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『陸王』、こんなにわかりやすすぎていいのか!

「人間は素晴らしいんだー!」というメッセージが…

青木るえか エッセイスト

「陸王」とコラボレーションした田んぼアート=行田市201707「陸王」の舞台となった埼玉県行田市も盛り上がり、コラボレーションした田んぼアートも=2017年7月
  今まで私が見た朝ドラでいちばん熱中したのは『鮎のうた』だ。朝ドラ史の中ではあんまりメジャーに語られることもないし、タイトル聞いても思い出さない人も多いかもしれませんが、たぶん当時、何百万人もの視聴者が熱狂したはず。1979年下半期の大阪局制作。主演は山咲千里。女の細腕一本で船場の御寮さんまでのぼりつめるというナニワ商人モノ。平均視聴率42.7%って、どんだけ人気あったんだ。山咲千里もその後あんなボンデージファッションでイケイケになったりするとは想像もつかないような、楚々とした、しかしシンの強いナニワ美人を好演していました。とにかく、毎回毎回後を引く展開がすごかった。脚本は花登筺(はなと・こばこ)。あの花登筺。

池井戸潤ドラマは、現代の花登筺ドラマ?

 朝ドラのことを語りたいのではない。花登筺のことを語りたいんです。

 「あの」花登筺、って言っていま通じるのか、『細うで繁盛記』『どてらい男』『あかんたれ』『ぬかるみの女』と、彼が脚本書いた連続ドラマはとにかく一世を風靡したもんだ。泥臭くてジメジメして主人公は理不尽に虐めぬかれたりするものの最後は見事に商売で成功する連続ドラマで、一回見ちゃったら最後まで見ずにはいられないっていうやつ。

 池井戸潤ドラマって、現代の花登筺ドラマなんだろうか。

 と、最初考えてみたのである。

 企業(商売)モノで、主人公やその会社が苦労して最後には成功、達成感とともに完。視聴者も前のめりに見てしまって最後にスカーッとなる、という。『半沢直樹』に『下町ロケット』に、『陸王』。舞台が現代っぽくなった花登筺。

 と、最初考えていたわけだが、それは私が池井戸潤ドラマをよく見てなかったからであった。『半沢直樹』をちらっと見ただけで言ってたことで、とんだ見立て違いだった。テキトーなことを言うものではない。

 そもそも、池井戸潤ドラマが現代の花登筺だとしたら、『半沢直樹』をちらっと見てそれっきりなんてことはなく、(いろいろひっかかったりはしながらも)熱中するはずなのだ。ええ、私は池井戸潤ドラマにはぜんぜんハマれない。いろいろと「ムリ」。

対立する側がマンガっぽすぎる

 『陸王』を見てのことで言うと、まずはいいと思ったことから先に書いておく。

 こはぜ屋社長の家とか、工場とか、すっごくよくできてると思う。今あの家や工場を探してくるというロケハン能力はすごい。

 阿川佐和子にも驚く。あの、物分かりの悪そうな、論理の通じなさそうな、女職人的風情が絶品。キャスティング能力高い。寺尾聰と市川右團次もいい。この3人はうまい。

 主役の役所広司は、悪い役者じゃないと思うけどさいきん「何をやっても役所広司」で、驚くことが何もない。役所広司は「無名塾」出身で無名塾の師匠は仲代達矢で、仲代達矢も「いつ見てもあの顔、あの芝居」だったことを思い出し、師匠の薫陶は大きなものであったのだと感じ入った。

 ここまではいいとして。

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