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 ここで重要なのは、やはり先住民族の権利宣言である。宣言は、文化――広く宗教・儀礼・日々の衣食住のあり方まで含めて――や伝統の継承を権利として認めているが(第11~12条等)、さらに土地・資源に対する権利等を最も重要な権利と見なしている(前述)。

 これを保障せんとすれば、おのずと所有権に関わる問題が発生するが、アイヌの宗教的・精神的生活の中心に置かれるイナウ(木幣)用の樹木採集のために、かつてのコタン(集落)を取り巻いていた山々の所有権を、アイヌに返還すべきであろう(本来アイヌが所有意識を持っていなかった点からすれば利用権と記すべきだが、現状ではそれでは不十分である)。

 物質的生活の面でも同じことを主張しなければならない。伝統的なアイヌの衣食住を維持するためには、各種の木材・樹皮・植物等が不可欠である。例えばアットゥシ(厚羽織り)を始めとする衣服作りのためには、オヒョウニレの樹皮を自由に採集できなければならない。コタン周辺の一定の国公有林、社有林の返還が不可欠である。

 貝澤正氏は、二風谷(にぶたに)コタンの裏山を所有する三井物産社長に対し返還を求めた(貝澤正『アイヌ わが人生』岩波書店、1993年、186頁以下)。私は現行法制下にあって当社有林の返還を合法的に請求する方法を知らない。だが、少なくとも三井物産は、率先してアイヌコタンにそれを返すべきであろう。その所有は当時の法に基づく合法的なものだったかもしれないが(もっとも当時ほとんど法を曲げてアイヌから土地を奪った者も多かった)、実際の法の執行、道庁側の対応等を見れば、瑕疵が多かったと判断せざるをえない。

 それを踏まえたとき、いま特別法を用いてアイヌを救済することは可能である。法改定による、所有者への補償を前提した返還も可能だが、社有林の所有企業それ自体が、企業としての社会的責任を自覚しつつ率先して返還できるなら、おそらく最も望ましい。

 先住民に対する土地の返還は、実際、世界各地で行われている。貝澤氏もサハリン州政府と先住少数民の土地返還協定にふれているが(同前、194頁)、オーストラリアでも先住民に対する土地返還が進んでいる(友永雄吾『オーストラリア先住民の土地権と環境管理』明石書店、2013年、33頁)。

 なるほど「土地に関する権利」は、国際人権規約・差別撤廃条約においてどこまでを含意するのかは、各国の判断に委ねられているようである。つまり、所有権まで含むと考えるべきか、利用権を認めるていどと考えるべきか、がそれである(小坂田裕子『先住民族と国際法――剥奪の歴史から権利の承認へ』信山社、2017年、214頁)。「有識者懇談会」報告書はその辺をあいまいなままにしているが――「土地・資源の利活用については、一定の政策的配慮が必要」と記すのみ(28頁)――一定条件下での所有権を認めるべきであろう。

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筆者

杉田聡

杉田聡(すぎた・さとし) 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

1953年生まれ。帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)。著書に、『福沢諭吉と帝国主義イデオロギー』(花伝社)、『逃げられない性犯罪被害者——無謀な最高裁判決』(編著、青弓社)、『レイプの政治学——レイプ神話と「性=人格原則」』(明石書店)、『AV神話——アダルトビデオをまねてはいけない』(大月書店)、『男権主義的セクシュアリティ——ポルノ・買売春擁護論批判』(青木書店)、『天は人の下に人を造る——「福沢諭吉神話」を超えて』(インパクト出版会)、『カント哲学と現代——疎外・啓蒙・正義・環境・ジェンダー』(行路社)、『「3・11」後の技術と人間——技術的理性への問い』(世界思想社)、『「買い物難民」をなくせ!——消える商店街、孤立する高齢者』(中公新書ラクレ)、など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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