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こまつ座『母と暮せば』制作発表会見

「新たな母と子の物語を」~「戦後“命”の三部作」第三弾

大原薫 演劇ライター


拡大『母と暮せば』制作発表会見から、左から 井上麻矢、畑澤聖悟、富田靖子、松下洸平=冨田実布撮影

 劇団こまつ座『母と暮せば』の制作発表が行われた。代表作の一つである『父と暮せば』と対となる作品を、という井上ひさしの構想を受け継いで山田洋次監督により制作された映画『母と暮せば』。長崎で被爆した母と亡き息子の心の交流をつづった監督初のファンタジー作品は大きな話題と感動を呼んだ。

 2018年10月、『母と暮せば』が新たに二人芝居として舞台化される。本作は『父と暮せば』(井上ひさし作)、『木の上の軍隊』(蓬莱竜太作)に続く、こまつ座「戦後“命”の三部作」の第三弾となる。脚本は畑澤聖悟、演出は栗山民也。母親役に富田靖子、亡き息子・浩二役に松下洸平が出演する。

 7月27日、紀伊国屋ホールにて行われた制作発表には畑澤、富田、松下、こまつ座代表の井上麻矢が登壇した。

演劇を楽しむ余裕を持てたらいいな

拡大『母と暮せば』制作発表会見から、松下洸平=冨田実布撮影

 劇団「渡辺源四郎商店」主宰として青森県を本拠地に全国的に演劇活動を行い、現役の高校教諭・演劇部顧問でもある畑澤は、「『ひょっこりひょうたん島』世代で、初舞台が『十一ぴきのネコ』だった僕にとって、井上ひさしさんは神様のような人。とても光栄に思っています。僕は高校教諭をしているが、7月28日の青森空襲の日を知らない高校生もいる。何があったかを考えるということは、物を作る人間としてはとても大事なこと。導かれてこの場にいるという気がします」と述べた。

 富田靖子は「映画では吉永小百合さんがやられた役を自分がやるなんて、そんな…というのが正直なところです。しかも、7年ぶりの舞台。なんでお話を受けちゃったんだろうと思って(笑)、今プレッシャーで『クーっ』となっているところです。しかし、自分は九州出身。(長崎を舞台としたこの作品を)一生懸命やりたいと思います。あとは息子に託します」とユーモアを交えて挨拶。

 松下洸平は「こまつ座『戦後“命”の三部作』の『木の上の軍隊』にも参加させていただき、そのときいろいろなことを考え、勉強しました。家族とは何か、人と人との争いから生まれる悲しみはどんなものなのか、戦争を知らない世代に届けられるように、一生懸命このお芝居と向き合っていかないといけないんだろうなと大きなプレッシャーを感じています。富田さんが『息子に託す』と言われたので、さらに大きなプレッシャーが……(笑)。畑澤さんの書いてくださるまっすぐな戯曲と、栗山さんの繊細で美しい演出に俳優として演劇を楽しむ余裕を持てたらいいなと思います」と思いを語った。

永遠に前へと向かう声として語られ続けられることを願って

拡大『母と暮せば』制作発表会見から、左から 畑澤聖悟、富田靖子、松下洸平=冨田実布撮影

 当日、会見には参加できなかった演出の栗山民也、映画版監督で今回の舞台の監修も担当する山田洋次からのコメントが寄せられた。

栗山民也コメント
 「その話が『母と暮らせば』のことだったのかはわからないが、生前、井上さんと長崎について何度か雑談をした。ある医師の話や、教会や、坂の多いことや、長崎の鐘などについて。そして、『とにかく、広島、長崎、そして沖縄を書かないうちは、死ねません』と、いつも最後は笑いながら、力強くそうおっしゃっていた。その時の記憶が、今回新たな作品に熱い温度を与えてくれるだろう。人間をこなごなに砕いた不条理と向き合い、大事なことをしっかりと受けとめ、今、語り継いでいかなければならない。その新たな物語を戯曲化するのは、いつかご一緒したいと願っていた畑澤聖悟さんだ。繊細に大胆に、混沌とした世界のなかに在る登場人物たちを、潔く生かす戯曲家だと思っている。
 富田さんと洸平。とにかく、早く稽古場でお二人の生の声を聞きたい。その声が、永遠に前へと向かう声としてずっと語られ続けられることを願って」

