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伊礼彼方取材会レポート

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』再演にトミー役で出演

真名子陽子 ライター、エディター


拡大伊礼彼方=安田新之助撮影

 ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』が9月~10月に再演される。フランキー・ヴァリ&ザ・フォー・シーズンズを描いた実話に基づいたストーリーで、2016年に初演された日本人キャスト版は全日程でチケットは完売し、第42回菊田一夫演劇賞、第24回読売演劇大賞など、数々の演劇賞を受賞した。初演は東京公演のみだったが、今回は地方公演が各地で上演される。キャストは、ホワイトとブルーの両チームでフランキー・ヴァリは初演から引き続き中川晃教。ホワイトチームは初演と同じキャストで(中河内雅貴、海宝直人、福井晶一)、今回新たに作られたブルーチームには、続演の矢崎広に伊礼彼方とSpiが新たに加わる。ブルーチームでトミー・デヴィート役を演じる伊礼彼方の取材会が行われ、この作品への思いと役者としての今の心境などを熱く語ってくれた。

僕にチンピラ的要素が内在している

拡大ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』

記者:出演が決まったときの感想を聞かせてください。

伊礼:ザ・フォー・シーズンズの曲は数曲知っていましたが、こういうグループが歌っていたということまでは知らなかったんです。映画も見ましたが、初演を観たときに映画よりおもしろいなと感じました。やはり楽曲を扱う作品はLIVEの方が迫力がありますし、とても生命力にあふれた作品で、自分も出てみたいなと思いましたね。観終わって藤岡 (藤岡正明・初演のトミー役)と話したんですが、すでに再演が決まっていて、藤岡が「僕は出られないから、トミー役はぜひ伊礼くんにやって欲しい」とこっそり言ってくれたんです。そう言うなら喜んでと、何の確約もないのに言ってまして(笑)、フタを開けたらオーディションでした。

記者:そのトミーの魅力はどのように感じていますか?

伊礼:僕にチンピラ的要素が内在しているんで(笑)。某神奈川県の海の近くで、そういう方が多い地域で育ちましたから、何かしら影響を受けているんですね。元々、そういった気質を持ってますから、作品を観た時にトミーが一番カッコいいなと思いましたし、やりたいと思ったんです。トミーの生き方や言葉遣いに共感できますし、とても魅力的な役だと思います。僕は借金して失敗などはしてませんけどね(笑)。

 それと、フランキー・ヴァリへの愛情は一番あったんじゃないかな。だから最後はフランキーに助けられたんじゃないかなと僕は思うんです。そういう人徳がある人なんじゃないかなと思います。憎めない、こいつだったらしょうがないなと思わせる人……そういう人いますよね。

記者:トミー役を演じることについてはいかがですか?

伊礼:トミーというキャラクターを演じられることがすごくうれしいです。今までは、物語の途中から出たり、後半になって刺激的な出方をしたりという役がほとんどで、芝居の冒頭から物語を立ち上げるということをしたことがなかったんです。『ジャージー・ボーイズ』は春・夏・秋・冬という4つの場面で構成されているんですけど、トミーは最初の春を担当するんですが、いかにお客さまを巻き込むか……グループの説明や曲の説明、楽しみ方の説明などを含めて、彼が担っているポジションはとても重要です。だから、喜びと責任を感じていますね。

トミー役がやりたいとアピールした

拡大伊礼彼方=安田新之助撮影

記者:オーディションはトミー役で受けられたんですか?

伊礼:いえ、ニック役も合わせて受けてくださいと言われました。でも、僕はトミー役がすごくやりたいですとアピールしたんです。僕の音域はトミーではないでしょうか?と(笑)。僕は低音も出ますので、もしかしたらニック役になるかもと思ったんですね……先ほども言いましたが、途中でバトンを受け取ってつないでいくということは経験していますが、冒頭から立ち上げるということ、これってとても大変なんですね。それを経験したいと思っていましたので、“やりたいアピール”をかなりしましたね。ニックの歌よりも音程を良くして歌ったりして(笑)。

記者:(笑)……姑息な手を!

伊礼:(笑)。日本って海外と違ってオーディションが少ないと思うんです。プロデューサーや演出家がこの役はこの役者が良いんじゃないかと決めてオファーするんですよね。だから、オーディションとなるとやはり自分の欲が出ますよね、絶対にこの役を取りたい、やってみたいと。だから全力で取りにいきますよ、姑息と言われようとも!(笑)。

記者:音楽の魅力は?

