スピルバーグにおける<邪悪なもの>など
2018年05月30日
必見!『ペンタゴン・ペーパーズ』(上)――国民を欺きつづけた米政府
必見!『ペンタゴン・ペーパーズ』(中)――ヒロインの葛藤と決断、情報リークのスリル
『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』に描かれるように、米政府は、泥沼化するベトナム戦争の実態を国民に隠蔽しつづけたが、しかし、前述のごとくマクナマラの指示のもと、その“不都合な真実”を機密文書に詳細に記録・分析していた。そしてマクナマラらは、その文書を改ざんせずに保存していた。その点で、ペンタゴン・ペーパーズ事件と、我が国における公文書事件とは大きく異なる。それについては、エネルギー戦略研究所シニアフェロー・竹内敬二が詳述している(「話題の映画「ペンタゴン・ペーパーズ」の読み方」WEBRONZA・2018/04/10)。
また竹内は、『ペンタゴン・ペーパーズ』で描かれる、ワシントン・ポストがスクープまでに強いられた“時間切れまでの闘い”――記事掲載までの10時間というタイムリミット――についても、自らの新聞記者時代の体験を交えて興味深く論じているが、この“時間との競争”は、映画史的に見ても重要なモチーフだ。
たとえば、サイレント時代のバスター・キートン監督・主演による傑作喜劇、『キートンのセブンチャンス』(1925)では、主人公がその日のうちに結婚しなければ祖父の遺産を相続できない、という切羽詰まったシチュエーションが驚愕の超絶技巧で表現されるし、あるいはデンマークの巨匠、カール・ドライヤーが交通事故防止キャンペーンのために撮った傑作短編、『彼らはフェリーに間に合った』(1948)では、フェリーの出発時刻に遅れまいとオートバイを駆って船着き場に向かう1組の男女の運命が、ブラックコメディ風に描かれる(スピルバーグ初期の秀作、『激突!』(1972)はこの短編にヒントを得て撮られた)。
さらにスピルバーグ自身の破格の大傑作、『マイノリティ・リポート』(2002)では、“時間との競争”が、殺人予知システムに従い間もなく殺人が起こらんとしている現場に駆けつける捜査官に課せられるタイムリミット、として幻惑的に表象されるが、これらはほんの一例である(『マイノリティ・リポート』については、近々本欄の<再見シリーズ>で論じたい)。
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