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宮澤エマがミュージカル『ジキル&ハイド』初挑戦

良家のお嬢様を人間らしく生々しく演じたい

米満ゆうこ フリーライター


拡大宮澤エマ=安田新之助撮影

 宮澤エマはミュージカル界に彗星のごとく現れたといっても過言ではないだろう。2013年にミュージカル『メリリー・ウィー・ロール・アロング~それでも僕らは前へ進む~』でデビューし、その澄んだ情感あふれる歌唱力、演技力には大いに驚かされた。昨年はミュージカル『紳士のための愛と殺人の手引き』『ドッグファイト』に出演。その才色兼備ぶりでテレビのコメンテーターとしても活躍するが、ミュージカル界が彼女を放っておくわけがない。

 今年3月に幕を開けるミュージカル『ジキル&ハイド』への出演も決まった。2001年の日本初演以来、再演を重ねてきた同作。19世紀のロンドンで、医師・科学者のジキル博士が、人間の善と悪の性格を分離する薬を開発し、自ら実験のために薬を飲むと、ハイドという悪の塊の男に豹変してしまう。人間の表と裏を描いた作品だ。2012年から石丸幹二がジキルとハイドを一人二役で演じている。今年はジキルの婚約者のエマ役に宮澤、ハイドに振り回される娼婦のルーシー役に、同作でエマを演じてきた笹本玲奈がそれぞれ抜擢され、新たな顔ぶれで生まれ変わる。上演にむけて、宮澤が大阪市内で取材会を開いた。

翻訳作品をやる葛藤や難しさはほかの役者さんと一緒

記者:初めに、作品の感想をお願いします。

宮澤:長い間日本でも上演されてきた歴史ある作品に今回初めて参加させていただきます。実は舞台を見たことがなかったので、資料と台本を拝見しました。昨年出演したミュージカル『紳士のための愛と殺人の手引き』もイギリスの階級社会の話で、『ジキル&ハイド』は同じイギリスでも時代設定は『紳士~』よりもっと前です。やはりイギリスですので、上り詰めたいというクラス感だったり、他人にどう見られているかということが大事だったりする社会階級の世界と、持って生まれた運命をどう変えていくかという設定が、すごく『紳士~』と似ているなと感じましたね。

記者:演じられるエマと同じ名前ですね(笑)。

宮澤:洋物をやっていますと、エマというのは普通の名前なので、そういう役に巡り合うのは時間の問題かなと思っていました(笑)。ついに来たかという感じですね。

記者:まだ稽古が始まっていないので実感がないかと思いますが、自分の名前を呼ばれるのはどういう感じなのでしょうね。

宮澤:「エマ」と呼ばれたら、すぐに「ハイ」と返事ができるので(笑)、その分、素直に役に入れるかもしれませんね。今までにないぐらいのシンクロニシティが生まれるかもしれません。

記者:宮澤さんはお父様がアメリカ人ですし、アメリカやイギリスに留学もされていました。アメリカ人やイギリス人を演じることに対してはいかがですか。翻訳ものの作品は、構えてしまう日本人の役者さんが多いですよね。

宮澤:ハーフですので、動作はもちろん、あまり日本語では言わないセリフや、文章の組み立て方などは、英語でこういうことだなと分かります。「私はブロンドで青い目の白人をこれから演じるんだ!」という構えはあまりないですね。でも、演じているのは日本人で日本語です。吹き替えの芝居のように見えるのもおかしいですし、海外の作品に忠実でありたいという気持ちもあります。その葛藤や難しさはほかの役者さんと一緒だと思います。

