孤独と向きあう主人公を描き続けた“時代の寵児”
2018年01月25日
私たちが思っている以上に、小室哲哉という存在は時代と深く交わっていたのかもしれない。
小室が“時代の寵児”として一世を風靡したことは誰もが知る事実だ。だがそうした紋切り型で語る以上に、小室哲哉と私たちはもっと深いところで同時代人だったのではないか。今回の「引退」表明とその決断に対する世の中の反応は、そんなことを感じさせる。
ミュージシャンとしての小室哲哉の輝かしい実績は、改めてふれるまでもないだろう。オリコン調べによると、小室は作詞家、作曲家、編曲家すべての部門でシングル総売上枚数の歴代ベスト5にランクインしている( ※2018年1月14日までの集計分)。現在これを達成しているのは小室哲哉だけで、いかに彼が日本のポピュラー音楽史上でもまれな成功を収めたかがわかるだろう。
自らがリーダーを務めるバンドTM NETWORKや渡辺美里が歌った「My Revolution」(1986)の作曲など1980年代から活躍していた小室だが、とりわけ1990年代は、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いであった。「小室ファミリー」と呼ばれた歌手たちが次々と大ヒットを飛ばし、1996年4月15日付のオリコン週間シングルチャートでは、ベスト5を彼のプロデュース曲が独占したこともあった。
そのチャートに名を連ねた5組の歌手、安室奈美恵、華原朋美、globe、dos、trfを改めて眺めてみると、当時の小室哲哉の仕事の方向性が自ずと浮かび上がってくるようで、興味深い。
1位は、安室奈美恵の「Don't wanna cry」。すでにユーロビートのカバー曲をヒットさせていた安室だったが、小室のプロデュース曲によってさらに人気に拍車がかかった。言うまでもなく、初のオリコン1位を獲得した「Chase the Chance」(1995)も、自身最大のヒット曲となった「CAN YOU CELEBRATE?」(1997)も小室のプロデュースによるものであった。
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続・安室奈美恵の光と影――沖縄出身であること――沖縄と女性、二つの周縁性を体現した存在(WEBRONZA)
続く2位は、華原朋美「I'm proud」である。華原はあまり芽の出ないグラビアアイドルだったときに、たまたまテレビに出ていたところを小室に見初められ、歌手デビューにいたった。彼女も小室のプロデュースで多くのヒット曲を出したが、「I'm proud」はミリオンセラーとなった代表曲である。
この華原の場合のように、小室はアイドルをしばしば歌手として成功に導いた。アイドルグループ・東京パフォーマンスドールに所属していた篠原涼子に提供した「恋しさと せつなさと 心強さと」(1994)が大ヒットを記録したのはその好例だ。
3人グループのdosもその部類に入る。ボーカルのtaeco(西野妙子)は元アイドルであった。彼女がdosのメンバーになったきっかけは、テレビ東京のオーディション番組『ASAYAN』である。ほかにも小室は、この番組で合格した新人の鈴木あみ(当時)をプロデュースし、TM NETWORKのカバー曲「BE TOGETHER」(1999)などヒット曲を生み出した。
もちろん、小室哲哉のプロデュースはアイドル路線限定だったわけではない。“売れる”ことに人一倍こだわりを持つ一方で、テクノサウンドを基調にしつつ日本ではまだなじみの薄い音楽や流行のトレンドを取り込むことにも貪欲であった。件のチャートに登場する残りのtrfとglobeは、その側面を示すアーティストである。
globeは、小室自身も加わった3人組として認知されているが、当初はボーカルのKEIKOとラッパーのマーク・パンサーの2人組でデビューの予定だった。当時、同じ編成の2アンリミテッドというテクノ・ダンス系ユニットが海外で大成功を収めていたのに触発されてのものだった。しかし、いざデビューという段になって、メンバーとして小室自身が加わり、3人組としてデビュー。とりわけ「DEPARTURES」(1996)はダブルミリオンを売り上げるメガヒットになった。
このようにして、小室哲哉は、テクノとダンスを大衆化させた。従来、そうしたタイプの音楽は、ディスコやクラブを中心に楽しまれるものだったが、小室はそこに印象に残るキャッチーなメロディを加えることで、その魅力を広く世間に浸透させたと言えるだろう。
その点、テレビの存在は大きかった。ドラマの主題歌やCMのイメージソングなどタイアップによって、小室哲哉の音楽は私たちの日常に自然に入り込んできた。たとえば、「DEPARTURES」がJRのスキー旅行キャンペーンのCMソングであったことを覚えている方も多いはずだ。
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