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スタジオライフ演出家、倉田淳インタビュー/下

ジョー・クリフォード版『アンナ・カレーニナ』日本初上演

真名子陽子 ライター、エディター


スタジオライフ演出家、倉田淳インタビュー/上

どう生きるかを足掻きながら探している世界が『アンナ・カレーニナ』

拡大倉田淳=冨田実布撮影

――では、この作品を通して伝えたいことは?

 なぜ生かされているのか、この世に生を受けて生きているのか。その生を自分も納得し、全うするにはどんな道を生きていったらいいんだろうということを、いろんなキャラクターを通してトルストイは書いているのでは?と思うんですね。

――やはり根底には“存在意義”があるんですね。

 そうですね、レゾンデートルだと思います。混沌とした世界の中で自分はなぜ命を与えられ生きているのか、生きていくために自分はどういう風に過ごせばいいのか、何をしたらいいんだ、ということを考えるところまでいきたいです。その、どういう風に生きていくかをトルストイは表そうとしているんじゃないかと。貴族社会の中でどんどん観念の中に埋没していくアンナとヴロンスキー、そしてプライドにがんじがらめになっているアンナの夫カレーニンがいて、彼女たちを軽蔑して貴族社会から爪弾きにしようする崩壊していく社会がある。一方、田舎の領地に暮らし農業をして生きていこうとするリョーヴィンとキティがいる。キティは崩壊していく貴族社会の中で世間知らずに暮らしていたのに、リョーヴィンとの生活を選びます。そこが彼女の人生のすごい選択ですよね。

――キティがそこへ行き着くまでには、いろんなことが起こります。

 ヴロンスキーに惹かれるのですがフラれたことによって病んでしまい、その中でたどり着いた結果が、いつもとなりにいてくれたリョーヴィンと一緒になること。リョーヴィンと一緒になって足掻く努力を続け、生まれた子供を食べさせていくために生きていこうとする。ジョーさんの脚本は、チェーホフの「三人姉妹」のような終わり方をするなと思います。濃いキャラクターがいろいろ出てきて、そのいろんな人生を見せてくれながら、それぞれがじゃあどうやって生きていくんだということを足掻きながら探している世界。それが『アンナ・カレーニナ』の世界のような気がするんです。その究極にシンボライズされた人がアンナであり、彼女は滅びの象徴として存在するのかな……でも、最後の彼女の死は解放だと思います。

――アンナの最期は自分のためだけの死ですか?

 いえ、あの時代に生きたいろんな女性達の痛みを全部抱え込んでの「死」だと思っています。だからその先にあるのは「解放」と思わないとあまりにもかわいそうだと思ってしまいます。

――かわいそうだと思うんですね。

 シンパシーを覚えます。今の時代だったら離婚なんて誰も何にも思わない。

小説版は男性が訳しているので男性目線なんです。女性の翻訳家に訳してほしい!

――アンナは自分本位だなと思ってしまうところがあります。

 そうなんですよ。それは、翻訳は難しいという話に戻るんですけど(笑)、小説は女性が訳していないんです。男性が訳しているので男性目線なんです。女性の翻訳家に訳してほしい!そうすると絶対に視点が違ってくるはずなんです。今まで男性の学者しか訳していないんですよね。

――なるほど!! その違いは大きい気がします。

 シェイクスピアを翻訳する時に松岡(和子)先生とお話させて頂いたことがあるんです。その時に先生がおっしゃったのは、『ロミオとジュリエット』の中で、ジュリエットがロミオに対して、結婚して「頂く」と言うんです。でも英語には敬語なんてないですから、正しい訳は、結婚「する」でいいんです。それを男性が翻訳すると、自分の理想像をジュリエットに盛り込まれるのか、結婚して「頂く」になるんです。それは違うんです!って。(笑)。だから、『アンナ・カレーニナ』の膨大な訳にも、男性目線がちりばめられていると思います。翻訳の難しさはこういうところにもあるんじゃないでしょうか。

――ロシア人のトルストイが書いた作品をイギリス人のジョー・クリフォードが戯曲にしています。その間にも翻訳がなされています。

 ジョー・クリフォードの世界になっているから私は寄り添っていけるんです。ジョーさんは、元は男性なんです。ご結婚もされてお嬢さんもいらして、この間お孫さんが生まれました。良いパパでダンディーな大学教授でしたが、今は女性として生きていらっしゃいます。奥様を亡くされて、どこでどう人生に落とし前をつけられたのか、そこまでお話を伺ったことはないんですが……。名前も、本当はジョン・クリフォードなんですが、ジョー・クリフォードに変えられました。ご本人もカミングアウトされています。男性でいた時代も、自分の中に特別な感覚はあったと思います。今は女性として生きているので、その複雑な思いはものすごくわかっていらっしゃいます。

――戯曲になった段階で女性の機微みたいなものは、すべて入っているんですね。

 そうです。ジョーさんの戯曲だから、私は寄り添ってやりたいと思ったんです。ロシア語から日本語に訳される時に男性文学者の目線が入っていて、かつてのシェイクスピアを男性翻訳者が結婚して「頂く」と訳したようなことが起きているんだろうなと、勝手に妄想しています。ジョーさんはアンナの視点もちゃんと深く、そしてアンナの傷をものすごく細かく救い上げていらっしゃるからすごいなと思います。

◆公演情報◆
スタジオライフ公演『アンナ・カレーニナ』
2018年5月26日(土)~6月10日(日) 東池袋・あうるすぽっと
公式ホームページ
[スタッフ]
原作:レフ・トルストイ
脚本:ジョー・クリフォード
翻訳:阿部のぞみ
演出:倉田淳
[出演]
石飛幸治、笠原浩夫、楢原秀佳、山本芳樹、曽世海司、岩﨑大、船戸慎士、関戸博一(иチームのみ出演)、仲原裕之、宇佐見輝、久保優二、千葉健玖、吉成奨人、伊藤清之、鈴木宏明、前木健太郎/藤原啓児
※и(イー)チームとс(エス)チームのダブルキャスト公演
〈倉田淳プロフィル〉
東京都出身。1976年、演劇集団「円」演劇研究所に入所。第1期生。芥川比呂志に師事。氏の亡くなる1981年まで演出助手をつとめた。1985年、河内喜一朗と共にスタジオライフ結成、現在に至る。劇団活動の他、1994年より西武百貨店船橋コミュニティ・カレッジの演劇コースの講師を務めた。また英国の演劇事情にも通じており、その方面での執筆、コーディネーターも行っている。

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筆者

真名子陽子

真名子陽子(まなご・ようこ) ライター、エディター

大阪生まれ。ファッションデザインの専門学校を卒業後、デザイナーやファッションショーの制作などを経て、好奇心の赴くままに職歴を重ね、現在の仕事に落ち着く。レシピ本や観光情報誌、学校案内パンフレットなどの編集に携わる一方、再びめぐりあった舞台のおもしろさを広く伝えるべく、文化・エンタメジャンルのスターファイルで、役者インタビューなどを執筆している。

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