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北翔海莉、私を選んでくださったことに応えたい

藤間勘十郎文芸シリーズ其の三『恐怖時代』『多神教』出演

真名子陽子 ライター、エディター


 藤間勘十郎文芸シリーズ其の三『恐怖時代』『多神教』が6月30日(土)に京都芸術劇場 春秋座で上演される。2月に東京・三越劇場で上演された演目で、追加公演として関西で上演されることが決まった。古今東西の文学に古典芸能の要素を取り入れ、振付師・藤間勘十郎が立体的に作り上げるシリーズの三作目で、『恐怖時代』『多神教』の二部構成。一部の『恐怖時代』は江戸深川の武家屋敷でお家乗っ取りを企む側室・お銀の方の陰謀を描いた谷崎潤一郎の戯曲。二部の『多神教』は泉鏡花の原作で、丑の刻参りの女に神職たちと社の媛神とのやりとりを幻想的にかつコミカルに描いた作品。

 この二作に元宝塚歌劇団男役トップスターの北翔海莉が挑む。大阪で北翔の取材会が行われ、初めて女性役として着物を着て演じることの難しさや役作りについて、追っかけをしているという藤山直美とのやり取りや目指す役者像などを元男役らしく凛とした言葉で語ってくれた。

『恐怖時代』、すっきりと美しい人間模様を

拡大北翔海莉=岸隆子撮影
記者:京都公演への意気込みをお願いいたします。

北翔:退団して1年3カ月経ちました。ミュージカルにも出演させていただきましたが、ご縁がありましてお能の舞台や今回のような舞台に出演させていただき、宝塚では経験できなかったジャンルに挑戦することができてうれしく思っています。そして今回、追加公演として春秋座で公演できることを大変光栄に思っています。

記者:演じる役について教えてください。

北翔:『恐怖時代』は谷崎潤一郎先生の作品で歌舞伎でも上演されている有名な作品ですが、ファンの方たちの間では、なんで北翔さんが出るの?と言う声がありました。今までの『恐怖時代』の演出は血しぶきが客席まで飛ぶような演出や、舞台上が血の海になるような演出が多かったんですね。でも今作は赤い液体は全く使わずに、死の美学といいますか、“美”に見せるためにどういう演出が良いか、藤間先生がお考えになられて実にすっきりと美しい人間模様をお伝えできるのではと思っています。

 その『恐怖時代』で演じますお銀の方は遊女あがりで、息子を殿様にしようとする一心で殺人を犯します。宝塚在団中は刀を持ったり、鼠小僧や桂小五郎、勝海舟、最後は薩摩の桐野利秋を演じ、袴や着流しはさんざん経験しましたが、今回は女性として着物を着るという……所作もわからなかったですし七五調のセリフも初めてでしたので、皆さまに手取り足取り教えていただき学ばせてもらいました。

女性の見せ方を教えてもらい、男性の見せ方を教えた

記者:今回の役を演じるにあたり、苦労されたところと、それをどう克服されたのか教えてください。

北翔:一番苦労したのはやはり所作ですね。小道具の使い方や座り方ひとつわかりませんでした。どうしても男っぽくなってしまうねと先生に言われたり、毒殺するシーンでは男の見えの切り方をするねと言われました(笑)。自分の引き出しにないものを一から学ぶという状態で大変でしたけれど、共演者の中に女方の河合宥季さんがいらして、若いのですが知識がとても豊富な方で、女性はこうするのよと教えて下さいました。男役として理想とする男性の美学を作ってきましたが、性別が逆になると女方として女性の美しさを研究されている方に聞くのが一番なんだなと思いました。

記者:とても女性らしくなったなと感じます。

北翔:中身はまったく変わってないですよ(笑)。お稽古に入ったときから、普段の生活から気を付けなければいけませんわよ、と言われました。不思議ですよね、男役を極めた人と女方を極めている人が、それぞれ本来の性別で芝居をするんですから。最後にその二人が刀で刺し違えて死にましょうというシーンがあるんですけど、私は覚悟ができている目をして、相手は愛おしい目をするんです。そうしたら先生が君たち逆だからと。なぜ北翔さんが愛おしい目をしないんだと言われて、稽古場からみんなで大笑いしてましたね。

北翔さんは一度男を経験してからの女性役だから良い

拡大北翔海莉=岸隆子撮影

記者:『恐怖時代』は今までにたくさん上演されていますが、この作品の主題は何でしょう?

