勝部元気(かつべ・げんき) コラムニスト・社会起業家
1983年、東京都生まれ。民間企業の経営企画部門や経理財務部門等で部門トップを歴任した後に現職。現代の新しい社会問題を「言語化」することを得意とし、ジェンダー、働き方、少子非婚化、教育、ネット心理等の分野を主に扱う。著書に『恋愛氷河期』(扶桑社)。株式会社リプロエージェント代表取締役、市民団体パリテコミュニティーズ代表理事。所有する資格数は71個。公式サイトはこちら
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「自覚的に無自覚」になる醜い加害者心理を知る
財務省前事務次官・福田淳一氏のセクハラ問題を受けて、麻生太郎大臣の無責任な発言が問題となっています。とりわけ、「セクハラ罪っていう罪はない」と、今なお福田氏を庇(かば)い続ける姿勢には驚いた人も多いでしょう。さらに、その後、その発言を追認するかのように、閣議決定もされる事態になっています。
確かに日本で「セクハラ罪」がないのは事実です。ですが、官僚に限らず私たちが犯してはならないことは、刑法に書かれている行為だけではありません。セクハラは被害者を生む人権問題なのに、「刑事罰になっていないからさほど重要な問題ではない」かのように捉える発言は、批判を受けて当然でしょう。
むしろ「セクハラ罪がない」ことがおかしいのではないでしょうか? たとえば、ストーカー行為は以前は罪に問われることはありませんでした。ですが、今では罰を受けて当然の行為として認識する人も多いはずです。時代の変化(成熟)とともに、これまで蔑ろにされてきた人権が救済の対象になることは、決して少なくありません。
セクハラに関しても、まだこの社会の人権感覚が発達していないだけで、将来は刑事罰を処するに値する行為とみなされる可能性は十分にあります。「セクハラ罪を設けるなんていくら何でもやり過ぎでは?」と思う人もまだ多いかもしれませんが、既にセクハラ罪が存在する国があります。たとえば、フランスでは26年前の1992年に「セクハラ罪」が成立しています(※「労働政策研究・研修機構」のHPに詳細記述)。
また、職場の問題ではありませんが、フランスでは、#MeTooムーブメントの流れから、路上でのセクシャルハラスメント(=ストリートハラスメント、ストハラ、ナンパ)行為に対しても上限750ユーロ(約9万8000円)の罰金を科すことになりそうです。既にオランダでも2018年1月1日からストハラ行為に対して190ユーロ(約2万5000円)の罰金を課すことが始まっていますが、今後他の欧米先進国でもストハラを犯罪行為にする流れになるかもしれません。
自由の国というイメージのあるこれらの国々で何故ストハラに罰金が課せられるかと言えば、当然「ナンパされたくない自由」を尊重したからだと思います。これまで男性中心社会の多くは、「自由」の名のもとに加害する男性の自由を認めて、加害されたくない女性の自由を蔑ろにしてきました。そして福田氏が釈明の際に用いた「言葉遊び」というような言い訳で、人権侵害行為を矮小化してきたわけです。
ジェンダー平等が進み、女性が受けていた被害が人権侵害だと認識されるようになった今、これまでの「自由」に対する考え方が見直されるのは当然のことでしょう。なお、日本でも野田聖子総務相兼男女共同参画担当相が「セクハラ罪」の創設に関して、必要であれば排除しないことに言及しています。将来の首相候補の一人と囁かれる人物が言及したことはかなり意義のあることです。是非実現して欲しいと思います。
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