米山麻美子(よねやま・まみこ) ライター
東京都出身。2013年より兵庫県在住。小学校から高校まで部活動は演劇部ひとすじ。大学の芸術学部演劇学科に進むも、入学したとたんに興味が映像や障害者福祉など別分野に移り、成人後しばらくは劇場から離れた生活を送る。仕事関係で宝塚歌劇を見たことからふたたび舞台芸術の魅力にはまる。演劇系webサイトで宝塚・ミュージカル・演劇関連の観劇レポートやインタビュー記事を執筆。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
早霧せいなが演じるキュートな女性像。笑いの裏に現代的テーマも
早霧せいなが演じる“超”がつくほどのキャリア・ウーマンが、舞台上で豪快に笑い、酔っ払って弱音を吐き、恋する相手を前に瞳を輝かせる。観劇前の予想を遥かに超えるコミカルな演技と、軽快なダンス。男役として積み上げてきた経験があってこそ演じられるキュートな女性像がそこにあった。
元宝塚歌劇団雪組トップスターの早霧せいなが、退団後はじめて女性役として主演。今井朋彦、春風ひとみ、原田優一、樹里咲穂、そしてセリフ・歌唱がある役に初挑戦するバレエダンサーの宮尾俊太郎(Kバレエ カンパニー)など、芸達者な共演者たちの見せ場も楽しいミュージカル『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』が梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで開幕した(5月27日まで。東京公演は6月1日~6月10日:TBS赤坂ACTシアター)。
上演を重ねるごとに「笑い」が進化していきそうなコメディ作品。同時にいまの日本社会だからこそ、深く考えてみたいテーマも隠された舞台に仕上がっている。
早霧が演じるのはニュース番組の人気キャスター、テス・ハーディング。女性が仕事を持つことが今よりも珍しかった時代に、男性以上に活躍し、大統領から映画スターまで世界中のセレブと懇意にしているという設定だ。
オープニングは、タイトルにもなっている「ウーマン・オブ・ザ・イヤー(その年にもっとも輝いた女性に贈られる賞)」の授賞式。髪型をアップスタイルにまとめ、黒とゴールドの配色が印象的なドレスを身にまとった早霧は申し分のない美しさ。男役時代には滅多に見ることのできなかった細い腰や足首に思わず目が釘付けになってしまうファンも多いだろう。
すっかり“女性”に変身した姿に見とれていると、テスが「男なんていらない、私はひとりでやっていける!」と、パンチの効いた声で歌い出す。楽曲の音域は、ミュージカル作品のヒロインが歌うものにしてはかなり低め。これはブロードウェイの初演でテスを演じたローレン・バコールの声質と音域に合わせたものなのだそうだが、これが早霧の個性にもぴたりとハマった。セリフの声質も無理に作った女声ではなく、男役時代から聞き慣れた調子のままだ。コミカルなセリフまわしに雪組トップスター時代に主演した『ルパン三世 王妃の首飾りを追え!』や『るろうに剣心』を思い出す人も多いかもしれない。「女性役だから」と無理な作り込みをせず、自然体のまま挑む姿勢が好印象だ。
男性出演者に囲まれ、センターで踊る姿も堂々としたもの。客席を指差す姿や、振付にあるファイティングポーズが妙にカッコよく決まってしまうのも元宝塚トップスターならではだろう。
早霧が着こなす衣裳の数々にも目を奪われる。オープニングこそエレガントなドレス姿だが、その後はハンサムな印象のパンツスーツ姿が多い。絞られたウェストのラインと、華奢なヒールの靴が男役時代とはちがう証拠だ。フリルのついたエプロン姿で料理に悪戦苦闘する二幕の場面は、衣裳のかわいらしさと、早霧のコミカルな演技のギャップが爆笑を誘う必見箇所となっている。
◆公演情報◆
ミュージカル『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』
2018年5月19日(土)~27日(日) 大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
2018年6月1日(金)~10日(日) 東京・TBS赤坂ACTシアター
公式ホームページ
[スタッフ]
原作:ピーター・ストーン
作曲:ジョン・カンダー
作詞:フレッド・エッブ
上演台本・演出・訳詞:板垣恭一
音楽監督:玉麻尚一
[出演]
早霧せいな、相葉裕樹、今井朋彦、春風ひとみ、原田優一、樹里咲穂、宮尾俊太郎(Kバレエ カンパニー)ほか
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