歪んだ性情報源「AV」へのリテラシーが不可欠である
2018年05月31日
もっとつっこんだ性教育を!(上)――介入する都議・都教委はあまりに時代錯誤
もっとつっこんだ性教育を!(下)――「性交」「中絶」「避妊」は不可欠な言葉。世界に遅れをとる日本
中高生の性行動を活発化させる社会現象は、かなり前から目立っていた。80年代にはビデオデッキとともにポルノ映像(AV)が家庭へ入り始め、他方でテレクラが普及した。90年代には、出会い系サイトが生まれて子どもがそれに巻き込まれ、「援助交際」に世間が驚き、DVDと同デッキが普及してポルノ映像がさらに家庭に入り込んだ。
そして2000年代となると、90年代にはまだそう一般的ではなかったインターネット(以下「ネット」)の利用が急速に広がり、近年はSNSの利用も爆発的に増えた。ネットの影響は大きい。これらの社会変化に、中高生も巻き込まれざるをえない。その性行動は、おのずから活発化する。
その後一面では性行動に対する抑制的な傾向も生まれているとはいえ(草食系男子などという表現は、意味内容に違いはあるとはいえ、多かれ少なかれ似た事態をさしている)、それはそもそも比較的活発な性行動が一般化し日常化したからであって(日本性教育協会編『「若者の性」白書 第7回 青少年の性行動全国調査報告』小学館、2013年、20頁など)、多くの子ども・若者の性行動が、一世代前と比べてさえ活発になっているのは事実である。急激な変化が社会的な規模で起きているとき、子どもだけがその現実から自由でいることはありえない。
そのとき、性教育が満足に行われないということは、あってはならない。親はあるていど性教育に貢献できても、子どもは性的な点で成長するからこそ「親離れ」するのである。とすれば、親による性教育は最初からさほど期待できない。さしあたって若い人は友人・知人を性情報源とする。だが彼らが同じく若ければ、結局多かれ少なかれ何らかのメディアに頼ることになる。
90年代までは、メディアにおいてはポルノ映像(いわゆるAV:媒体は文字どおりのビデオでもDVDでもよい)が大きな影響をもっていた。他にはアダルト雑誌も重要な情報源になっていたが(NHK「日本人の性」プロジェクト編『データブックNHK日本人の性行動・性意識』NHK出版、2002年、261頁)、技術化の進展とともに、アダルト雑誌にもAV(DVD)が付録として付けられるようになり、両者は一体化し始めた。
そして2000年代、主要な性情報源となるメディアは、AVからネットのアダルトサイトに移っていった。特に、男性の場合にそれは顕著である(アダルトサイトには画像だけのものと映像を主としたものがあるが、映像のアダルトサイトを、以下、広義のAVと呼んでおく)。
今日、ネットの影響はきわめて大きい。大学で学生に接していてつくづく感じるが、学生が情報収集のために頼るのは、いま圧倒的にネットである。ある課題を与えて小論文等を書かせる際、各種の書籍を見せても、結局学生は書籍にではなくネットに頼る。この10年、特に携帯電話やスマートフォン等の普及を通じて、ネットの影響力がますます増した。
この点は性情報に関しても同様である。ネットを通じてAVが事実上無制限に見られるようになって以来、その影響力の大きさを恐れなければならない。いま中学生でさえ、見ようと思えばAVをいくらでも見られる。かつてのようにレンタル店や書店(上記のようにアダルト雑誌にしばしばDVDがついている)で、店員や他の客の目を気にする必要はなくなった。
なるほどパソコンやスマートフォンの「フィルタリング」機能も利用されている。だが、抜け道はいくらでもある。4月16日付朝日新聞でも、性教育に関わる助産師が、中高生が接するAVに懸念の気持ちを表していた。大学で聞いてみると、男子の場合には、中学生時代にAVに接触した経験をもつ学生が非常に多い(女子も一部いるが少ない)。見た回数も、女子が1度や2度なのに対し、男子はその10倍にもなる。
もちろんネットからは、性に関する良心的で科学的な内容の重要な情報も得られる。それらのサイトは、若い人が陥りがちな各種の問題を、あたかも本当の親(ということは実際はまずないのだが)のように親身になって、丁寧に教えてくれる。
ただし他面では、若い人に、特に若い男性に性的刺激を与えることをほとんど唯一の目的としたアダルトサイトが無数に混在しているのも事実である。というより、性に関わる情報を得ようとしても、それらが検索エンジンの上位に並んでしまい、性教育の発展を願い科学的な見地に立つサイトが若い人の目に触れにくくなっている。たいていの女子は、ここで困惑して情報そのものから遮断されてしまう。私は彼女らが、妊娠に関して正確な知識をもっていないことに、しばしば驚かされてきた。
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