記者:英語でも台本を読まれるのですか。

宮澤:あれば読みますし、できる限りは読みたいです。でも、説明的にお芝居をしても仕方がない。セリフや歌もそうですが、原語はこうだということを分かった上でするお芝居とそうでない場合、作品としてどっちがいいのかは何とも言えないと思います。日本語は訳すときに限りがあって、情報量が少なくなってしまうので、私は知りたいと思って勉強はしますが、知らなくても通用するようなお芝居にしなくてはいけない。それは私の宿題だと思っていますね。また、台本として私たちの手に渡るまでに、何回もの台本、翻訳会議が重ねられているので、「これはどういう意味ですか」とすぐに聞きに行ける現場が多いのも助けになっています。

作品を愛すればやるべきことは見えてくる

拡大宮澤エマ=安田新之助撮影

記者:今回エマを演じるにあたって、どんな女性として演じていきたいですか。

宮澤:エマ役のお話をいただいたときに、この舞台に出演した方から「すごく合っているけど、すごく難しい役だと思うよ」と言われて。どういう意味なんだろうと思いましたが、台本を読んで、エマの芯の強さ、愛を信じるピュアさなど一面的になりがちなところを、どうやって立体的な生身の人間として作っていくのかが難しいなと思いました。『ジキル&ハイド』はそれぞれのキャラクターに葛藤や歪んだ部分がある。その歪みがエマだけはすごく分かりにくいんです。良家のお嬢様で、この時代は結婚して家を出ていかないことには一人の人間として見られないので、ジキルと結婚することによって、自由への切符を手に入れる側面を持っている。エマは父親に愛されていますが、それは彼女を縛る要因でもあるので、そこから解放されたい、自分らしく生きたいという葛藤につながります。彼女自身、未熟な部分も多いので、ジキルに献身的に最後まで尽くすという一面的な部分に引っ張られず、エマの人間らしさ、生々しさを出したいですね。彼女はジキルと連絡が取れなくなり、お客様には何か大変なことが起きていると分かっている場面で、花束片手にジキルのお見舞いにやって来るという呑気さがあるんです(笑)。すごく幼い人間ですから、物語を通して強い大人になっていく姿を見せられたらいいなと思っています。

記者:すでに色んなプランが泉のようにわき上がっているのですね。

宮澤:そんなことないです。稽古場に入ったら、今まで言ったことは全部忘れて下さいとなるかもしれません(笑)。歴代色んな方がエマを演じてこられて、お客様も思い入れの強い作品です。そこに入っていくときに、私なりの何かを考えるよりかは、作品が何故、愛されていて、エマは作品のどういう一部なんだろうと考えます。作品を愛して良さや深みをもっと知れば、私がやることはおのずと見えてくるだろうと思っています。今はまだ、読み解けていないことが多いですね。

エマはジキルの善の部分をずっと信じている

拡大宮澤エマ=安田新之助撮影

記者:エマはハイドに変貌してしまうジキルに対して、愛が揺らがないところが驚きです。

宮澤:なかなかそこは理解しがたいですよね(笑)。たぶんですが、お客様はジキルがハイドになる過程を全部見ていますよね。でも、エマはその過程を長い間見ていないんです。そこに対しては無知な部分がある。ただ、ハイドに豹変することを知ったときですら、ジキルの側にい続ける。エマは人間の善悪の善の部分をずっと信じている人なのかなと思います。彼女が出来た人間だから、ジキルのことを愛し続けるというのも一つの解釈ですが、そうではないのかなと。結婚することによって思い描く自分の未来像や、彼と一緒にいる自分が好きなのかなと思います。愛の形の中にも色々あって、こうしてほしい、こう見られたいという願望が含まれていますよね。でも、ジキルのことを信じ続ける役が舞台に存在することは、お客様にとっても救いになると思います。特に、ダークな部分を扱った作品なので、光の部分を持っていないと。私がエマを疑ってはいけないなと思います。エマには共感しにくい部分があるかもしれませんが、そこにリアリティをもたらすと物語の悲しさがより伝わるのではと思いますね。

