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【ヅカナビ】月組『雨に唄えば』

名作ミュージカルで「芝居の月組」本領発揮

中本千晶 演劇ジャーナリスト


 

 月組公演『雨に唄えば』(赤坂ACTシアター)が好評のうちに幕を下ろした。言わずと知れたミュージカル映画の傑作であり、タカラヅカでも2003年、2008年とこれまで2度上演されている。だが、正直、この古き良き時代のミュージカルの再演と聞いて、「何故、今『雨に唄えば』?」と感じた人も多かったのではないか。

 じつは私もその一人だったことは否めないが、いざ幕が開いてみると、そんなことは即座に忘れて作品世界に引き込まれてしまった。おそらくそれは「芝居心」の力ではないかと思い当たった。

 名曲の数々、定番の名シーンが楽しいのは言うまでもない。だが、よくよく考えてみるとこの作品、お気楽ミュージカルのふりをしつつ、時代の変わり目をそれぞれに生き抜く人たちを、ユーモラスに、ちょっぴりほろ苦く描いた物語でもあるのだ。そんな「物語としての面白さ」に、主演の珠城りょう率いる「芝居の月組」らしさがうまくハマっていたのが今回の再演版の一番の魅力であったように思う。

映画界の技術革新に揺れる人たちの物語

 『雨に唄えば』と聞くと、ジーン・ケリーが雨の中で歌い踊るシーンばかりが思い浮かぶが、意外とどんな話か忘れていたりする。ここで改めてストーリーを振り返ってみよう。

 舞台は1927年のハリウッド。つまり世界恐慌の直前、「狂騒の20年代」と言われる時代である。ドン・ロックウッド(タカラヅカ版では珠城りょう・以下同)はサイレント映画界を代表するスターであり、共演者のリナ・ラモント(輝月ゆうま)とはゴシップ雑誌で常に熱愛が噂されている。事実リナの方はぞっこんだが、ドンはうんざりしているのだった。

 撮影所でピアノ弾きを務めるコズモ・ブラウン(美弥るりか)は、ボードビリアン時代からのドンの良き友であり、今なお傍らでドンを支えている。

 ある日、ファンの追っかけから逃れてひとり散歩していたドンは、舞台女優を目指しているというキャシー・セルダン(美園さくら)に出会う。「あなたのやっていることは演技ではない、ただの影」と率直に言われたドンはプライドを傷つけられながらも、キャシーのことが忘れられなくなるのだった。

 そんな折、サイレント映画界に激震が走る。トーキーの技術が実用化されたのだ。最初は「映画で声が流れるなんて」と皆バカにしていたが、ライバル会社がヒットを飛ばす中、ドンの所属する会社もトーキー映画の制作を余儀なくされる。だが、そこに大問題が立ちはだかった。看板女優のリナは、じつは誰が聞いても笑ってしまうほどの悪声の持ち主だったのだ……。

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『タカラヅカ流世界史』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師、NHK文化センター講師。

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