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[書評]『黙殺』

畠山理仁 著

中嶋 廣 編集者

落選、落選、また落選  

 これは第15回開高健ノンフィクション賞受賞作である。新聞やテレビなどのマスメディアからは、徹底的に「黙殺」された候補者たちを追った本だ。というと、あの人やこの人が出てくるだろうなと、読む前からワクワク、ドキドキする。とにかくまず面白い本である。

『黙殺——報じられない“無頼系独立候補拡大『黙殺――報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』(畠山理仁 著 集英社) 定価:本体1600円+税
 著者はこの「黙殺」された人々を、まず「泡沫候補」と呼ぶのはやめようという。

 「世間の人たちは、彼・彼女らを侮蔑のニュアンスを含めて『泡沫候補』と呼ぶ。だが、私はこの呼称には到底納得できない。だから、私は敬意を込めて『無頼系独立候補』と呼んでいる」

 たとえば先の東京都知事選挙で、民放テレビ4社のニュースが、各候補者に割いた割合は、主要3候補(小池百合子、増田寛也、鳥越俊太郎)対その他18候補では、97%対3%である。これでは、あまりに不公平ではないか。

 そこでフリーランスライターである著者は、すべての立候補者に接触し、彼らの活動や政策を一人でも多くの人に伝えたいと願う。どうしてそんなことをするのか。「それは、すべての候補者が同額の、決して安くはない供託金を支払い、対等な立場で立候補しているからだ」。なるほど、これはもっともだ。

 しかも「多様な選択肢」をあらかじめ捨ててしまうことは、社会にとってもったいないことではないか。うーむ、じつに堂々たる意見ではないか。

 で、まず最初は、「第一章 マック赤坂という男」。しかしここで、最初から腰砕けになる。「その声の発信源が着ているコスチュームは、選挙の立候補者としては常識外の、エアロビクスのインストラクターそのものだ。視覚情報が邪魔してなのか、話がすっと心に入ってこない。どうしても奇抜なファッションが気になる」著者が、マック赤坂を真面目に考えるのが難しいというのに、読者はどんな顔をすればよいのか。いや、まあ、面白いですけどね。

 マック赤坂は最初の選挙で、ごくあたりまえに政見放送をやって惨敗した。そこで戦略を練り直し、選挙運動を先鋭化させていく。「メディアに取り上げられなければ票は取れない」からだ。しかし結局、票は取れないんだから、同じことではないのかな、と僕なんかは思う。

 マック赤坂の政策は、たとえば次のようなものだ。

 「『東京を恋愛特区にする』
  『高齢者も恋愛を』
  『眉間にシワで東京都の街角を歩いたら3万円の罰金』
  ……この政策を読んだだけでも心が和み、幸せな気持ちにならないだろうか」

 僕はそんな気持ちにはとてもなれない。

 他の候補も似たようなものだ。では「泡沫候補」、ではなくて「無頼系独立候補」なんてどうでもよい、歯牙にもかけないものとして無視していいんだろうか。問題は世襲議員の存在だ。このままずっと「無頼系独立候補」が無視されたままだと、既存の政治家やその後継者しか、選挙に出て勝つことができなくなる。

 じっさい衆議院議員の選挙など、跡取りの何代目かがずらりと並び、これが平成の選挙かと疑うばかり。これは別に都会であっても、田舎であっても変わらない。たとえば第2次安倍晋三内閣の最初の閣僚19人のうち、11人は世襲議員だった。

 著者の言う通り、「『新規参入』や『成り上がり』の可能性がない業界は、必ずと言っていいほど衰退する」。そしてもう議会政治の衰退は始まっているのだ。問題は、その衰退を加速させるのが、「無頼系独立候補」なんかどうでもよいとするマスコミだという点だ。

 また日本の選挙には、もう一つ特殊な面がある。それは「供託金」という、前払金の問題である。「たとえば衆議院の選挙区、都道府県知事選は300万円。政令指定都市の首長選の場合は240万円。国政の比例で選挙に出ると600万円もかかる」。

 供託金はアメリカやフランス、ドイツでは存在しない。イギリスでも7万5000円程度だという。欧米に倣うのがこの国の常なのに、供託金の多寡だけは日本が群を抜いている。「売名行為での立候補を抑制するため」というのが表向きの理由だが、本当のところはわからない。当初は「社会主義的な思想を持つ立候補者が国政に進出することを阻むことにあった」という説があり、どうやらこれが当たっているみたいだが、本当のところはよくわからない。

 だいたいいくら供託金を上げてみても、売名行為はなくなりはしない。当面、供託金をかぎりなく0に近づけることが、政治の世界を活性化するための数少ない切り札となろう。

 著者は終わりのところで、こういうふうに総括する。「投票理由は『政策』と言っているのに、実は誰も政策をしっかり見ていない。そんな現状に危機感と苛立ちを覚えたからこそ、無頼系独立候補たちは思い切った行動に出ているのだ」。確かに思い切った行動に出ているかもしれない。しかしそれは、現状を鑑みてそれに対抗して知恵を絞りだしている、というのとは違うと思う。

 違うけれども、しかしこの地点からでなければ、他にどんなところに風穴が開けられるというのか。本書を2度読んで、少し考え方を変えた。こういう事態を馬鹿々々しいと思わずに、泡沫候補=無頼系独立候補に心をよせることによって、優れた候補者が出るかもしれない。選挙による議会制民主主義の突破口は、たぶんそこにしかないのである。

*ここで紹介した本は、三省堂書店神保町本店4階で展示・販売しています。
*「神保町の匠」のバックナンバーはこちらで。

*三省堂書店×WEBRONZA  「神保町の匠」とは?
年間8万点近く出る新刊のうち何を読めばいいのか。日々、本の街・神保町に出没し、会えば侃侃諤諤、飲めば喧々囂々。実際に本をつくり、書き、読んできた「匠」たちが、本文のみならず、装幀、まえがき、あとがきから、図版の入れ方、小見出しのつけ方までをチェック。面白い本、タメになる本、感動させる本、考えさせる本を毎週2冊紹介します。目利きがイチオシで推薦し、料理する、鮮度抜群の読書案内。

筆者

中嶋 廣

中嶋 廣(なかじま・ひろし) 編集者

1953年生まれ。新卒で入社した筑摩書房はすぐに倒産。9年後、法蔵館へ移籍し、『季刊仏教』を編集しつつ、『上山春平』著作集や養老孟司『カミとヒトの解剖学』などを編集。2001年、トランスビューを設立し、池田晶子『14歳からの哲学』、森岡正博『無痛文明論』、島田裕巳『オウム』、小島毅『父が子に語る日本史』、チョムスキー『マニュファクチャリング・コンセント』などを手がける。