山田洋次コメント
 「『父と暮らせば』に次ぐ『母と暮らせば』を芝居にするという企画を聞いた時、大変なチャレンジだと思いました。長崎を舞台にして井上さんに負けないだけの戯曲を書くのは大変なことだと思いますが、畑澤聖悟さんが喜んで引き受けてくれたと聞いて僕はかなり安心しています。井上さんとも僕とも違う魅力的な『母と暮らせば』ができると心から期待しています。
 この三部作がこれからも繰り返し繰り返し上演されることが今のこの国、戦争のにおいがぷんぷんするような世界にとって非常に大事なことでしょう。観客もみんなそういう認識を持ってこれらの作品を迎えてくれるに違いないし、匹敵するだけの『母と暮らせば』を作ってください」

映画の魂を受け取りながら、違うものを作りたい

拡大『母と暮せば』制作発表会見から、富田靖子(左)と松下洸平=冨田実布撮影

 このコメントを受けて、畑澤は「ハードルが上がる、上がる(笑)。映画をそのままなぞるのでは意味がない。映画の魂を受け取りながら、映画とは違うものを作っていきたい。『父と暮せば』と比較されるという宿命があり、喜んで引き受けた後にだいぶ後悔したが(笑)、最後まで脚本作りに全力で臨みたいと思います」。

 富田は「久しぶりの舞台で、板の上に立てることが幸せだなと思います。台本に書かれていること、井上ひさしさんが伝えたかったであろうこと、これから栗山さんと洸平君と作り上げていく中でこの板の上で生きていく様を皆さんに届けられたらと、ただそれだけです。頑張ります」。

 松下は「この間、栗山さんと『母と暮せば』について話をしたとき、『この作品は一切妥協を許さない、とんでもない作品にするぞ』とおっしゃっていて、栗山さんの覚悟を感じました。僕は井上ひさしさんの戯曲の中で好きなのが、悲劇の中にある喜劇、虐げられた人間がどう希望を見出していくかということなんです。畑澤さんの台本からはこの作品への熱い思いを感じたので、それを富田さんと二人で一手に引き受けて、『父と暮せば』とはまた違う、母と子の物語を作っていければと思います」と、思いを新たにした。

壮絶な喪失感と向き合いながら

拡大『母と暮せば』制作発表会見から、富田靖子=冨田実布撮影

 「今伝えたいことは?」という質問に対して、畑澤は「まず、3.11(東日本大震災)のことを考え、どうしたら長崎で起きたことがどう現代につなげられるのかを考えました。3.11で亡くなった方と残された者との関係をずっとこの7年間題材にしてきたんですけれども、『母と暮せば』はそれとつながるところがある。今生きている人間と亡くなってしまった人との関係をしっかり捉え直してみようと考えています」と、舞台化にあたっての思いを吐露した。

 また、今回どう取り組むかと問われて、松下は「浩二は死の世界に住んでいて、誰も知らない部分を演じていくという難しさはあると思う。映画版で『幸せは生きている人間のためにある』という台詞が印象的です。この世に存在しないものを演じるのに必要なのは何かと想像すると、生前の記憶かなと思うんです。どんな夢を抱いて生きていたかという証をしっかり持っていないと死んだ浩二にはなれないと思う。母親役の富田さんとコミュニケーションを取ったり、先日長崎に事前取材に行きましたが、当時の長崎の資料を調べたりしながら、いろいろなものをちょっとずつ身につけて稽古に臨みたいと思います」と答えた。

 一方、富田は「大切にしたいなと思っているのは、息子を失った喪失感。これはきっとその人間が死ぬまできっと治ることのない人の傷だと思っています。壮絶な喪失感とひたすら向き合いながら作っていければなと思います」と語った。

 こまつ座第124回公演「母と暮せば」は10月5日~21日、紀伊國屋ホールにて上演される。

◆公演情報◆
こまつ座「戦後“命”の三部作」第三弾
こまつ座第124回公演・紀伊國屋書店提携
『母と暮せば』
2018年10月5日(金)~10月21日(日) 東京・紀伊國屋ホール
公式ホームページ
※8月4日(土)からチケットの前売り開始
[スタッフ]
原案:井上ひさし
作:畑澤聖悟
演出:栗山民也
[出演]
富田靖子、松下洸平

筆者

大原薫

大原薫(おおはら・かおる) 演劇ライター

演劇ライターとして雑誌やWEB、公演パンフレットなどで執筆する。心を震わせる作品との出会いを多くの方と共有できることが、何よりの喜び。ブロードウェー・ミュージカルに惹かれて毎年ニューヨークを訪れ、現地の熱気を日本に伝えている。

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