青木るえか(あおき・るえか) エッセイスト
1962年、東京生まれ東京育ち。エッセイスト。女子美術大学卒業。25歳から2年に1回引っ越しをする人生となる。現在は福岡在住。広島で出会ったホルモン天ぷらに耽溺中。とくに血肝のファン。著書に『定年がやってくる――妻の本音と夫の心得』(ちくま新書)、『主婦でスミマセン』(角川文庫)、『猫の品格』(文春新書)、『OSKを見にいけ!』(青弓社)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「人間は素晴らしいんだー!」というメッセージが…
今まで私が見た朝ドラでいちばん熱中したのは『鮎のうた』だ。朝ドラ史の中ではあんまりメジャーに語られることもないし、タイトル聞いても思い出さない人も多いかもしれませんが、たぶん当時、何百万人もの視聴者が熱狂したはず。1979年下半期の大阪局制作。主演は山咲千里。女の細腕一本で船場の御寮さんまでのぼりつめるというナニワ商人モノ。平均視聴率42.7%って、どんだけ人気あったんだ。山咲千里もその後あんなボンデージファッションでイケイケになったりするとは想像もつかないような、楚々とした、しかしシンの強いナニワ美人を好演していました。とにかく、毎回毎回後を引く展開がすごかった。脚本は花登筺(はなと・こばこ)。あの花登筺。
朝ドラのことを語りたいのではない。花登筺のことを語りたいんです。
「あの」花登筺、って言っていま通じるのか、『細うで繁盛記』『どてらい男』『あかんたれ』『ぬかるみの女』と、彼が脚本書いた連続ドラマはとにかく一世を風靡したもんだ。泥臭くてジメジメして主人公は理不尽に虐めぬかれたりするものの最後は見事に商売で成功する連続ドラマで、一回見ちゃったら最後まで見ずにはいられないっていうやつ。
池井戸潤ドラマって、現代の花登筺ドラマなんだろうか。
と、最初考えてみたのである。
企業(商売)モノで、主人公やその会社が苦労して最後には成功、達成感とともに完。視聴者も前のめりに見てしまって最後にスカーッとなる、という。『半沢直樹』に『下町ロケット』に、『陸王』。舞台が現代っぽくなった花登筺。
と、最初考えていたわけだが、それは私が池井戸潤ドラマをよく見てなかったからであった。『半沢直樹』をちらっと見ただけで言ってたことで、とんだ見立て違いだった。テキトーなことを言うものではない。
そもそも、池井戸潤ドラマが現代の花登筺だとしたら、『半沢直樹』をちらっと見てそれっきりなんてことはなく、(いろいろひっかかったりはしながらも)熱中するはずなのだ。ええ、私は池井戸潤ドラマにはぜんぜんハマれない。いろいろと「ムリ」。
『陸王』を見てのことで言うと、まずはいいと思ったことから先に書いておく。
こはぜ屋社長の家とか、工場とか、すっごくよくできてると思う。今あの家や工場を探してくるというロケハン能力はすごい。
阿川佐和子にも驚く。あの、物分かりの悪そうな、論理の通じなさそうな、女職人的風情が絶品。キャスティング能力高い。寺尾聰と市川右團次もいい。この3人はうまい。
主役の役所広司は、悪い役者じゃないと思うけどさいきん「何をやっても役所広司」で、驚くことが何もない。役所広司は「無名塾」出身で無名塾の師匠は仲代達矢で、仲代達矢も「いつ見てもあの顔、あの芝居」だったことを思い出し、師匠の薫陶は大きなものであったのだと感じ入った。
ここまではいいとして。
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