有力メディアでのネガティブな意見も、圧倒的な好評の前に駆逐された
2018年06月06日
カンヌ映画祭は、星の数ほどある世界の映画祭の中で、世界最高峰の存在だ。世界三大映画祭の中でも、その規模やメディアの関心、集まる作品の質などを総合すれば頭一つ飛びぬけている。
ここで去る5月19日(現地)に、是枝裕和監督が『万引き家族』で最高賞パルムドールを受賞したのは、広く報道された通り。日本の作品では1997年に今村昌平監督が『うなぎ』で同賞を獲得してから、実に21年ぶりの快挙である。
しかも『うなぎ』はイランのアッバス・キアロスタミ監督『桜桃の味』との同時受賞のため、単独の邦画作品の最高賞受賞は、同じ今村監督が『楢山節考』で受賞した1983年、つまり35年前までこの偉業には遡れない。
また、アジア映画の枠で考えても、近年においてパルムドールの受賞は珍しいこと。パルムドールを受賞したアジア映画は、21世紀に入ってからは、2010年にアピチャッポン・ウィーラセタクン監督(タイ)の『ブンミおじさんの森』1本のみ。その意味でも意義深い「事件」だったろう。
重要な国際映画祭では、日々、有名媒体のジャーナリストが参加する星取表が話題となる。無料で配布される業界紙が掲載するもので、これを見れば、各作品の直後の評判が一目でわかるのだ。
ここで星取表を掲載する代表的な2誌による『万引き家族』のプレミア上映直後の評価を紹介したい。
●英スクリーン・デイリー誌
0点(Bad)から4点(Excellent)までの5段階評価。英・米・中・露・仏など、世界のジャーナリスト10人の評価から平均点を出す。全21作中、3.2点を獲得した『万引き家族』は最終的には2位につけた。1位は3.8点を獲得のイ・チャンドン『バーニング』、3位は3点のジャン=リュック・ゴダール『イメージ・ブック』。3点以上を獲得できたのは、この上位3作のみ。全体の平均点は2.4点。
●仏ル・フィルム・フランセ誌
こちらも5段階評価。フランスの有力媒体のジャーナリスト15人が参加。『万引き家族』は5段階で最高評価に当たるパルムドールマークを4つ獲得。全作を見ていないジャーナリストもおり、表には空欄もあるが、出ている評価から換算すれば、『万引き家族』の平均点は2.9。この表においては、キリル・セレブレンニコフの『LETO』の3点に次ぎ2位。3位はステファヌ・ブリゼ『At War』で2.8点。
つまり、このふたつの業界誌双方で、ともに上位につけることができたのが、唯一、『万引き家族』なのだ。例えば、フランス映画の『At War』は、同胞のフランス人には評判が高いが、外国人ジャーナリストの心にはさほど響かなかったようだ。
『万引き家族』の場合は、熱狂的に評価するジャーナリストがいたことに加え、世界のジャーナリストから分け隔てなく、「満遍なく愛された作品」となったのは大きな強みだろう。
林瑞絵 『万引き家族』の祝辞に表れた日本政府の無理解――歴代フランス大統領は作品内容に一歩踏み込んだコメントを出してきたのだが……
古賀太 是枝裕和『万引き家族』最高賞受賞と3つの奇跡――日本映画の国際映画祭出品ラッシュの総仕あげ
さて、プレミア上映後もコンペティション作品には、ライバルとなるパルムドール作品候補が現れ続けた。
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