の第2部はいささか観念的に見えるかもしれない。それでも日大、東大以外でも、九大、北大、京大、広島大、弘前大など全国各地の学生たちが立ち上がった姿はビラの一つ一つから蘇ってくる。日大や東大には動画も展示してあって、多くの観客が見入っていた。2000円のカタログも資料的な価値の高い画期的なもの。次回はぜひ大学闘争だけに絞って展覧会をして欲しい。
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