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必見!『ビガイルド 欲望のめざめ』(中)

細心の画面づくり、衣装デザイン

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』拡大『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』公式サイトより

 前回も触れたが、『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』では、ゴシック・スリラーというジャンル映画には一見不向きに思える、極端に光量を抑えた光、極端に彩度を落としたカラーが全編を律している。日中の室内シーンはしばしば、窓から差す逆光ぎみの自然光のみを光源としている。しかも、その多くがスモークを焚かれた場面だ。したがって、ほとんどの室内映像がおぼろげに霞んだ薄暗い/薄明るい、コントラストの低いローキーの画面に仕上がっている(カメラマンのフィリップ・ル・スールは、自然光が足りないときはロウソクで補ったという)。

 屋外シーンも同様で、ル・スールのカメラは、黒人奴隷制のもとで南部の経済基盤となったプランテーション(大農場)に特有の、古代ギリシャ風の大邸宅である女子学園の荘厳な外観を、周囲の鬱蒼とした森林を背景に、黄白色の陽光がハレーションを起こしたように広がる空をフレームに大きく取り入れ、その白亜のファサード/正面や円柱や側壁に随時フォーカスしながら、スモーキーな画調の壮麗なロングショットをいくつも披露する。

 あるいは、太い幹を縦横に伸ばした巨木にからみつく着生植物が巨大な簾(すだれ)のように垂れさがる奇観を、ロマン派絵画風の崇高なタッチを加味して映し出す。瞠目(どうもく)すべき建築描写および自然描写だ(ロケ地はディープサウス/深南部のルイジアナ)。しかし肝心なのは、こうした、ややもすれば作り手の美意識だけが空転して「唯美主義」――あるいは“おしゃれ”――に流れかねない画(え)の数々を、ソフィア・コッポラはぎりぎりのところでそういう風にはせずに、映画の側にしたたかに手繰り寄せることで、戦慄的なゴシック・スリラーとして本作を仕上げた点は、すでに触れたとおりだ。

女たちの視線の描写のスリル

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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

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