軽やかな外国「女性映画」、気の滅入る内容の多かった日本の秀作群
2017年12月28日
1 『立ち去った女』(ラヴ・ディアス監督)
2 『エル ELLE』 (ポール・バーホーベン監督)
3 『ありがとう、トニ・エルドマン』(マーレン・アデ監督)
4 『彼女がその名を知らない鳥たち』(白石和彌監督)
5 『映画 夜空はいつでも最高密度の青空だ』(石井裕也監督)
次点:(外国映画)『ローサは密告された』(ブリランテ・メンドーサ)、『ダイ・ビューティフル』(ジュン・ロブレス・ラナ)、『未来よ こんにちは』(ミア・ハンセン=ラヴ)、『笑う故郷』(ガストン・ドゥプラット&マリアノ・コーン)、『希望のかなた』(アキ・カウリスマキ)、『ドリーム』(セオドア・メルフィ)、『ゲット・アウト』(ジョーダン・ピール)
(日本映画)『夜明け告げるルーの歌』『夜は短し歩けよ乙女』(共に湯浅政明)、『バンコクナイツ』(富田克也)、『散歩する侵略者』(黒沢清)、『アウトレイジ 最終章』(北野武)、『愚行録』(石川慶)、『光』(大森立嗣)、『ビジランテ』(入江悠)
映画祭(公開未定):『エクス・リブリス ニューヨーク公共図書館』(フレデリック・ワイズマン)、『天使は白をまとう』(ヴィヴィアン・チュウ)、『迫り来る嵐』(ドン・ユエ)
今年は、まずフィリピン映画の年だったのではないか。昨年に東京を含む各地の国際映画祭で受賞した作品が3本も劇場公開された。今や世界の映画祭の台風の目とも言えるフィリピン映画だが、特にラヴ・ディアスとブリランテ・メンドーサという2人の巨匠が日本で劇場公開されたことは大きい。
ラヴ・ディアスは各国の映画祭で受賞してきたが、これまでの長編は5時間や10時間などとにかく長かった。今回のベネチア国際映画祭で金獅子賞を取った『立ち去った女』は3時間48分と「短め」だが、冤罪で30年も刑務所に入った女・ホラシアが真犯人・ロドリゴを追う姿を白黒でじっくりと描く。強い復讐の意志を持ったホラシアの静かな立ち姿がいい。遠くからロドリゴを凝視し、出会う弱者に自然に手を差し伸べる。カメラは固定でその怒りの凝視と優しさの時間を見せてゆく。そして終盤、突然カメラが動き出す時には心底びっくりした。
ラヴ・ディアスが考えつくされた固定ショットを並べて奥深い審美的映像を作り出すのに比べると、『ローサは密告された』のブリランテ・メンドーサ監督はドキュメンタリーのような手持ちカメラによるリアリズムの社会派だ。スラム街で麻薬を売って暮らす一家と警察との駆け引きを息もつけないような迫力とスピードで描く。
彼らほど作家性はないが、『ダイ・ビューティフル』のジュン・ロブレス・ラナ監督は巧みなストーリー・テラーと言えよう。亡くなった女装のミス・クイーンの生涯を7日間の葬儀の中で振り返ってゆく。いずれにしてもこの3本は今年公開された映画の中で異彩を放っていた。
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