続・浜田雅功「黒塗りメイク」論争を再考する
「イエローフェイス」の白人タレントを日本人は笑えるか
赤尾千波 富山大学人文学部人文学科教授(アメリカ文学・文化専攻)
吊り目、ほそ眉、出っ歯の「お手軽」東洋人メイク
「イエローフェイス」とは、前稿で述べた「ブラックフェイス」同様、単に「黄色い顔」あるいは「黄色く化粧した顔」という意味ではない。白人俳優が、目じりにテープを貼って吊り目にし、眉を細く整えて作り上げた、ステレオタイプとしての「東洋人の顔」のことを言う。
浜田雅功「黒塗りメイク」論争を再考する――「ブラックフェイス」は、“忌まわしき過去の象徴”
アジア人自身が見ると、大変不自然なメーキャップであり、なぜアジア系の俳優に演じさせないのだろうと思われるが、「白人俳優のほうが……、クリシェ(常套句(じょうとうく))としての東洋人を心得ているから」(村上由見子『イエロー・フェイス――ハリウッド映画にみるアジア人の肖像』朝日選書、1993年、89頁)、クリシェ、言い換えればステレオタイプの「東洋人」として、より一層、誇張して演じることができて便利であったというのだ。
軍服を着た「害獣」――米プロパガンダに見る日本軍人
【写真1】 https://commons.wikimedia.org/wiki/File:You_Can%27t_Pop_a_Jap_with_Scrap_-_NARA_-_533976.jpg?uselang=ja
アメリカで、イエローフェイスの日本人が大量生産されたのは、第二次世界大戦当時のプロパガンダ作品においてである。
映画では、韓国系や中国系の俳優を起用することが多かったが、マンガやポスターなどに見る東条英機などの軍人は、イエローフェイスのイラストで描かれている。
このころ、吊り目・ほそ眉に加え、メガネをかけていて、歯並びが悪い(出っ歯)、頭でっかち(低身長)というのも、イエローフェイスの日本兵、日本男性を描く際の必須構成要素となっていった。
【写真2】 https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Rub_out_the_Axis%5E_-_NARA_-_534901.jpg?uselang=ja
【写真3】 https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Save_A_Tap._Slap_A_Jap%5E_-_NARA_-_533908.jpg?uselang=ja
【写真4】 https://commons.wikimedia.org/wiki/File:AntiJapanesePropagandaTakeDayOff.png
【写真5】 https://commons.wikimedia.org/wiki/File:US_propaganda_Japanese_information.jpg?uselang=ja
ネズミ、サル、ヘビなどの動物にイエローフェイスがのっかったイラストも描かれた。
【写真6】 https://commons.wikimedia.org/wiki/File:%22Jap_Trap%22_-_NARA_-_515862.tif
【写真7】 https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Alaska_-_death-trap_for_the_Jap_LCCN98510121.jpg?uselang=ja
【写真8】 https://commons.wikimedia.org/wiki/File:%22Keep_talking_I%27m_all_ears%22_-_NARA_-_514812.jpg
【写真9】 https://commons.wikimedia.org/wiki/File:%22Crushing_Might_of_America%22_-_NARA_-_514475.jpg?uselang=ja
【写真10】 https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Crush_the_Snake_for_Victory%27s_Sake._Our_Production_Make_Much_More_-_NARA_-_534489.tif?uselang=ja
白人女性を襲おうとする姿や、「血に飢えた怪物」の姿も、好んで描かれた。
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