記者:資料と台本だけで、そこまで解釈していらっしゃるのですね。

宮澤:大作ですので、それなりの覚悟を持って挑まなきゃと(笑)。拝見するまで、ジキルとエマ、笹本さんが演じられる娼婦のルーシーとの三角関係の話とは知らなかったんです。恋の表と裏が三者三様で、エマとルーシーは別空間にいて、交わることがない。それぞれジキルの違う側面を愛している。でも愛している側面は実は同じかもしれない。三角関係の一つの核として自分の軸を持たないと、この作品に忠実にいられないかなと感じています。

記者:エマを演じてきた笹本さんがルーシーを初めて演じることで、フレッシュな作品になりそうですね。

宮澤:日本のミュージカルは再演が多いですし、同じキャストや、Wキャストで演じることもあります。ブロードウェイやウエストエンドとは違い、上演期間は長くて2~3カ月ですので、キャストが瞬間瞬間にもたらすオリジナリティーがすごく大切だと思います。また繰り返し上演されるものに対して、新キャストや新演出など、お客様もスキルアップされたものを求めていらっしゃると思います。笹本さんはエマ役を通してルーシーを見ている期間もあって、役に対する解釈は深いと思いますので、エマを経てからのルーシーはまた違うものになると思います。色々教えていただきたいです。

感情移入するのに音楽の力は大きい

拡大宮澤エマ=安田新之助撮影

記者:アメリカ人の作曲家フランク・ワイルドホーンさんが手掛けた楽曲についてはどう思いますか。

宮澤:すごくキャッチーですし、感情の起伏に合わせた楽曲を作られるという印象です。ジキルの決断や葛藤は理解しがたい部分が多いですので、その簡単には感情移入できないストーリーラインにお客様がついていけるようにするには、音楽の力が大きいんです。下手をすればお飾りの人形に見られてしまうエマも、彼女の内面を歌を通して表現したり、ジキルとエマの愛も二人のデュエットを通して、分かりやすく表されています。まだ歌ったことはないんですが、チャレンジな部分と歌いやすい部分があるのかなと想像しています。

記者:喉の筋肉をフルに使うそうですので、「歌うのがものすごくしんどい」と言う俳優さんは多いですよ(笑)。

宮澤:えーっそうですか! 大変だなぁ、どうしよう…(笑)。

記者:宮澤さんはデビュー作の『メリリー・ウィー・ロール・アロング~それでも僕らは前へ進む~』でスティーヴン・ソンドハイムを歌った経験があるから大丈夫ではないですか。

宮澤:ソンドハイムとはまた違った難しさだと想像しています。ソンドハイムのメロディは難解で「これでいいのかな」と思いながら歌うこともありました。ワイルドホーンさんのメロディはシンプルです。エマに関していえば、ソプラノの歌い方を求められることが多くて、それもチャレンジですね。歌いこなせるまでは千本ノックの時間がやってきそうです。それに石丸さんと近距離でデュエットを歌うので、どうしよう、緊張するなと思っています(笑)。

記者:石丸さんとお会いになったことはありますか。

宮澤:ラジオ番組でご一緒させていただいたことがあり、大先輩にもかかわらず、すごくチャーミングな方でした。ちゃんとジキル博士を愛せそうと言ったらおこがましいですが(笑)、本当に愛すべき方で、恐れ多いです。ジキルとエマの関係性を二人できちんと作っていきたいですね。

私の中で善と悪はグラデーション

拡大宮澤エマ=安田新之助撮影

記者:宮澤さんの中にジキルとハイドはいますか。石丸さんは運転すると人が変わるそうですよ(笑)。

宮澤:難しい質問ですよね。善と悪はグラデーションだと思っているので、きっぱり善悪と分けるよりは、善の中にも悪があるし、悪の中にも善がある。良かれと思ってやったことが悪い結果を招くこともありますよね。きっと、誰しも持っているものだと思います。電話に出るときはよそゆきの声が出たり、この人に対してはこういう風に思われたいとか人によって態度が変わるのは自然なことだと思います。テレビを通して私を知ってくださる方は、真面目なコメンテーターのイメージがあるかも知れませんが、舞台の稽古場ではよく、「エマちゃんてこういう人なんだ、詐欺だ」と言われます(笑)。そういう意味では私も色んな顔を持っているのでしょうね。

