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生徒と教師のための部活改革は進むのか?

「地域クラブ化」には生徒を守る仕組みが必要

中澤篤史 早稲田大学スポーツ科学学術院准教授

「磐田スポーツ部活」の陸上競技部の中学生たち=磐田市拡大学校の枠を越えた「地域クラブ」にはまだまだ課題が多い=静岡県磐田市の「磐田スポーツ部活」

部活に悩む中学生からのメール

 先日、中学生からメールをもらった。差出人は部活に悩む中学生で、私が部活研究者と知って連絡をくれたようだ。メールには、スマホで撮った写真が添えられていた。何だろう、と思って拡大して見てみると、中学校で配られた保護者向けプリントらしく、こんなことが書いてあった。「これから、週に平日一日以上、土日一日以上を部活動の休養日とします。適切な活動時間も設定します」。

 この中学生は、期待と不安を交えて私に尋ねてきた――「部活は本当に変わるのでしょうか?」。

 誤解の無いように付け加えておくと、この中学生は部活が嫌いなわけじゃない。むしろ、部活を楽しみにしていて、熱心に頑張っている。しかし、それでも部活のやり過ぎには困っていて、たまには休みが欲しいと願っている。ごく普通の中学生の気持ちだろう。

 こうした生徒の声に、教師や大人(もちろん私も!)が真摯に向き合い、今こそ部活改革を進めていかねばならない。好きな部活を生徒が嫌にならなくてすむように、部活のやり過ぎを止めなくてはならない。

なぜ部活改革なのか

 ここ最近、部活改革の必要性が盛んに叫ばれる。その背景には、部活の2つの重大問題がある。

 一つは、死亡事故や暴力・体罰で生徒の生命が脅かされている問題だ。中学・高校の柔道部では死亡事故が相次いだ。高校バスケ部で体罰事件が起きて生徒が自殺した。部活でのいじめや暴力が止まらない。部活で生徒が傷つくなんて、繰り返してはいけない。生徒のために、部活改革が叫ばれるようになった。

 もう一つは、苛酷な勤務状況で教師の生活が脅かされている問題だ。経験の無い部活を任されて、やりがいを見いだせず、過労死ラインを越えて働き続ける教師は多い。勤務時間・手当支給・災害補償といった労働条件整備は不十分で、「ブラック部活」と言われても仕方ない。部活を支えているのは教師なのだから、部活を支えるためにも教師を支えなくてはならない。教師のためにも、部活改革が叫ばれるようになった。

 こうした背景から、国や地域がいろいろと部活の改革に取り組みだしている。では部活改革は、どのように進められているのか。本当にうまく進むのか。

スポーツ庁の「総合的なガイドライン」

 国レベルの部活改革は、文部科学省とスポーツ庁が取り組んでいる。文部科学省は、2016年4月に学校現場の「業務の適正化」をめざす専門チームを立ち上げて、6月にその検討結果を報告した。そこでは、「部活動の負担を大胆に軽減する」と打ち出されて、「休養日の設定」、「ガイドラインの策定」、「部活動指導員の制度化」などが示された。

 2017年1月には、文部科学省初等中等教育局とスポーツ庁が、休養日設定を含んだ「運動部活動の適切な運営」を求める通知を出した。3月には、学校教育法施行規則が改正され、部活動等の指導・助言や各部活動の指導、顧問、単独での引率等を行うことを職務とする学校職員として「部活動指導員」が新設された。合わせて中学校学習指導要領が改訂され、部活動に「持続可能な運営体制を整え」ることが求められた。

 続いて5月から、「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン作成検討会議」が開始され、2018年3月にガイドラインが公表された。このガイドラインには「総合的」という言葉が付いている。そのわけは、大阪市立桜宮高校での体罰事件を機につくられた2013年の「運動部活動での指導のガイドライン」を踏まえているからだ。今回、「指導」だけではなく、運営や管理、あり方全般を見直すために「総合的なガイドライン」がつくられた。

 この総合的なガイドラインは、「適切」「合理的」「効率的・効果的」な部活のあり方として、週2日の休養日を設定しよう、平日の活動時間は2時間程度にしよう、と具体的な規制を提言した。この意義は大きい。

部活ルールをどうつくるか

 でも、本当に実現するの?と疑問に思う人も多いだろう。これまでにも国の提言は行われてきたけれど、きちんと守られてこなかったからだ。そもそも部活は、自主的な課外活動なので、政策的な規定がおよびにくい。

 実は「部活をしなさい」と命じる法律は無い。部活は、現場で積み重ねられてきた慣習といえる。その慣習が広がり深まり、結果として、やり過ぎ状態になってしまった。無法地帯で放置されてきた部活に、あらためてルールづくりが求められている。

 ガイドラインには、週2日休みといったルールが書かれていると同時に、そうした部活ルールをどのようにつくるか、という手続きについても書かれている。

 ガイドラインは、まず都道府県にガイドラインに沿ったルールをつくることを命じていて、つぎにその都道府県ルールに沿って、市区町村や学校設置者にもっと詳細なルールをつくることを命じている。さらにその市区町村ルールに沿って、校長や教師が現場ルールをつくって、部活を適切に運営することを命じている。現場までずいぶん長い距離があるけれど、よくある教育行政の道筋が辿られている。

 このようにガイドラインは、ルールのつくり方のルールも記しているわけだ。その意味でガイドラインには、部活ルールの「憲法」のような役割も期待されていると言えるかもしれない。

 でも、「憲法」のようだと言ったものの、私は戸惑い混じりで括弧を付けた。そのわけは、近代国家の憲法が持つような立憲主義的な性格は備えていないからだ。近代国家の憲法は、主人公である国民が、自分たちを縛る国家そのものを縛るためにつくられる。これが立憲主義だ。

 この例えでガイドラインを見直してみると、部活の主人公は誰か? もちろん生徒だ。ならば、真に立憲主義的な部活ルールをつくろうとすれば、生徒の声を反映させなくてはならないはず。 ・・・ログインして読む
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筆者

中澤篤史

中澤篤史(なかざわ・あつし) 早稲田大学スポーツ科学学術院准教授

1979年生まれ。東京大学教育学部卒業、東京大学大学院教育学研究科修了、博士(教育学)。専攻は、スポーツ社会学、身体教育学、社会福祉学。著書に、『そろそろ、部活のこれからを話しませんか――未来のための部活講義』(大月書店)、『運動部活動の戦後と現在――なぜスポーツは学校教育に結び付けられるのか』(青弓社)など。