北翔:最終的にお銀の方は一体何が欲しかったのか。地位なのか、ただ復讐をしたかったのか、いろいろテーマがありまして、どの部分を見せようかと悩みました。息子に家督を継がせたい一心で邪魔者を殺すのか、自分が昔にやっていた職業に対して男性への復讐を自分自身が訴えたかったのか。お客さまにいろんな部分でキャッチしてもらえるように作って挑みました。ただ殺すのが快感というような殺人鬼になってしまうと、私自身に合わないなと思ったんですね。全員の死ぬシーンは見ないようにしたり、自分でお芝居を作って今までのお銀と少し形を変えました。

記者:死ぬシーンは見ないようにしたのはなぜでしょう?

北翔:殺しが楽しいのではない、という風に作り変えたんです。なんの感情もなく殺すのではなく、命の大切さはわかっているけれど、でも……という私ならではの役作りをしました。

 そもそも、なぜ私がお銀なんだろうと思ったので、お稽古が始まった時に、なぜ私にお銀の役をあてたんですかと先生に尋ねたんです。そうしたら、歌舞伎や映画でいろんな女優さんがお銀を演じてきたけれど、普通の女優さんがやるとリアルでグロテスクだとおっしゃったんです。でも歌舞伎は女方がやっているから良いと。そして北翔さんは一度男を経験してからの女性役だから良いとおっしゃるんです……が、元々私は女なんですと言ったんですけど(笑)。男役を経験して挑むほうが、女優さんがやるよりも鋭さや切なさの見え方が少し違うんじゃないかなとおっしゃいました。だから、女性にしかない芯の強さや、切なく悲しく、そして美しさをうまく表現したいなと思いましたし、先生が宝塚出身の私を選んでくださったことに応えたいなと思いました。

記者:先生のその答えは腑に落ちたんでしょうか?

北翔:落ちましたね。特別に女性らしくしなくていいんだなと思いましたし、凛とした部分があっていいんだなと思いました。とても気が楽になりました。

記者:男役としてのキャリアが生きるのではないかと思うのですが。

北翔:そうですね。自分で気づくというよりも共演者の方にやっぱり宝塚の方は……と言われて気づくことがたくさんありました。お銀の中に二面性があると思うんですね。色っぽく愛らしく振る舞う男性に向ける顔と、侘しさや切なさを持ち何かを計画しているもう一方の顔。それを、男役を経験した自分と今の女優としての自分という、その二面性を使ってうまく表現できたら良いなと思っていたので、もうひとつの顔を明確に出せることができて面白いなと思っています。

美空ひばりさんのようなカッコイイ和物の似合う女優に

拡大北翔海莉=岸隆子撮影

記者:共演者について聞かせてください。

北翔:三林京子さんは手取り足取り教えてくださいました。七五調のセリフの言い回しが初めてでしたので、清元のお稽古に連れていってくださったり、和物ができる女優が少なくなってるからしっかりがんばりなさいと言ってくださったり。いろんな引き出しを伝授していただいて、和物をやる女優としての心構えや芸を教えていただきました。

記者:和物に対する思いが深まったのでは?

北翔:そうですね。在団中から藤山直美さんの追っかけをするほど、人情喜劇が大好きなんです。美空ひばりさんは時代劇ミュージカルと言うんでしょうか、和物で歌って踊って、そして立ち回りもして男役も演じていらっしゃいました。今そういう役者が少なくなってきているなと思うんです。ブロードウェイミュージカルは日本でもたくさん公演されていますけど、歌舞伎でもない時代劇ミュージカルは、日本人しかできないものだなと思います。宝塚歌劇でいろんな芸を修行させていただきましたので、洋物だけでなく和物で歌って踊って芝居をして立ち回りもして男役もできる女優、美空ひばりさんのようなカッコイイ和物の似合う女優を目指したいです。

記者:美空ひばりさんは、映画にも出ていました。

北翔:私は映像より生の舞台が好きです。すごく頑固な思いですが、私はカメラを通してではなくて、生のステージで目の前にお客さまがいて、その時のテンションが違えば温度も違って反応も日々違う、そういう一期一会の生のステージが自分の性格にあうと思っています。そして、役の人生を限られた上演時間の中で一生懸命に生き抜くのが好きなんですね。

 直美さんはもちろん映画にも出演されていますが、舞台に立ち続けていらっしゃいます。生の舞台にこだわっていらっしゃる理由がわかる気がしますし、生だからこそ、心のクスリとしてお客さまにパワーをお届けできるんじゃないかなと思うんです。

“損をさせない北翔海莉”でいきたい

拡大北翔海莉=岸隆子撮影

記者:直美さんとはどんなお話をされるんですか?