記者:「うわぁ、この人のハイド的なところを見てしまった!」という経験はありますか。そのときはどうしますか。以前、石丸さんにも同じ質問をしたことがあるのですが(笑)。

宮澤:そんなのしょっちゅうありますよ(一同笑)。ふと見えたりすることは多いですよね。こういう状況になったら、あんな反応をするんだとか。それが、その人の本質かと言えば、別の話だと思うんですけど。だからそういうときは「なるほどね、そういう一面もあるのね…」と頭の中の引き出しに入れておきます(笑)。でも、自分で自分の反応に驚かされることはありませんか。「なんであんなこと言っちゃったんだろう」とか、「あれ!?私、こんな人だったっけ?」という。

記者:あります、あります(笑)。

宮澤:私、過去の発言で「こんなこと言ってたよ」と人に言われて、びっくりすることがあるんです。ジキルがハイドになっているときも、そのときの記憶がないんですから、けっこうそれは私も同じです(笑)。お酒飲んで言っちゃったこととか、本意か本意ではないのか…。

記者:では、他人のハイドな面に対しては寛容なのですね。

宮澤:寛容というか、忘れはしないです(一同笑)。記憶の中にしっかりと刻み、なるほどねという(笑)。でも人は変わると思ってもいますので。ちなみに石丸さんは何ておっしゃいました?

記者:逃げると(笑)。

宮澤:アハハハハ、確かに。無理だなと思ったら、私も距離を置くタイプです。

記者:俳優として観察しつつ、逃げるそうです(笑)。

宮澤:それはありますね。面白いなと思って見るのは私も同じです。『ジキル&ハイド』は、人の善と悪を分けることは可能なのかという話です。誰しもそれは考えたことがあるから、19世紀のロンドンの話でも古くならない。この作品が言いたいのは、善は善、悪は悪というのではなく、それとどう向き合って生きていくのかということだと思います。この物語がダークであるにもかかわらず、何度見ても違う解釈ができたり、観客を惹きつける力を持っていたりするのは、善と悪について明確な答えがないからだと思います。

記者:いつか、ハイドのような悪役の宮澤さんも拝見したいですね。

宮澤:今はミュージカル『ドッグファイト』の初日前(取材時期は昨年12月)で、ローズという役にならないといけないし、かつ『ジキル&ハイド』のエマのことも考えています。まさに今の私がジキル&ハイド状態ですが(笑)、二人ともすごくいい子なんです。いまだかつて悪役を演じたことがないので、いつかぜひ、やってみたいですね。

◆公演情報◆
ミュージカル『ジキル&ハイド』
2018年3月3日(土)~18日(日) 東京・東京国際フォーラム ホールC
2018年3月24日(土)~25日(日)名古屋・愛知県芸術劇場大ホール
2018年3月30日(金)~4月1日(日) 大阪・梅田芸術劇場メインホール
[スタッフ]
音楽:フランク・ワイルドホーン
脚本・詞:レスリー・ブリカッス
演出:山田和也
上演台本・詞:髙平哲郎
[出演]
石丸幹二、笹本玲奈、宮澤エマ、田代万里生、畠中 洋、花王おさむ、福井貴一 ほか
公式ホームページ

筆者

米満ゆうこ

米満ゆうこ(よねみつ・ゆうこ) フリーライター

「三度の飯よりアートが好き」で、国内外の舞台を中心に、アートをテーマに取材・執筆。ブロードウェイの観劇歴は20年以上にわたり、ブロードウェイの劇作家トニー・クシュナーや、演出家マイケル・メイヤー、スーザン・ストローマンらを追っかけて、現地で取材をしている。

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