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是枝裕和『万引き家族』がカンヌで受賞した理由

有力メディアでのネガティブな意見も、圧倒的な好評の前に駆逐された

林瑞絵 フリーライター、映画ジャーナリスト

(c)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.拡大是枝裕和監督『万引き家族』 (c)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

 カンヌ映画祭は、星の数ほどある世界の映画祭の中で、世界最高峰の存在だ。世界三大映画祭の中でも、その規模やメディアの関心、集まる作品の質などを総合すれば頭一つ飛びぬけている。

 ここで去る5月19日(現地)に、是枝裕和監督が『万引き家族』で最高賞パルムドールを受賞したのは、広く報道された通り。日本の作品では1997年に今村昌平監督が『うなぎ』で同賞を獲得してから、実に21年ぶりの快挙である。

 しかも『うなぎ』はイランのアッバス・キアロスタミ監督『桜桃の味』との同時受賞のため、単独の邦画作品の最高賞受賞は、同じ今村監督が『楢山節考』で受賞した1983年、つまり35年前までこの偉業には遡れない。

 また、アジア映画の枠で考えても、近年においてパルムドールの受賞は珍しいこと。パルムドールを受賞したアジア映画は、21世紀に入ってからは、2010年にアピチャッポン・ウィーラセタクン監督(タイ)の『ブンミおじさんの森』1本のみ。その意味でも意義深い「事件」だったろう。

上映後すぐに「真剣なパルムドール候補」

記者会見拡大カンヌでの記者会見。是枝裕和監督(中央)と主演のリリー・フランキーさん(左)、安藤サクラさん=撮影・筆者
 『万引き家族』は、映画祭の折り返し地点に当たる5月13日の夜、メイン会場のリュミエール劇場で、観客が正装でワールドプレミアを鑑賞するガラ上映でお披露目された。作品はすこぶる反応が良く、すぐに「真剣なパルムドール候補」という声が、世界のプレスから漏れ聞こえてきた。

 重要な国際映画祭では、日々、有名媒体のジャーナリストが参加する星取表が話題となる。無料で配布される業界紙が掲載するもので、これを見れば、各作品の直後の評判が一目でわかるのだ。

 ここで星取表を掲載する代表的な2誌による『万引き家族』のプレミア上映直後の評価を紹介したい。

●英スクリーン・デイリー誌
 0点(Bad)から4点(Excellent)までの5段階評価。英・米・中・露・仏など、世界のジャーナリスト10人の評価から平均点を出す。全21作中、3.2点を獲得した『万引き家族』は最終的には2位につけた。1位は3.8点を獲得のイ・チャンドン『バーニング』、3位は3点のジャン=リュック・ゴダール『イメージ・ブック』。3点以上を獲得できたのは、この上位3作のみ。全体の平均点は2.4点。

●仏ル・フィルム・フランセ誌
 こちらも5段階評価。フランスの有力媒体のジャーナリスト15人が参加。『万引き家族』は5段階で最高評価に当たるパルムドールマークを4つ獲得。全作を見ていないジャーナリストもおり、表には空欄もあるが、出ている評価から換算すれば、『万引き家族』の平均点は2.9。この表においては、キリル・セレブレンニコフの『LETO』の3点に次ぎ2位。3位はステファヌ・ブリゼ『At War』で2.8点。

 つまり、このふたつの業界誌双方で、ともに上位につけることができたのが、唯一、『万引き家族』なのだ。例えば、フランス映画の『At War』は、同胞のフランス人には評判が高いが、外国人ジャーナリストの心にはさほど響かなかったようだ。

 『万引き家族』の場合は、熱狂的に評価するジャーナリストがいたことに加え、世界のジャーナリストから分け隔てなく、「満遍なく愛された作品」となったのは大きな強みだろう。

有力メディアも高評価目立つ

 さて、プレミア上映後もコンペティション作品には、ライバルとなるパルムドール作品候補が現れ続けた。 ・・・ログインして読む
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筆者

林瑞絵

林瑞絵(はやし・みずえ) フリーライター、映画ジャーナリスト

フリーライター、映画ジャーナリスト。1972年、札幌市生まれ。大学卒業後、映画宣伝業を経て渡仏。現在はパリに在住し、映画、子育て、旅行、フランスの文化・社会一般について執筆する。著書に『フランス映画どこへ行く――ヌーヴェル・ヴァーグから遠く離れて』(花伝社/「キネマ旬報映画本大賞2011」で第7位)、『パリの子育て・親育て』(花伝社)がある。

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