横田由美子(よこた・ゆみこ) ジャーナリスト
1996年、青山学院大学卒。雑誌、新聞等で政界や官界をテーマにした記事を執筆、講演している。2009年4月~10年2月まで「ニュースの深層」サブキャスター。著書に『ヒラリーをさがせ!』(文春新書)、『官僚村生活白書』(新潮社)など。IT企業の代表取締役を経て、2015年2月、合同会社マグノリアを設立。代表社員に就任。女性のためのキャリアアップサイト「Mulan」を運営する。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
岡崎医療刑務所の運動場には、着物の「母子像」がある。和装の母子像は非常に珍しく、見学に訪れた者は必ずこの母子像の前で足を止めるという。子を慈しみ、深く腕に抱く母の顔が印象的だ。
敷地内を案内してくれた鍋内智博処遇部長は母子像建立の経緯を次のように説明した。
「昭和40年代、岡崎市内のある会社に強盗が入り、被害にあった経営者のもとに、事件から数年後のある日2万円が同封された手紙が届いたとのことです。手紙には『私は事件の加害者です。今は更生してまじめに働いている。(同封したのは)償いの気持ちのお金です」という主旨の文面が記されていた。その後、同様の手紙が1年近く毎月送られてきました。経営者は、その加害者に対して『気持ちは受け取ったから、これ以上の送付はしなくていい。まじめに仕事を続けてくれるように』と丁寧に断りの連絡を取った。その後、その経営者が岡崎医療刑務所教育活動後援会のメンバーである友人にこの償いのお金の使途について相談をしたことに端を発して、岡崎医療刑務所のグラウンドに『母子像』建立の話が持ち上がり、教育活動後援会の支援金とその償いのお金を合わせて建立したそうです」
岡崎の受刑者は、知的障害が理由で、小さい時から虐待を受けたり、ネグレクトされた人が多いことは前稿でふれた。刑期の長短にかかわらず、親に見捨てられて面会に誰も来ないという受刑者も決して稀ではない。彼らはそういう自分たちの境遇を自嘲するかのように、「みなしごハッチ」と呼ぶ。
たとえ見捨てられていたとしても、寒い塀の中で、眠れぬ夜に思いを馳せるのは、自分を生んでくれた母親なのかもしれない。
「世間的にはどんなにおかしな母親であっても、私にとっては最愛の母なんです」
最近、知的障害の母親から生まれた健常者の子どもに話を聞く機会があった。