横田由美子(よこた・ゆみこ) ジャーナリスト
1996年、青山学院大学卒。雑誌、新聞等で政界や官界をテーマにした記事を執筆、講演している。2009年4月~10年2月まで「ニュースの深層」サブキャスター。著書に『ヒラリーをさがせ!』(文春新書)、『官僚村生活白書』(新潮社)など。IT企業の代表取締役を経て、2015年2月、合同会社マグノリアを設立。代表社員に就任。女性のためのキャリアアップサイト「Mulan」を運営する。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
悔しさや怒りを消化できずに呆気なく終わったが……
岡崎医療刑務所(愛知県岡崎市)についての短期連載でも少し触れたが、昨秋(2017年)、私の元義弟が中学時代に先輩と慕っていた人間から殴られて落命した。事件は、傷害致死罪として裁判員裁判適用となった。
私は、元義弟とは、妹が駆け落ち同然に結婚した25年前から一度も会っていないので、訃報を聞いた時も、第三者的な感覚だったことは否定できない。
今年20歳になったはずの甥とも11歳の姪とも10年近く会っていなかった。お通夜と葬式には出席したが、どこか現実味を感じられなかった。
しかし、事件で気弱になった妹とはその後、頻繁に連絡をとるようになり、結局私は、限りなく遺族に近い他人のような感覚で、この裁判を傍聴することとなった。妹は約3年前、元義弟と離婚するも、子どもたちの親権が元義弟にあったため、事実婚のような関係になっていた。また元義弟には、神戸に住んでいる妹以外ほとんど身よりがなかったので、初公判に遺族として出席できるのは、ほかに甥と姪だけだったからだ。
担当検事氏から被害者参加の連絡があったのは、昨年の暮れも押し迫ったころだ。甥に対して、「参加するか否か」と質問があったという。
妹たちは「裁判員裁判」という言葉こそ知っていたが、その中身についてほとんど知らず、2008年12月から始まった、被害者参加制度にいたっては、
「聞いたこともない。どう判断したらいいかわからない」
というものだった。
かくいう私も、被害者参加については、妹たちと同じ程度の認識しかなかった。裁判所のHPを見ると、「殺人、傷害、自動車運転過失致死傷等の一定の刑事事件の被害者等が、裁判所の許可を得て、被害者参加人として刑事裁判に参加するという制度です」とある。大きく、
・刑事訴訟法上の検察官の権限行使に関し、意見を述べ、説明を受けられる
・一定の要件の下で情状証人や被告人に質問したり、事実や法律の適用に対して意見を述べることができる
と、ある。甥に聞くと、こう答えた。
「自分の父親のことだから、公判に出席して出来るだけその“最期”について知りたい。オヤジは、暴行を受けて顔面は見分けがつかないほど腫れ上がり、意識不明になって尿も便も垂れ流している状態のまま1日近くも加害者の車の中で放置されていた。なぜ殺人罪ではないのか納得できないです」
私が最後に会った時は小学生で、“甘えん坊”という印象だったが、すっかり大人になっていたのに驚いた。私が、今後の生活について、
「妹も姪も、私のところに呼ぶ選択肢もあるよ」
と言うと、
「お母さんも妹も自分が食わせていく。オヤジにも墓をつくってやるつもりなんだ」
と、話した。私にはやや大言壮語に聞こえたので、
「それが本当にこの3人にとって幸せなのだろうか」
と、困惑したが、まずは甥の意志を尊重することにした。
担当検事氏に電話をして確認したところ、国選で弁護士を付けることもできると言われた。
「今年1件、甥御さんと同じぐらいの年齢の方が被害者参加するケースがありましたが、弁護士さんが入ることで、制度について理解も深まりますし、私たち(検察官)とのやりとりもスムーズになります」
と、説明した上で、
「もし、こんな先生というご希望がありましたら、仰っていただければと思います」
という。
私は、若い甥には落ち着いた年配の先生がいいのかもしれない等、しばし逡巡した後、
「若くて、元気な先生の方がいいかもしれません。あまり年齢が離れていると、逆にコミュニケーションがとりにくい気がするので」
と答えたが、結局、「おおみや法律事務所」(さいたま市大宮区)の尾崎浩平弁護士が代理人としてついてくれることになった。これまでに4件、裁判員裁判を担当したという。奇しくも、甥の死んだ父親と同じ年齢で、初対面の印象では、親しみやすい感じが伝わってきて、私も安心した。