丹野未雪(たんの・みゆき) 編集者、ライター
1975年、宮城県生まれ。ほとんど非正規雇用で出版業界を転々と渡り歩く。おもに文芸、音楽、社会の分野で、雑誌や書籍の編集、執筆、構成にたずさわる。著書に『あたらしい無職』(タバブックス)、編集した主な書籍に、小林カツ代著『小林カツ代の日常茶飯 食の思想』(河出書房新社)、高橋純子著『仕方ない帝国』(河出書房新社)など。趣味は音楽家のツアーについていくこと。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
「おれのは、いまの農業から生まれたものっつうかさ」
盆踊りが静かなブームといわれたのが2014年、盆踊ろう会『盆おどる本――盆踊りをはじめよう!』(青幻舎)が刊行された頃だ。それから4年。小野和哉・かとうちあき共著『今日も盆踊り』(タバブックス)、大石始『ニッポン大音頭時代』(河出書房新社)など、盆踊りの「いま」を伝える本の刊行が続いた。
一方、地域主催の盆踊りの時期だけでなく、盆踊りファンによる自主イベントも開催されている。シーズンオフに盆踊りをおこなう「のらぼん(野良盆踊り)」、民謡レコードを視聴して踊る会「貝レコ」などが筆頭にあげられるが、こうしたイベントは音頭だけでなく民謡へと傾倒していく機会にもなっている。
このような場で活躍している民謡DJユニット(佐藤雄彦、斉藤匠)の俚謡山脈(りようさんみゃく)が、あるインタビューでこう語った。
「生活と共にあるのが民謡なんで、いまでも『顧客データ大漁打ち込み唄』とかあってもいいと思うんですけどね」(斉藤)
それは民謡を更新するということだ。PCのキーボードを叩いて稼ぐ自分の身体からうねりでるような唄と踊りは、肉体労働からリズムを得てできあがった民謡や踊りとは、おのずとちがってくるだろう。機械が介在する労働を、踊りはどう織り込んでいくのだろうか。
そんなことをふと考えたのは、山形県で米農家を営む阿部利勝(あべ・としかつ)さんの舞踏を見たからだ。
阿部利勝さんは1957年、山形県庄内(余目町)で農家の長男として生まれた。家を継ぎたくなくて、工業高校に入学。卒業後は、県立農業経営大学校(現県立農林大学校)に入学するが家出。しかしあてがなく、傷心のまま帰省し就農。以降、農協青年部に所属、「趣味はPTA役員」と公言するほどPTAに熱中し、さまざまな地域イベントの実行委員なども担う。2017年、庄内町の町長選に新人で立候補したが落選した。
阿部さんと出会ったのは、前稿で紹介した鶴岡に住む山伏の成瀬正憲さんをたずねたときだった。その日のことは忘れられない。
山形県鶴岡にて――循環と還元の世界に生きる 「地元の人は、山菜が群生しているところを“畑”って呼ぶんです」
親睦会の会場となったのは成瀬さんのご近所が建てた「集会所」と呼ばれるログハウスだった。阿部さんは寿司と一升瓶をもって迎えてくれた。同行した友人たちは、「阿部さんの“よかちん”最高ですよ」と繰り返す。夜が更けて酒瓶が空になった頃、その声に応え、阿部さんが一升瓶を股間にあてた。
「ハア〜、おれのちんちんよかちんちん」
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