伊礼:名曲がそろっていますし、一番の魅力はフランキー・ヴァリの声質ですね。5月にコンサートがあったのですが、その時に難しいなと思ったのはコーラスラインです。ほぼ全曲、全員がコーラスをするんですね。だから、ほぼ全曲歌うことになるんですよ。そして、強弱や何拍めで切るといった制約が他の作品の曲よりもとても多いんです。

 ジュークボックス・ミュージカルと言われてますが、僕はこの作品は芝居だと思っているんです。ザ・フォー・シンズンズ4人の芝居を作ったら音楽が付いてきた、という感じですね。芝居があるから曲が活きますし、曲があるから芝居が活きます。そしてこの作品は役の感情を歌にしているのではなく切り離されています。そこがとても魅力的です。トミー自身の心情を歌わずに、ザ・フォー・シーズンズのトミーにスイッチして歌う。その表と裏を見せることがとてもおもしろいなと感じています。誰にでも裏と表ってあるじゃないですか。そこが人間の魅力的なところじゃないかなと思いますし、その影の部分が見られるというのはおもしろいですね。

表と裏の間をつなげる役割がモニター

拡大伊礼彼方=安田新之助撮影

記者:演出の魅力はどこにあると思いますか?

伊礼:舞台の両サイドにモニターを置いて、それを通してお客さまに語りかける、その手法が魅力的だなと思います。先ほど言った表と裏の間をつなげる役割がモニターなんだと思います。楽屋のシーンでは実際に舞台上でカメラを回して、その映像をモニターに映すんですね。お客さまと一緒にザ・フォー・シーズンズと4人が育っていく姿を追っていく――そんな風に思っています。でも、観終わってすぐに、もっとモニターを大きくしたらいいんじゃないかとは言いましたけどね。後方だと見えないんじゃないかなと思って。

記者:そうやって意見も言っていかれるんですね。

伊礼:言うことによって良いものができるという経験をしてからは言うようにしています。ものを作る時に演出家と役者は対等でないといけないと思っているんです。お互いに意見交換をしてより良いものをつくる。双方の頭の中にある概念を出し合った方が良いと思うんですよね。

 以前、言いたいことがあるのに言えなくて物怖じしている僕に、ある指揮者の方が、「言いたいことは言った方が良いよ、思うことはどんどん言っていこう。それがお客さまに必ず伝わるから」と言ってくださったんです。その言葉はとてもうれしかったですね。その後、意見を言うようになってからは腑に落ちて舞台に立てるようになりました。それまでは言われたままやっていたので、納得しないままやることもあったんです。自信が持てなかったんですね。でも、意見交換して話し合うことによって、できること、できないことの分別がつきましたし、自信を持って堂々と舞台に立てるようになりました。そういう意味では、時にやり合ってもいいんじゃないかなとも思っています。

記者:演出家と積極的に意見交換されるんですね。

伊礼:役者同士ももちろん話し合う必要がありますけど、アンサンブルと言われる作品を支えてくれている方がまだ遠慮気味なんです、メインに立つ役者たちに。もう少しコミュニケーションがとれるようになると、ミュージカル界はもっと底上げされるんじゃないかなと思っています。だから、今はなるべく積極的に、個人的にですけどその活動をしているんです(笑)。インタビュアーみたいに「どう? なにか思うことある?」って聞くようにしています。「もうちょっとこうしようと思うんだけど、どう見える?」って聞くと、「それはやり過ぎかもしれないです」って言ってくれたりします。でも、最近の若い子は堂々と言うし、反対に言い過ぎじゃないかな……もうちょっと言い方があるぞって思ったりすることもありますけどね(笑)。僕がミュージカルをやり始めた頃よりは、いい雰囲気の現場になってきていると思います。

セリフを交わした方が相手のことがわかる

拡大伊礼彼方=安田新之助撮影

記者:共演者について。両チームでフランキー・ヴァリを演じる中川晃教さんとは?

伊礼:コンサートなどで一緒になったことはありましたが『ビューティフル』で初めてちゃんと共演したんですけど、役に没頭するタイプだなとその時にわかったので、今回はもっと話し合っていければと思っています。話し合ってできなかったら、とりあえずやってみよう、そんな感じです。もっとセッションしようってことですね。ジャズミュージシャンはセッションしながらお互いに自己紹介するようなところがあるじゃないですか。そういうのが芝居にもあって、初めましてとあいさつするより、セリフを交わした方が相手のことがわかるんです。ミュージカルではコーラスをいきなり合わせたりするので、音楽を通してお互いを知ることができます。この人はこういう声を出すんだ、この言葉にはこういう圧をかけるんだ、ってその人を垣間見られる瞬間がたくさんあるんです。

記者:舞台のおもしろさですね。

伊礼:そうなんです。台本をひとりで読んでいると自分だけの想像で読みますが、相手とセリフを合わせた時にその想像と違うことが返ってくる。こういう捉え方があるんだとか、この人優しい人かもしれないな、ガマン強い人なんじゃないかなとか……。そこが芝居の好きなところですね。お会いするまでどんな武器が返ってくるかわからないというのが、舞台と出会って感じた一番楽しい瞬間ですね。作っているときが一番楽しいです。

記者:やはりブルーチームを観て欲しいですよね。

伊礼:もちろんですよ! 本場の舞台を観たいけど……という人は、ブルーチームですね。新体制はハーフが2人も入っていますから(笑)、ブロードウェイにより近い雰囲気で楽しめますよ! 正統派のジャパニーズで観たいという人はホワイトチームを観ていただいてね。

記者:(笑)。それは公式ですか?