北翔:電話やメールでご連絡させて頂いております。松竹の舞台(『蘭RAN 緒方洪庵浪華の事件帳』)のことを相談したときは、とても良いお話だからぜひお願いしなさいと言っていただきました。こうやって直美さんと連絡を取れる人は珍しいと(藤山)扇治郎さん(『蘭RAN 緒方洪庵浪華の事件帳』で共演)が驚いていましたね(笑)。扇治郎さんにはお話していないんですが、直美さんが扇治郎さんのことを私に「未熟者だけどすごく真面目で一生懸命やる子なので、どうぞ宜しく御指導お願いします」と叔母の目線でおっしゃったのはびっくりしました。大先輩の役者さんですから大変恐縮しました。

記者:直美さんの追っかけを始めたきっかけは何だったんですか?

北翔:宝塚在団中に男役を作ることにがんじがらめになって芝居がわからなくなった時があったんです。その時に、『浅草パラダイス』を見て、お芝居ってこんなにおもしろいものなんだと衝撃を受けまして。アドリブをするから面白いとかではなく、人間の喜怒哀楽やその人の人生をどれだけ真剣に一生懸命生き抜くか、演じ抜くかが客席に伝わる面白さだと感じたんです。そこから直美さんを追っかけ始めまして、藤山寛美さんのDVDも全部買って見ました。

記者:それはいつ頃ですか?

北翔:研10(宝塚入団10年目)の頃ですね。男役10年と言われていて、作ったもののこれから自分はどういうキャラクターにすればいいのか、北翔海莉としてどう存在したらいいのかを迷った時に、やっぱり涙あり笑いありの役者になりたいと単純に思ったんです。なかなかできないことですし、3枚目をできる人が2枚目をやったときに強烈にしびれる時があるんです。そういう役者になりたいなと思ったんです。

記者:関西のファンの方が楽しみにしていると思います。メッセージをお願いします。

北翔:本来は東京のみだった公演をこうして関西でできるご縁に感謝しています。なかなか来られないお客さまのためにも、この一回に北翔海莉のパワーを舞台から120%でお届けしたいなという思いでいっぱいです。『恐怖時代』『多神教』というタイトルで躊躇(ためら)うところもあると思いますが損はさせません! “損をさせない北翔海莉”でいきたいと思いますので(笑)、躊躇わずに劇場へお越しいただけたらうれしいです。みっちゃん〈北翔の愛称〉の舞台を観て元気になったわと思っていただけるように、そう思ってもらえることを生きがいに私もこの職業を選んでいますし、そう思っていただける作品です。ぜひ見にいらしてください。

◆公演情報◆
藤間勘十郎文芸シリーズ其の三
一部『恐怖時代』/二部『多神教』
2018年6月30日(土) 京都芸術劇場 春秋座
[プログラム]
一部『恐怖時代』谷崎潤一郎作、藤間勘十郎演出
二部『多神教』泉鏡花作、藤間勘十郎演出・振付
[出演]
北翔海莉、市瀬秀和、鯨井康介、妃鳳こころ、古今亭志ん輔/三林京子 ほか
公式ホームページ

筆者

真名子陽子

真名子陽子(まなご・ようこ) ライター、エディター

大阪生まれ。ファッションデザインの専門学校を卒業後、デザイナーやファッションショーの制作などを経て、好奇心の赴くままに職歴を重ね、現在の仕事に落ち着く。レシピ本や観光情報誌、学校案内パンフレットなどの編集に携わる一方、再びめぐりあった舞台のおもしろさを広く伝えるべく、文化・エンタメジャンルのスターファイルで、役者インタビューなどを執筆している。

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