真名子陽子(まなご・ようこ) ライター、エディター
大阪生まれ。ファッションデザインの専門学校を卒業後、デザイナーやファッションショーの制作などを経て、好奇心の赴くままに職歴を重ね、現在の仕事に落ち着く。レシピ本や観光情報誌、学校案内パンフレットなどの編集に携わる一方、再びめぐりあった舞台のおもしろさを広く伝えるべく、文化・エンタメジャンルのスターファイルで、役者インタビューなどを執筆している。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
『カリフォルニア物語』を「Next GENERATION」で上演
――お稽古が始まってどうですか?
藤原:仲原のリョーヴィン役の話ですけど、演出家から見ればすーっと入っていってるように見えたんでしょうけど、実はすごく悩んでたんです。けっこう痩せたんですよ。でも、僕はこういう苦しみ方ってとても素敵だな、いいなあと思って見ていました。役者には大きく分けて2タイプあって、いろいろ言われて苦しみながら伸びていく者と、あまり言われず、すーっと自分で掴んでいく2つのタイプがいるんです。(山本)芳樹なんかは後者。苦しめば苦しむほど、時間に基づいた何かが見えてくるという意味においては、今回の仲原のヒース役は良かったなと思います。彼の真面目な部分がヒースとちょっとリンクしてる部分があるので。結果、悩むとは思うんですけどね。
――やはり丁寧に役者さんのことを見ていますね。
藤原:今回のインタビューで仲原が言ってましたが、彼の中でリーダーという意識が……この話、長くなっていいですか?
――(笑)。大丈夫です!
藤原:リーダーになれる質の人間って、だいたい10年に1人しか出てこないんです。いろいろ条件はあるんですけど、どこかでイイ奴じゃないとできないんです。笠原(浩夫)も余計なことを言わないお父ちゃんタイプで、みんながその背中を見てついて行ってたんです。仲原はリーダーをやって今年で5年目くらいかな。第8期で先輩がたくさんいる中、笠原と曽世(海司)からリーダー役がビューンっと飛んできて、先輩に気を使わないといけないから、いろいろ悩んでたんですよ。でも、インタビューで「僕、ああだこうだ言うのをやめようと思ってるんです。むしろ自分がダメ出しされて、苦しんで悩んでるその背中を見せよう」と言ったでしょ。コイツ、一歩前に進んだなって、成長してるなって思いました。だからリョーヴィンをやったのはほんとに良かったですよ、尋常じゃないほど苦しんでいましたから。そうやって悩んで苦しんで、こうやって成長していくんだな、って、仲原はそういうタイプなんです。だから今回のヒース役も良いなと思ってるんです。若い子に細かいことをぐちゃぐちゃ言わず、セリフをきちっと覚えて、ダメ出しを受け止めて、彼のイメージ通りのことをやってると思います。すごいいい稽古場ですよ、今。
――リョーヴィン役はそんなに苦しまれていたんですね。
藤原:役者は自分自身のことが一番分からないんですよ。考えだしたらキリがないし、どん底までいっちゃいますから。でも、どこかで経験しなきゃいけなくて、通過しなきゃいけないんです。「自分ってこういうことができないんだ」ということを認識しないと、這い上がることができないんです。そういう意味でも、芳樹とのダブルキャストは良かったなと思います。あれを経験していなかったら、仲原のあのインタビューの言葉は出てないと思いますね。
――できないということを分からないとダメ……。
倉田:そうです。次へ進めないんです。自分がどれだけダメか、ということが分かってから扉が開きはじめる。ワークショップでも散々そこへ行く着くためのことをたくさんやります。
――イーヴ役の若林さんと千葉さんについては?
