矛盾点を検証した結果見えた捜索の問題点
2018年06月13日
新潟遭難事故、親子の命を助けられない日本のTV――反知性を進めた芸能人コメンテーターの罪
2018年5月5日に新潟県の五頭(ごず)連山に入山して行方が分からなくなっていた新潟市北区在住の会社員・渋谷甲哉さん(37)と長男で小学1年生の空くん(6)が、無事の生還を祈る人たちの想いも虚しく、5月29日に遺体となって発見されました。
報道によると、親子がうつぶせに折り重なるような状態で発見されており、息を引き取ったのは父親が先だったか息子が先だったか分かりませんが、どちらにせよ想像するだけでいたたまれない気持ちになります。
二度とこのような悲しい事故を起こさないためにも、登山者への啓発や捜索態勢の強化等が今以上に求められると思うのですが、この事故の経緯を改めて見返してみると、捜索活動に問題があったのではないかと思われる点がいくつも出てくるのです。初動で約9時間のタイムロスがあり、新潟県警が謝罪したことは既に各メディアでも報じられていますが、それ以上に、随所に矛盾点や疑問を感じる点が散在しています。
とりわけ、最も問題なのは、初動から少なくとも約1週間近く、見当違いの場所を捜索している点でしょう。遺体が発見された場所は、「五頭山」を起点とする「コクラ沢」(地図上の黄色で記した箇所)だったのですが、新潟県警は7日に「赤安山」、8日以降には「松平山西側や山頂付近の沢」(地図上の水色で囲った箇所)を捜索しているのです。初動が遅れたことに加えて、この捜索場所の間違いによって、生存確率の高い期間を完全に浪費してしまっています。
では、なぜ県警は捜索場所を間違ってしまったのでしょうか?
実は、渋谷さん親子が下りてしまったであろう「コクラ沢」については、プロでなくてもある程度の登山経験のある人なら、「地図を見る限りだと、周回コースを縦走する際にここが最も迷い込みやすいポイントの一つかもしれない」と簡単に推測できます。
一般的には、下っている途中で大きな支尾根(稜線や主尾根から派生している別の尾根)に迷い込んで遭難するケースが多く、残雪で道が消えているとその可能性は高まります。そして、松平山から五頭山に至る途中で最も大きく間違いやすい形をしているのが、地図上で赤く囲った「東コクラ沢の東尾根」と「ハナノ木沢の東尾根」の2つであり、南側の「東コクラ沢の東尾根」を奥に進むと黄色く囲った遺体発見現場に辿り着くのです。
実際、山登り専門のSNSサイトを開けば、親子が入山した翌日5月6日に同じ周回コースを縦走した登山者が写真と日記をアップしており、松平山から五頭山に至る途中で迷いそうになったという情報を記載していました。そもそも、県警自身も遺体発見現場について「尾根を縦走する際に道を誤るとたどり着きやすい」と述べているのです。
そうしますと、なぜ県警は捜索開始当初から「東コクラ沢の東尾根」と「ハナノ木沢の東尾根」にターゲットを絞らなかったのかますます疑問が浮かぶのですが、
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