伊礼:もちろん公式でお願いします!(笑)。でもね、Spiと初めて会ったとき本当にびっくりしたんです。スーパーマンが変身する前のサラリーマンの役者さんにそっくりで、ブロードウェイだ!って思ったので、公式と言っていただいて良いですよ(笑)。

おっさん役をやりたいとずっと思っている

拡大伊礼彼方=安田新之助撮影

記者:10代で音楽をはじめて、20代で役者の道へ、そして30代の今、これまでのキャリアがこの作品にどう活きていますか?

伊礼:コードはわかるのですが譜面はあまり読めないんです。でも、音感は良い方だと思いますし、曲の捉え方も早い方じゃないかなと思います。それは音楽活動をやっていたおかげだと思いますね。あとは、『エリザベート』のルキーニ役がカッコいいなと思っていて、それは作品を立ち上げて、且つ引っ張って他の役者へ渡していく、いわゆるストーリーテラーなんですよね。それには芝居力が必要で、ちゃんと舞台に足がついていないとダメなんです。若くて経験の浅い方がやるとおそらく自己流になってしまって、お客さまを巻き込めずに自己満足な芝居になってしまう危うさがあります。そういう意味では、20代にいろんな経験をさせてもらったことはトミー役に活かせるんじゃないかなと思っています。自己満足ではなく何をお客さまに届けるか、どう本編へ切り替えるか、そういったことができるようになっているのではと思っています。20代だったらこの役に対して興味本位しかなかったと思います。でも今の僕だと、次へバトンタッチできるかなと思います。

記者:40代へ向けてつなげていけますね。

伊礼:そうですね。ミュージカルに関して言うと若い役者がやる役は高音で歌う役が多くて、僕はキーが低いので苦手な音を出さないといけないというプレッシャーがあったんです。早く年齢を重ねて自分の声に合った役をやりたいなと思っていたら、『レ・ミゼラブル』のジャベール役をさせていただくことになりました。自分の得意とする音域に合うんですね。おっさん役をやりたいとずっと思っていたことが近づいてきているなと感じています。

記者:最後にメッセージをお願いします。

伊礼:先日のジャージー・ボーイズコンサートで感じたんですが、みんなのこの作品への向き合い方が真っすぐで、モチベーションが高いんですよね。作品がそうさせるのか、カンパニーがそうさせるのか……初演から引き続き出られる方のエネルギーの高さに感動しました。その初演組との差を感じたので、これは早々に埋めなきゃいけないなと、こっそり歌稽古をいれてもらっています(笑)。

 そして、ちょい悪おじさんを目指していますので、60歳になっても舞台に立ち続けたいです。これからどう変化していくのか、自分自身が期待しています。そのために一つ一つの役をしっかりとまっとうして、30代で築いたものを40代で、それを50代、60代へとつなげていけたら良いなと思っています。30代で演じるトミーをぜひ観にいらしてください。

◆公演情報◆
ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』
2018年9月7日(金)~2018年10月3日(水) 東京・シアタークリエ
2018年10月8日(月・祝) 秋田・大館市民文化会館
2018年10月11日(木)~10月12日(金) 岩手・岩手県民会館
2018年10月17日(水)~18日(木) 愛知・日本特殊陶業市民会館中ホール
2018年10月24日(水)~10月28日(日) 大阪・新歌舞伎座
2018年11月3日(土)~11月4日(日) 福岡・久留米シティプラザ ザ・グランドホール
〈凱旋公演〉
11月10日(土)~11月11日(日) 神奈川・神奈川県民ホール
公式ホームページ
[スタッフ]
翻訳:小田島恒志
訳詞:高橋亜子
演出:藤田俊太郎
[出演]
中川晃教、中河内雅貴・伊礼彼方(Wキャスト)、海宝直人・矢崎広(Wキャスト)、福井晶一・Spi(Wキャスト)、太田基裕、阿部裕、畠中洋 ほか

筆者

真名子陽子

真名子陽子(まなご・ようこ) ライター、エディター

大阪生まれ。ファッションデザインの専門学校を卒業後、デザイナーやファッションショーの制作などを経て、好奇心の赴くままに職歴を重ね、現在の仕事に落ち着く。レシピ本や観光情報誌、学校案内パンフレットなどの編集に携わる一方、再びめぐりあった舞台のおもしろさを広く伝えるべく、文化・エンタメジャンルのスターファイルで、役者インタビューなどを執筆している。

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