倉田:2人はイーヴの心情を絶対に分かってくれると思いました。強いコンプレックスを持ちながら、でもピュアな部分もあって、そしてまっすぐにヒースを好きという感情がある。それを2人は分かってくれるだろうなと思いました。いろんな役をやってきたし、次世代を担ってもらう主軸に第11期、12期がなっていくと思うんです。それで思い切ってイーヴ役をやってもらおうと。いつもならマツシン(松本慎也/第7期)などがやるところなんですけど、彼らにバトンを渡していきたくて。そして、歌が好きというのも大きいですね。すごく楽しんで歌っています。ヒースと舞台の上で信頼関係を結ぶところを稽古場から経験していってほしいと思います。若ちゃんも千葉くんも、脇役を今までよく頑張ってやってくれたので、今回は主に立つということはどういうことかを経験してほしいなと思っています。「Next GENERATION」へ繋げていきたいんです。
藤原:今回の2人のインタビューを聞いていてすごく衝撃だったんです。役を自分のものにするんじゃなくて、近づいていくにはどうしたらいいか、とか言うんですよ。聞いていてびっくりするんです。ああいうことをちゃんと言葉で言えるようになったんだと思いました。相手を感じてとか、歌の中にある心情をいかに感じるかとか、結局、環境が言わせるんですよ、そうことを。倉田淳という演出家がやりたい作品は、思考しないと物語へ入っていけないんです、脇役だろうが何だろうが。脇役にだってさっき言ったような生きがい感があるわけです。それをどうやったら自分のものにできるかというのを、稽古でのダメ出しやワークショップなどをやっていく中で言えるようになったんだと。僕はまず芝居を10年、しゃべるのは10年目以降で良いって言われてましたから。2人のインタビューを聞いてて、環境がそうさせるんだってうれしかったですね。
倉田:そうそう。
藤原:実際はまだ追い付いていないとは思うけど、そうやってイメージを持っていることがうれしいですね。それを言葉にしてインタビューで言うもんだから、ひっくりかえりましたよ(笑)!『アンナ・カレーニナ』を観に来た方が、「小劇場でこんな文学作品をやる劇団が少ない中、(舞台に立てて)幸せだよ、若い子たち」っておっしゃったんです。トルストイの言葉に触れて、思考に触れて、演劇経験として構築されていく。それは決して無駄にはならないんです。
――大変な面もあるだろうと思うんですけど、幸せな環境ですね。
藤原:これもしゃべりだしたらキリがないですけど、河内(喜一朗)がすごかったんです。『トーマの心臓』の初演の時に、「おい藤原、もうこれからは俺たちの時代じゃないんだ。だから、お前は制作をやってくれるか?」って言うんです。俺はまだ30代半ばくらいだったから、えーってなって。言うには、「これから入ってくるやつは、『トーマの心臓』を中心にオーディションをするから、センシティブじゃなきゃいけない。“人に対して何かを感じる”ということが根本にない奴はとらないから」と。そしてオーディションをして、「今はド素人だけど、10年後20年後のスタジオライフを支えるためには、コイツらを育てていく必要があるんだ」って言って、メインの役をずーっとさせたんです。それは他の劇団ではできない、超エリート教育なんです。ド素人にメイン級の役ですよ。それって劇団としては勇気がいることなのに、河内はへっちゃらなの。
当時は世間から「素人を集めて人気稼ぎして集客してる劇団」とか酷評されて、クソって思いながらも、10年後20年後をみてろよと。それがいつの間にかそういう噂はなくなって、それから20年経ってその時の役者たちはもう40代になりました。でも結果的に河内の言うとおりになりましたよ。だから、次はコイツらなんです。これはうちの伝統で、他の劇団では決してできないですよね。普通は10年くらい下積みをやってからすることを、2,3年の子にさせるんですから、大ばくちですよ。
倉田:その子の感性を信じて、オーディションでとってますから。
藤原:鍛えていけばできるって信じてるからできます。でもそれは、そうそう簡単なことではないんです。
――そこまで役者さんを信じられるってすごいですよね。……裏を返せば、信じるしかない。
倉田:そうなんです。オーディションで決めたからには、もうそれを信じるしかないんです。
藤原:うちの役者、10年くらいは棒読みですよ。だけど、棒読みだけど心にくるね、ってことは言われる。そういうところを信じてる。10年やれば、それがもっとフィットしたしゃべり方になるというところを信じてますね。そういう意味では、河内はいつも時代を先取りしてたような人でした。
倉田:河内がいなかったら続けることはできなかったですね。
◆公演情報◆
スタジオライフ『カリフォルニア物語』
2018年7月20日(金)~8月5日(日) 東京・THE POCKET
公式ホームページ
[スタッフ]
原作:吉田秋生「カリフォルニア物語」(小学館刊)
脚本・演出:倉田淳
[出演]
仲原裕之、宇佐見輝、澤井俊輝、若林健吾、千葉健玖、吉成奨人、伊藤清之、鈴木宏明、前木健太郎/中野亮輔(客演)、宮崎卓真(客演)/石飛幸治、藤原啓児 ほか
〈倉田淳プロフィル〉
東京都出身。1976年、演劇集団「円」演劇研究所に入所。第1期生。芥川比呂志に師事。氏の亡くなる1981年まで演出助手をつとめた。1985年、河内喜一朗と共にスタジオライフ結成、現在に至る。劇団活動の他、1994年より西武百貨店船橋コミュニティ・カレッジの演劇コースの講師を務めた。また英国の演劇事情にも通じており、その方面での執筆、コーディネーターも行っている。
〈藤原啓児プロフィル〉
劇団スタジオライフ代表。スタジオライフシニア(1987年入団)。30年以上にわたり劇団員として活躍。劇団以外にも数々の作品に出演している。スタジオライフ作品は、『アンナ・カレーニナ』『はみだしっ子』『卒塔婆小町』『THE SMALL POPPIES』『エッグスタンド』など、ほぼ全作品に出演しながら若手の育成を行っている。