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【ヅカナビ】『WEST SIDE STORY』

「ロミジュリ」を経た今だから理解できる名作の底力

中本千晶 演劇ジャーナリスト


 2018年1月12日、東京国際フォーラムにて宙組『WEST SIDE STORY』が開幕した。タカラヅカではちょうど50年前の1968年に初演。前年の『オクラホマ!』に続く2作目の海外ミュージカルであった。そして今回は1999年以来、19年ぶりの再演だ。もちろん、名曲ぞろいの名作ミュージカルだということは知っていた。だが、再演されると聞いたとき、「今頃になって何故?」と不思議に感じた人も多いのではないだろうか。

 ところが、いざ幕が上がると程なく、そんな疑問がいかに浅はかなものだったかを思い知らされた。あの有名なナンバーに乗ってジェッツとシャークスの面々が静かに踊り始めると、ヒリヒリするような緊張感に体が震えた。漠然とは知っていたはずなのに不思議と手に汗握る物語の展開、しかも場面ごとにこれでもかといわんばかりに名曲が続く。

 それに、『ロミオとジュリエット』との対比がこれまでになく面白く感じられるのが新鮮だった。ミュージカル版の「ロミジュリ」を何度も観たおかげで、踏襲しているところも、逆に違っているところも手に取るようにわかり、そこから汲み取れる意味の深さに唸らされる。この期に及んでようやく『WEST SIDE STORY』の名作たる所以が本当に理解できたというのが、今回の再演を観ての率直な感想である。

「ロミジュリ」と比較してみる面白さ

 今回の一番の大きな気づき、それはこの作品が『ロミオとジュリエット』を実に上手く踏襲しており、その上で、舞台を「1950年代のアメリカ」にスライドさせて巧みにアレンジしているということだ。もちろん『ロミオとジュリエット』がベースということはこれまでも知っていた。だが、場面も登場人物もこれほどまでに『ロミオとジュリエット』とつながっているとは恥ずかしながら気付いていなかった。

 トニー(真風涼帆)がロミオ、マリア(星風まどか)がジュリエット(むろん、その程度のことは知っていた)。そして、ベルナルド(芹香斗亜)はティボルト、リフ(桜木みなと)はマーキューシオ、チノ(蒼羽りく)はパリスである。ドラッグストアの店長ドクはロレンス神父の役回りだ。それをミュージカル『ロミオとジュリエット』で神父役を演じていた英真なおきが演じているのが心憎い。

 キャピュレット家の舞踏会にあたるのが体育館でのダンスパーティーであり、そこでトニーとマリアは出会う。バルコニーの場面さながらにトニーもマリアに会いに来るが、そこで歌われるのが名曲「トゥナイト」だったのだ。

 マリアの良き理解者でもあるアニータ(和希そら)は乳母の役回りで、マリアとトニーの仲介として一役買おうとする。だが、『ロミオとジュリエット』では乳母はモンタギューの若者たちをかわして役目を果たすが、『WEST SIDE STORY』においてはジェッツの男たちがアニータを辱め、それがラストの悲劇を招く。女性への蔑視が愛を引き裂いてしまうとは何と皮肉な展開だろうか。

 おそらくこれは2010年に初演されたミュージカル『ロミオとジュリエット』の影響だ。今やミュージカルファン、タカラヅカファンの間で「ロミジュリ」を知らぬ者はないといっていいくらいだが、こうして『ロミオとジュリエット』の基礎知識が観客の側にも深く共有されている点が、昔との大きな違いではないかと思うのだ。

 これまでも日本のミュージカルファンの多くにとって『WEST SIDE STORY』は名作には違いなかったが、それは「名曲揃いのミュージカル」という域を出ていなかった。だが、シェイクスピアが教養の一部である欧米の観客にとっての『WEST SIDE STORY』は全然別の意味を持っていたのだ。極論すれば日本のミュージカルファンも、ようやくその域に達することができたということではないだろうか。

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『タカラヅカ流世界史』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師、NHK文化センター講師。

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