林瑞絵(はやし・みずえ) フリーライター、映画ジャーナリスト
フリーライター、映画ジャーナリスト。1972年、札幌市生まれ。大学卒業後、映画宣伝業を経て渡仏。現在はパリに在住し、映画、子育て、旅行、フランスの文化・社会一般について執筆する。著書に『フランス映画どこへ行く――ヌーヴェル・ヴァーグから遠く離れて』(花伝社/「キネマ旬報映画本大賞2011」で第7位)、『パリの子育て・親育て』(花伝社)がある。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
ワイントロップ・ディレクター「カンヌには賞があり過ぎです」
カンヌ「監督週間」50年、その裏側を聞く――ワイントロップ・ディレクター「カンヌができないことを補っている」
――カンヌの「監督週間」はコンペ形式はとっていません。「監督週間からは賞をあげない」というのは、今も大事な選択なのですか。
ワイントロップ 大事なことだと考えます。そもそもカンヌには賞があり過ぎです。あとから人々が思い出すのは、せいぜい最高賞のパルムドールくらいではないですか。もちろんパルムドールはあってもよいですが、他の賞はどうでしょうね。
私はウディ・アレンの考えにかなり賛成です。つまり、監督同士を競争させたいなら、すべての監督に同じ脚本と予算を与えればよいのだ、と。監督週間が賞をあげない選択をしていることに、私は満足しています。
――カンヌとの激しいライバル関係は、昔から語り草です。このライバル関係に、ポジティブな面はありますか。
ワイントロップ 激しい情熱とエネルギーを生み出します。情熱を起こさせるものは必要だと思います。2015年は論争に発展したほど、カンヌとの対立関係が激化しました。それに比べ2017年は作品の取り合いもなく、関係は落ち着いたものでした。落ち着きすぎて、逆に心配になったほどです。
――カンヌのディレクターであるティエリー・フレモーさんとは、映画関係者が集まる場所で会うことも多いと思うのですが、「こんにちは」くらいは言える仲なのでしょうか。
ワイントロップ 彼とは互いに映画祭に関わるずっと前から、それこそ25年来の友人です。今も年に4、5回は、関係者の食事会で一緒になります。仕事の相談で電話をすることも多いです。2017年は、ネットフリックスの取り扱いについて話し合いました。たしかに互いを批判し、喧嘩をする時もあります。しかし、その後で人間味のある関係を保っていられます。
――それに引き換え、カンヌのジル・ジャコブ前会長の本を読むと、昔のカンヌと監督週間との関係は「戦争」と言えるものでした。ジャコブさんと戦いを繰り広げたのは、監督週間を創設し、長く率いたピエール=アンリ・ドゥローさんですね。
ワイントロップ 創設から30年間、監督週間を率いた人です。
――ピエール=アンリさんは今でもカンヌにいらっしゃるのですか。
ワイントロップ もうカンヌには来ていません。しかし私は今でもパリで一緒にお酒を飲みます。
――どのような方ですか。
ワイントロップ 彼と仕事をした人はみな、彼との素晴らしい思い出を持っています。非常にエネルギッシュで、愉快な人物です。
――少し怖い印象もありますが。
ワイントロップ たしかに彼はとても怒りっぽいです。でも、ジャコブさんも監督週間にはひどいことをしましたから。
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